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18.甘く見積もっても二十点

18.甘く見積もっても二十点



「何ですか? サラ先輩」

「ミウって、わかってない、よね」

「え。喧嘩売ってます? 買いませんけど」

 図太いだけなのかも知れないが、サラにとっては自分にこれだけストレートに言い返せる度胸も気に入っている。


 ――何で、コレで、そんな自己評価、低いんだろう?


 パクリとまた一つピンチョスを口に運ぶ。

 もし。

「……サラ先輩?」

 サラの瞳に映るミウは、先程の言葉など微塵(みじん)も残さないキョトンとした顔で首を傾げている。


 ――もし、全部、暴いたら。自己評価、変わるの、かな?


 この少女の全てを、この少女自身に暴いてさらしたら、そうしたら少しは素直に自身の評価を見直すだろうか?

 そんな考えが(ヘビ)のように頭をもたげる。

「あ。あの、サラ先輩? なに考えてます? 何か、トリハダが……。怖いです!」

「……別に」

 考えただけだ。

 この反応を見ると、多分やっちゃダメなものだろうと考えを改める。

「……うう。一回だけですからね! はい」

「え」

 何が? と思う前に、ミウがピンチョスを突き出した。

 チラチラ人目を気にしているし、少し涙目で顔が赤いのは恥ずかしいからだろう。

 突き出したピンチョスにサラが食いつかない事を睨んでくる。

「早くして下さい! 食べないんですか!?」

 とりあえず食べないと怒りそうな気配に、サラはパクっと一口で具材をさらって食べ、ミウはサッと手を引っ込めた。色気も甘さもあったもんじゃない。


 ――でも、まあ、いいか。


 勘違いではあるが、『あーん』をさせるのは達成した。

 採点したら甘く見積もっても二十点くらいだとしても。

 達成した事には違いない。

 たとえそれが、どうみても金網越しでも怖い猛獣にエサをあげる光景に近いものだとしても、である。

 食べて、ドリンクを飲んで。サラはちらりとランチボックスの実に視線を向けた。

「開けて、みれば?」

「そうですね。何が入ってるかなー……」

 ミウが(フタ)を取ると中から甘い匂いがふわりと(ただよ)ってくる。

「わぁ。マカロンに焼いたメレンゲ菓子、クッキー、プレッツェルとマシュマロ……全部お菓子の詰め合わせ」

 開けたミウの顔がキラキラしているから、恐らくミウにとって当たりだ。

 持ち帰るにしても困らない内容だから良かったのだろう。

「サラ先輩、デザート食べられますか?」

 お菓子の詰め合わせをデザートにどうかとミウが聞いてくる。

「これくらい、なら」

 サラはメレンゲの一つをつまんで口に入れた。

 しゅわ、ほろ。口の中で瞬く間にザラリとしたメレンゲが崩れて溶ける。

 甘さが広がった後、静かに消えていく。

 ふとミウの方を見ると、幸せそうに菓子を口にして笑顔である。


 ――切り替え、早い。


 もう『あーん』は記憶からキレイサッパリ無くなっているだろう。

「……お土産(みやげ)、見る?」

「そうですね。買って、受付(クローク)に預ければ良いんでしたっけ?」

「そう」

「お土産を持ち歩かないのは良いですよね。お弁当でも思いましたけど」

 ちなみに売店から家へ直接転送する事も可能だ。

 残ったお菓子と空になったバスケットを一度受付に預け、土産物を販売している店へと足を向ける。

 ヌイグルミや個包装の菓子詰め合わせなど、値段も比較的お手頃価格の品々が並ぶ棚を見て、ミウはさっそく職場や家族、友人への土産を買い求めていた。

「んー。やっぱり、シェルディナード先輩の執務室用でこのスナック菓子を全種類、一番大きいサイズで……」

「……」

「それから、部署のみんな用はこっちの」


 ――ルーちゃんは別として……。他人へのお土産、そんなに楽しい?


 嬉々として。そして真面目に選ぶミウは楽しそうに見える。

 他人が喜ぶ事を考えてそんな真剣になれるものかと、サラは不思議そうに首を傾げた。

 わからない。

 特定の相手以外、全て等しく有象無象(うぞうむぞう)としか思えないサラからするとミウのその様子はとても不可解(ふかかい)だ。

「…………」

 サラ自身、自分がそういった心の面でどこか他者より欠けている部分があるのは知っている。

 周囲の者が涙するような物語や場面でも、サラの心には(わず)かな波紋(はもん)さえ起こらない。

 物語は物語で架空のものであり、事実だとしても既に起こった過去である。当事者でもなく、その場面に巻き込まれたのが自身や自身が大切にしている者でない限り、恐らく目の前で死んだとしても何も思わない。

 思ったとしても、邪魔だなとかそんな程度で、それは恐らく何も思わないより酷いし、口に出してはいけないものだ。

 しかしサラはそう思ってしまう。それを自覚している。


 ――嗚呼。だから、かな。


 自分には有象無象のその他をそれぞれ個として認識して、心を大小差はあれど(かたむ)けられる。

 そういう能力がミウにはあるとサラは感じていて。

 別に普通の事だろう。特別でも何でもない。

 けれど。

 サラには欠けたそれが、だからこそ光って見えるのかも知れない。


 ――でも……。それも、違う? かも。


 特別ではないから。現にミウ以外にも心友も持っている能力だし、それこそ有象無象も持っているだろう。

 だが、サラに光って見えるのはサラにとって大切な人たちだけ。

 そんな見え方をするのはきっと、また別の理由があるからなのだろう。

 進捗確認ありがとうございます。

 ブックマークも嬉しいです。

 我ながら単純ですが、どちらもすごくやる気が出るので明日も更新です。

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