17.わかってない
17.わかってない
どうしてくれようか。
そんな心境で、サラは目の前のミウを見た。
いくら何でもこれは酷い。
何がって、たとえ失恋直後とは言え鈍感過ぎるし割きり過ぎだ。
――まあ。相手、が、ルーちゃんだから、ショックなの、わかる、けど。
心友を射止められなくて落ち込むのは仕方ない。わかる。自分がミウでも落ち込むだろう。
仮に自分がミウだったらそもそも絶対勝つけど、などと思いつつ、サラは紫掛かった藍色の瞳でミウを見つめた。
今、新しい恋が考えられないのは、それらから理解している。時間も必要だろう。
が、しかし。
だからと言って、ここまで恋愛脳を停止させて鈍化に極振りして良いかというとそれは違うのでは。
少なくともサラは違うと思う。
ありていに言って、どうしてくれよう。
そんな言葉しか浮かばない。
失恋の後遺症にしても重すぎる。
「あーん……」
「怖い。怖いです! 無表情かつ威圧してそんなコト言われても恐怖しかないです!?」
失礼な。
だが予想出来た返しでもある。何故か昔からミウは自分の事を怖いとやたら言うから。
「威圧、なんて、してない、よ?」
「…………」
「その、ウソだ、って顔、なに」
本当に『威圧』なんてしてない。仮にしてたらミウは恐らく今、息をしていないだろう。
――オレ、ちゃんと抑えてる、よ、ね?
軽く瞳を閉じて身の内側に意識を向けてみる。
幾つもの箱を重ねるようにして厳重に抑えている魔力が一滴、一欠片たりともこぼれていないのを確認して、再び瞳を開けた。
「威圧、してない」
今日は特に厳重に抑えているのだから。
黒陽。それは称号。
サラの家で代々長子に受け継がれてきた力の結晶。
代を経るごとにその力は強まるそれは、力であり毒でもある。
大きな力を受け止める器には、それに見合う『強度』が必要なのだから。
――最近、は、大分安定、してる、し。
器の強度が足りない場合、力は身体を蝕みやがて崩壊させる。
そうならない為に、力を受け継いだ長子は皆、力を各々のやり方で抑え込み安定させてきた。
サラの場合それに一番適していたのが『睡眠』と趣味への『没頭』だったわけで。
加えていつでも抑えなければいけないほど魔力に溢れるサラは、食事による生命維持の意義が薄かった。
食べないから、胃の許容量も少ない。そのままそれを続けるのは流石に良くないので、シェルディナードあたりはそれもあり、とりあえず何かを食べさせようとしていた。
つまりそのサラが、『あーん』させようとはしたが、きちんと食べる意志を示したのは非常に珍しい事で、ついでに言うとシェルディナード以外の他人にそれをするのはもっと珍しい。希少の域である。
何故なら普段必要と思わない事をあえて『他人の為に』するのだから。多分そんな事はわからない、わかってないだろうとは承知済み。
とは言え、目の前で『大丈夫かコイツ』の顔をされるとサラでも若干傷つく。若干で済むのはサラだからかも知れないし、ミウがそんな態度を取るのもサラの普段が普段な事も否めない。
つまり因果応報。
「…………」
どうにも失敗したらしい『あーん』に憮然とした表情(本人は。他人が見ると無表情)で、渋々サラはそれを自分の口に運ぶ。
「……」
「……」
「……」
「あの、味。どうですか?」
黙々と咀嚼していたらミウが恐る恐る聞いてきた。
「……?」
「あ。はい。良いです。何でもないです」
「まだ、何も言ってない、けど」
「大体わかります。特に可もなく不可もなしですよね」
美味しい。そう思ったが、このセリフの後に言っても素直に受け取られないだろうというのは、サラにもわかる。
――ほんとに、わかってない、よね。
本当にどうしてくれよう。
もぐもぐとピンチョスを食べながら、サラはミウを見る。
――自己評価が、低すぎる。
高きゃ良いもんじゃないが、ミウは逆に低すぎるとサラは思う。
客観的に見て、出会った頃のミウならばいざ知らず。今のミウはそんなに価値は低くない。
価値とは能力とか諸々含めてだが。
領主の右腕的存在で部下からもそこそこ人望があり、庶民ではあるがその役職にいられるだけの能力があるのだから身分など度外視できる。
付け加えると、シェルディナードの元婚約者と張り合う為に魔力も増やして寿命も延ばした。魔力量も寿命も、シェルディナードの家つまり下位とは言え貴族家に入れるレベル。
性格だってサラが見た限りは悪くない。
――幾らでも、いると思う、けど。
そんな人物がフリー。普通に恋人候補は募集したら幾らでも来る。本人が気づくか、気に入るかは別として。
次の更新までしばしお待ち下さい。なるべく間空かないように頑張ります。




