11.こんな速く動けたの!?
11.こんな速く動けたの!?
「どっちから回りましょうか?」
ホールから左右に延びる通路。どちらを行ってもぐるっと回って一周するのだが、さてどちらから回ろうか。
「特に、希望ない? なら、時計回り、で、良いんじゃない」
「はい」
ミウとしては来たことが無いし、近くにあった案内紙も軽く見たけれど、実際見ないとやはりわからない。
かくして左へと向かう。
ほぼ床以外が全面ガラス張りのエントランスホールから、カーペットと同色の天井に明かりがある通路へ。
「これがアクアリウム遊歩道……」
左右がガラス張りで水中の景色が見える遊歩道は、昼の現在でも幻想的だった。
穏やかに水中で揺れる白い花。鬼灯のような橙色の風船状花が所々混じり、小魚の群れやまるで蝶のようなヒレを持つ魚などが、その間を自由に泳ぎ回っている。
まるで花畑の中の道を歩いている気分だ。
「わ。泡が出た?」
「あのオレンジのやつ、は、風船花。見てて」
「え。しぼんだら飛んでく!?」
普通、逆だろう。気泡を吐き出してしぼんだ花が水面目指して浮上していく。反対に何故か水面からパラシュートのように膨らんだ花が降りてくる。
「空気、いっぱいに、なると、根っこが重くなって、落ちてくる」
「変わった植物ですね……」
サラが軽く頷く。
「あれ、の、おかげで、この湖の、水中の酸素濃度、は、いつも一定」
繊細なサラの指先が白い花を指す。
「これ、は、わずかな光でも、溜め込んで、夜になる、と、ちょっと光る」
「へえ……。それもキレイそうですね……」
歩きながらそこまで説明を受けて、ミウはハッとしたようにサラを見た。
「どうか、した?」
「サラ先輩、こんなに起きてられたんですか!?」
瞬間、幻聴だろうが空気がピシッと音を立てる。
サラの瞳がジトリとした半眼になったが、これはミウが悪い。たとえその言葉に付き合いのあるもの大半が同意するとしても。
世の中には、言って良いタイミングとダメなタイミングがあるのだ。
案の定、サラはそのまま何も言わずにスタスタと先を歩き始める。心なし歩調が速い。
「あ、わ。待って下さいサラ先輩!」
丁度遊歩道の半分まで話ながら来ていたのだが、最後の半分、ミウは黙ったサラに追い付いて消化することになった。
――サラ先輩ってこんな速く動けたの!?
いつもが寝てるかシェルディナードの隣に佇んでいるかしか印象にない。
――あ。でも、そういえば……。
出会った頃にレジャースポーツとしてマンハントに連行された時、ミウまで一気に距離詰めて真横に迫っていた奴の首を一刀で落としていたな、と思い出す。
ちなみにミウはそれに恐慌状態になって逃走して、結局シェルディナードに回収された。思えばこれがミウのサラトラウマ化伝説の序章だった気がする。その前にあった辛口ファッションチェックなんて、それに比べたらまだまだ余裕があった。乙女心だけ重傷だったが、乙女心は所詮心の一部分である。トラウマは心全域だ。
そんな事を思い出しつつ、やや気まずい心で次へ。
足を踏み入れたのは天井はドーム型、一つの面は全面ガラスで、ガラス面の反対側は映画館ロビーがある。他に二つの通路が伸びて、部屋の中央に向かってすり鉢状の段々がある部屋だ。
階段の様に段々になって、すり鉢みたいな底もガラス面で水中が見える。
段々の所々が水槽になっており、多種多様な水棲生物が見られるようになっていた。
「そっち、の、映画館は、水や海に関係する作品を、上映してる、よ」
なお、旧作から最新作、ジャンルはホラーからロマンスまで何でもござれ。水や海に関係していれば良いという基準。
なお水族館の中にある映画館は無料である。
人によっては映画見放題を目的に水族館に来るのもいるとか。
「五つのシアター、一つは、貸し切りも、やってる」
「贅沢ですねー」
ほわっとミウが口を開けてそう言った。
一応、そういうものがあるとは事前情報で聞いた事があるのだが、実際目にすると何か凄いなと思うのだ。
付属施設と言ってもちゃちなものではなく、普通に映画館の構えだし、清掃も行き届いた綺麗さもある。映画鑑賞には欠かせない飲食物の販売とグッズ販売をしている売店もあるし、スタッフもきちんと居て、丁寧に対応しているのだ。
「観て、く?」
「あー。いえ、それは良いです。今日は水族館目当てなので」
映画はどれでも一本観るのに一定の時間が掛かる。観てたら他の所を見る時間がなくなりそうだ。
段々の水槽を覗き、その横にある説明を見たりして軽く一周。それでもそれなりに楽しく、時間も経つ。
やはりこの分だと映画を観たら全部の部屋を回れないだろう。
「真っ直ぐと、右、どっちに、する?」
「あ。違うんですか?」
「うん。オレ、の、オススメ、は、真っ直ぐ」
「うーん……」
ミウはちらりとサラを見る。
――サラ先輩のオススメかぁ……。
不安しかない。が、先ほどはミウが失言してしまったばかりである。今はもう機嫌が悪い様子は見えないのだけれど、ここは合わせようか? と少し考える。
「右、は」
「あ、はい」
ミウが考えている様子を見て、サラが右の方について口を開く。
「湖中サイクリング、出来る、よ」
「湖中……サイクリング、ですか?」
明日も更新予定です。




