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奇怪怪々浄化奇譚  作者: 七尾 一場
第2章 新天地
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第1話 新天地

 電車の揺れを感じながら、どこに視線を止めれば良いか分からず、右往左往していた俺は、気を紛らわすように外の景色へと目をやった。


 現在平日のお昼前、この時間帯だと電車内は人もまばらで、余裕を持って椅子に座ることができ快適だ。


 適温に調整された電車内、そこにのどかな日差しと適度な揺れが加わり、平常であれば少しうとうとするくらいだ。


 しかし、そうはなれない現状がそこにはあった。俺の両隣には少年と少女が座っており、何だか動きを拘束されているようで気が休まらない。さながら面接を受ける就活生のように座っていた。


 少年の名を、天寺 颯太。少女の名を、善城院 清珠。俺はこの二人に絶賛連行中というわけなのである。


 約一ヶ月前に起こった怪奇現象事件、その時、俺はこの二人に助けられ、こうして無事に今を過ごせているに至る。


 二人は俺にとっての恩人だ。そんな彼らとお墓参りで再会をしたのが今日のこと。本来であれば喜ばしいことだ。ただ、手放しで喜べないのもまた事実。


 二人があまりにも俺の事情を知りすぎているからだ。まるで何もかもが筒抜けのようで。何故そんなことになっているのか。その事実を知るために、俺は二人に着いて行っているわけである。


 お勧めの喫茶店で説明すると言われたが、まさか電車を使っての移動になるとは思っていなかった。


 いったい俺はどうなるんだ?その疑問が、小さな不安を雨雲のように膨らませていく、大きな要因であった。


「あ、次の駅ですよ」

「そ、そうか、分かった」


 やけに緊張する俺とは反対に、隣の天寺くんは船を漕いでいた。


 ♢


「ここになります!」

「ここが……」


 駅から徒歩十分、表通りとは反対の静かな裏道、そこにひっそりと喫茶店はあった。


 建物は六階建で、その一階が喫茶店になっている。喫茶店の外には青々とした植物が飾られており、外観からもオシャレな雰囲気が漂ってくる。


 正直、こういう店とはてんで縁が無い俺は少し気後れした。俺は安くて美味いチェーン店さんとベッタリな仲なのだ。


 善城院さんと天寺くんはどうということもなく、自然に店内に入っていく。やっぱり今風な若者だなぁ、何て思いながら二人に続く。


 チリンチリンと、ドアベルが俺達の入店を知らせた。


 店内は小さいながらも、落ち着いたアンティーク調の喫茶店だった。置かれている置物から、店長の良いセンスが伺える。


 あまり詳しくはないが、穴場というか、隠れ家的な良さがここにはあった。


「いらっしゃ…あら、すーちゃんにそーちゃんじゃない。いらっしゃい」

「こんにちは、マナちゃん!」

「お邪魔しまーす」


 入店に気づいた人物が店の奥からやって来て、俺達を快く迎入れる。


 三人のやり取りを見るに、よく見知った人物のようだ。ギャルソンエプロンを身につけたその人物は俺に目を向ける。


「あぁ、彼が阿李屋が言ってた人ね?」


 阿李屋? ん? 待て待て待て、どういうことだ? この人も俺のことを知っているのか? 俺のプライバシーは今どうなっているんだ? 


「はい、この方が宮地桔平さんです! あ、宮地さん、紹介しますね。この方は、この喫茶店の店主をしているマナちゃんです!」

「どうも」


 紹介されたマナちゃんさんは、涼しげな笑顔を浮かべ、片手をひらひらと振る。


「あ、ど、どうも。宮地桔平です」

「あらやだ、そんなに畏まらなくても大丈夫よ。ゆっくりしていって」

「ありがとうございます……」


 マナちゃんさんはこの店内とよく似合う、落ち着いていて、オシャレな人だなという印象を受ける。短く切り揃えられ、きらきらと光る金色の髪が眩しい。


 しかし、ある一点の違和感、もとい謎が新たに誕生したのだが……。そんな俺を置いて、三人はカウンターの方へと向かってしまう。


「宮地さんもどうぞ〜」


 善城院さんに呼ばれるがまま、カウンターの席に座る。両隣には電車の時と同じように二人が座っている。就活生再び、だ。


「はい、お水どうぞ」


 マナちゃんさんが三人分のお冷を用意してくれた。何だかグラスも洒落ている気がする。水はよく冷えており、飲むと頭と体内をすっきりとさせてくれた。


 マナちゃんさんはそんな俺を見届けると、カウンターの奥へと姿を消した。ここで俺は我慢してきた数々の疑問を二人に問いかける。


「色々と聞きたいことがあるんだが?俺の個人情報とかプライバシーとか」

「あはは〜、そう、ですよねぇ……」

「んなかっかすんなよ。別に大したことじゃねーって、ちょっとだけアンタの素行調査しただけだよ」

「は?」


 バツが悪そうな善城院さんとは反対に、天寺くんはにんまりと笑っている。


「何で、俺の素行調査なんか……」

「実を言うとよ、あのビルでの騒動を俺らの社長に報告したら、社長がアンタのこと結構気に入ったみたいでさ〜」


 天寺くんはグラスを上から掴み上げると、水をゆらゆらと揺らす。


「いわゆるヘッドハンティングってやつ」

「ヘッドハンティング……。だとしても素行調査する必要あるか? そもそも俺は普通の一般人だぞ?」

「霊や呪いを専門とした特殊な仕事ですから、適正を判断するためにも、事前に調べておく必要がありまして。あと、宮地さんは自分を普通の一般人だと仰いましたが……」


 善城院さんはまじまじと俺を見る。二人からの視線が少し痛い。


「見えてますよね」

「見えてるよな」


 二人の声が合わさった。


「……えーと、それは、どういう」


 視線が自然と泳ぐ。


「あ? そのまんまの意味だよ。宮地さんさぁ、霊見えてんだろ?」

「……何で、そのことまで」


 そう、これこそが現在進行形の悩みの種。あの日以降、俺は何故か霊が見えるようになってしまったのだ。


 本当に何故こんなことになったのか。今まで霊感とは全く無縁であったこの俺が。本当に意味が分からない。


 街中で何度霊に驚いたことか……。思い返すたびに背筋がぞくぞくしてくるようだ。


「これも素行調査の賜物です。宮地さんの挙動が余りにも分かりやすかったようで」

「それも見られてたのかよ……」


 本当に恐ろしいな、その素行調査。


「だからこそ、社長は何としてもアンタをヘッドハンティングしたいんだよ。こんな人材滅多にいねぇしな〜」

「浄化師は霊が見えることが必須ですからね」


 なるほど、だから俺を勧誘したいということか。しかし──。


「あー、その、手間暇掛けさせて悪いんだけど、その話には乗れないかな……。俺はあくまで一般人、君達みたいに祓うことはできないと思う。正直、俺は霊が見えて困ってるし、何なら霊を見えなくしたいと思ってる。霊を見えなくする方法とかってないのか?」


 俺が何度も名刺を眺めていた理由、それは元の状態に戻る、霊を見えなくする方法はないか相談したかったからである。俺の言葉に二人は顔を見合わせる。


「ないですね」

「あるわけねーだろそんなもん」


 無常な回答が返ってきただけだった。


「宮地さん、やっぱりこの話は宮地さんにとってプラスになると思うんです。霊を見えなくすることは不可能ですが、その霊能力とどう向き合い、霊に対処するのか、そういうスキルを獲得できるわけですし……」

「そう言われてもなぁ」


 言葉だけで非現実的な世界に入り込めるほど、俺も子供じゃない。どう考えても俺には荷が重すぎる。


「霊能力持ってる奴なんて滅多にいないぜ? SSRのレアだぞ、星五だぜ? せっかく持ってるのに、蔑ろにするなんて勿体ねぇと思わねーの?」

「だとしても荷が重すぎるんだって。君達がどれくらいこの仕事に携わってきたのかは分からないけど、俺はついこの間まで、見えもしなけりゃ、普通にサラリーマンをやってたんだぜ? 君達とは年季が違いすぎる」


 その答えに天寺くんは不服そうな目をする。でも、仕方がないだろう? これは変えようのない事実なんだから。


「でも、この前の根源は紛れも無くアンタが祓った。社長は霊能力云々よりも、アンタのその手腕に重点を置いてるみてぇだけどな」

「颯太の言う通りです。霊能力はあくまでも加点です。一番大事なのは、霊や呪いとどう向き合うかになりますしね」


 だとしても。


「あの時は色々事情があったからね、無関係じゃ無かったし……。ここまで時間を割いてもらって本当に悪いけど、やっぱり俺には無理だと思う。社長さんに今回の話は」

「えー」

「えー」

「えーとか言わない」


 批判の声を上げられても困る。俺は普通の日常の中で過ごすのだ。それはきっと、お互いの為にもなるはずだ。


「お話は終わったのかしら?」

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