執事様、紹介します。
2年ぶりに帰省した実家は、しばらく見ないうちに大きくなっていました。
店舗を併設する我が家は元々広めではありましたが、精々田舎の小店舗といった雰囲気だった筈ですが。今私の眼前に佇むのは大店と言って差し支えない程度には立派です。
はて、と首をかしげるも、場所はここで間違いありません。
私が知らないうちに建て直したのでしょうか。
ともかく中に入ろうと店の扉を開くと、中で掃除をしていた少年と目が合いました。
彼はパッと顔を明るくすると駆け寄ってきます。
「エルねーちゃん! お帰り!」
「ロム。帰ってたの」
「昨日ね。もうみんな帰ってきてるよ!」
すぐ下の弟のクロムでした。手を取り合って再会を喜びます。
クロムとはかれこれ1年ぶりでしょうか。
随分背が伸びて、見上げなければ顔が見えません。
ふと、クロムが私の後ろに目を遣りました。不思議そうな顔をします。
「あ」
そういえば。私の後ろには執事様がいたことを忘れていました。
振り返ると、所在なさげに佇む執事様がいます。
何だかんだ言いつつ、結局ついてきたんですよね。
私は咳払いをすると、クロムに執事様を紹介します。
「あのね、ロム。この人は私の上司で」
「エルねーちゃんが男を連れてきた!!」
制止する間もなく、クロムが叫びました。
私は頭を抱えました。
弟よ。もっと言い方があるでしょうよ。
もっと悪いことに、クロムの声を聞いて店の奥から人が出てきます。
ひょこひょこ顔を出したのは、兄たちです。
「エル、帰ってたのか」
「うん、ただいま……」
「しーちゃん、どうしたの」
「ほら見て兄ちゃん! エルねーちゃんが男連れてきたよ!」
「おや」
そっと振り返ると、兄妹たちが話す勢いに圧された執事様は若干身を引いていました。まあそうなりますよね……。
「しーちゃん、どちら様?」
「この人は私の職場の上司です」
「……ユーリウスと申します」
執事様が名乗ると、ぱちくりと瞬いた次兄アウスが深々と頭を下げました。
「うちの妹がいつもお世話になってます」
「いえ、こちらこそ……」
「……アス兄、恥ずかしいから止めて」
すかさず挨拶を始める二人を見て頭を抱えていると、長兄セバムが店の奥を示しました。
「エル、上がってもらえ」
「そうする」
兄の勧めに従って、執事様を店の中に招き入れます。
「……ユーリ?」
ふと、少し後ろを歩く執事様を見上げると、心なしか執事様の表情が硬く見えて声を掛けます。よくよく見ればいつも通りの無表情なのですが。
執事様は私を見ると、僅かに瞳を揺らしました。
「何でもありません」
「……そうですか?」
少し不安そうに見えたので、と伝えたら叱られてしまうでしょうか。
不安がる執事様なんて想像できませんね。気のせいでしょう。
兄の案内で、両親たちの暮らす居住空間へ向かいます。
その間に兄妹でお互いの近況などを簡単に話します。
この家は一年ほど前に建て直したんだそうで、詳しくは全員揃ったら父が説明するつもりのようです。
「なあエル」
隣を歩くセバムに囁かれました。小声で話しかけられる意図が分からなくて瞬くと、「ユーリウスさんはお前のこれか?」と問われます。
これ、のところでセバムがビシッと親指を立てました。
思わずぶはっと噴きました。何てことを言うんですか!
「セバム兄、失礼なこと言わないで」
「そうか?」
「そうです」
私はちらりと執事様を窺います。
幸いにもセバムの声は聞こえていなかったらしく、アウスと世間話をしています。
胸を撫で下ろしました。
兄のノリが久しぶりすぎて強烈です。実家がこういう場所だって忘れていましたよ。
執事様を家族(主に母)に会わせることが急激に不安になってきました。
あの人、よくも悪くも言いたい放題ですからね……。
まあ、でも今さらです。なるようになるでしょう。
……家族が何かやらかさないことを祈りつつ、私は小さく溜め息をつくのでした。




