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最近、うちの執事様の様子がおかしいです。  作者: 芍薬
執事様と、お宅訪問
14/18

執事様、意味が分かりません。

 久々の実家に向けて、辻馬車に揺られる私、……の隣に執事様。

 これは一体どうしたことでしょう。

 私を端の席に座らせ、その隣で腕組みして目を閉じる執事様。こちらの様子を気にする様子すらありません。


 馬車の進みは快調ですが、私の頭の中は混乱中です。

 どうしてこんな状況になったのやら、私は屋敷を出る直前の出来事に思いを馳せました。


 シエル退職説の誤解を解いて回った私が、ぐったりしながら休暇へと突入したのは今朝方のことです。

 休暇前ってもっと晴れやかな気分になるものじゃないですか? 既に精神的疲労で疲れきっているのですが。


 気を取り直して出発するぞと屋敷を出たところに、何故か執事様がいました。

 背筋を伸ばしたまま、コートの襟を立てている執事様は、立ち尽くす私の姿に気がついたらしく振り返りました。


「お疲れ様です……?」

「シエル」


 制服じゃありませんでした。

 秋めいてきた季節に沿った、私服です。

 執事様、今日はお休みでしたっけ?

 私が首をかしげると、歩み寄ってきました。


「辻馬車の時間に遅れますよ」

「はあ」


 何故、執事様が辻馬車の時間を知っているのです?

 確かに乗り継ぎがあるので、あまりゆっくりはしていられないないのですが。

 そこで気がつきました。執事様の手に旅行鞄がぶら下がっています。旅行ですか?

 ……楽しく旅行する執事様の姿が、まるで想像できないのですが。


 ぐるぐると考えていると、執事様が私の手を取りました。


「行きますよ」

「……はい?」


 彼がそのままスタスタ歩き出したので、私も引っ張られます。

 多少強引ですが自然な動作に釣られて歩き出し、そこでハタと我に返りました。

 何故私は執事様に腕を取られて歩いているのです?

 あれよと言う間に辻馬車に積み込まれ、隣に執事様が座りました。

 執事様は席につくなり目を閉じて睡眠体勢になったので、胸の内を渦巻く疑問をぶつける先がありません。


 じろりと横を見れば、静かな寝顔の執事様。

 少しイラッとしたので、鼻でも摘まんでやろうと手を伸ばすと、ぱちりと目が開きました。眠気の名残すらない瞳がこちらを向きます。狸寝入りですか、このやろう。


「ユーリ」

「何ですか」

「説明して欲しいんですが」

「何をです」

「この、今の状況を。どうしてユーリが一緒の馬車に乗ってるんですか」

「貴女の実家に用があるからです」

「だから、なんで」


 こちらを見る藍色の瞳が微かに揺れました。それを隠すようにフイと眇めて。

 今日は手袋を付けていない指先が、上着の内ポケットから封書を取り出します。


「これを貴女の父君に渡さなければなりませんから」

「それは」

「旦那様からの手紙です。商談の関係だと」

「……普通に郵便に出せば良いのでは」

「郵便事故、ということもあるでしょう」


 いや、配達人でもない人物に手紙を託す方が、よっぽど事故に繋がると思いますが。

 封蝋に捺された印章をみて私も黙ります。間違いなく主家の紋章です。

 旦那様の命令に異を唱える心算はありませんが、何も同じ旅程でなくても。

 私の実家までは、一度大きな町で辻馬車を乗り換えて丸一日掛かります。


 思わず眉間にシワを寄せた私を見て、執事様が僅かに首を傾けました。


「嫌ですか?」


 唐突な問いかけだったので面食らい、それが「一緒に行くのが」嫌かという意味だと理解します。

 ……別に執事様が嫌いなわけではないと、前にも言ったと思いますが。


「驚きましたが。分かっていたなら、一言言ってくれたら良かったでしょう」

「急に決まったので」


 執事様は私の苦情もさらりとかわします。

 私は嘆息しました。どんな時も執事様は執事様です。


「仕事で出張とは大変ですね」

「そうでもありません」


 会話が途切れ、お互いに黙ったまま馬車に揺られます。

 客は私たちだけではありませんが、皆さん大体長旅のため休んでいる人ばかりで車内は静かです。

 ふと、執事様の見合いのことを思い出しました。奥様に紹介してもらった女性。執事様はその女性に今回の出張のことを話したのでしょうか。


「……」


 理由は分かりませんが、もやっとしました。

 執事様が誰と話そうが執事様の勝手ですよね。

 起きていると余計なことを考えてしまいそうので、私も仮眠をとろうと目を閉じます。

 じきに眠くなってうとうとしていると、どこかで名前を呼ばれた気がしました。


「シエル、ごめん」


 ごめんって、何が。

 疑問はふわふわした思考に飲み込まれ何も分からなくなりました。


 次に目覚めたのは町に着いたときで、執事様に特に変わったところはありませんでした。

 なのであの謝罪は、私の聞き間違いだったのかもしれません。

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