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弱拍
彼の右腕にある止血用に貼られたパッド。震える指。一枚だけ羽織った彼のシャツのボタンひとつひとつが、終わりに至るまでの道に落ちている小石。二人分のわかりやすく熱くなった息。言葉を必要としないフローリング。いつまでも場に伏せられたままのカード。枯れた花。治療中の歯、もしくは躊躇のポーズ。とうとうキッチンのほうから聞こえてくるのは、ハートが棚から落ちて割れる音。ベッドサイドからこちらを睨むスティーヴン・クレインの本。開け放たれた窓、人工呼吸をしたってよみがえることはなかったそのカーテンの白さ。同じ階の着信の音。ここは天国か、地獄か。声は出せない、出たとしても、もう二人とも知らない獣が表現する何かでしかない。午後二時の静寂。彼の舌の裏に書かれた裏切りの表明文。鳴り止まない飴。逃げ出した靴たち。引き千切られた首飾り。美しい爪と美しい弱さ。




