翼をちょうだい
両つの耳を塞いでいた小さな、すごく小さくて取り外ししやすくて、だからすごく奪いやすいきみのイヤフォンを続けざまに奪って二つとも口に含んだ。目を閉じて口の中のそれを転がし、じっくりと味わいながら、きみの腕で激しく揺さぶられていた数秒間。
これがじつのところ、輝きに包まれた数秒だった。短くとも、この時ほどぼくの知覚している何もかもが歯ごたえがあったことはこの人生でなかったかもしれない。激しくきみが吸う息の音そして罵倒、平手打ちや、睨んでくる目も唾も。
「ごっくん」
そう声に出していうと、突然に踵を返して去っていくきみ。
きみはなんにもわかってないよ。きみはなんにもわかってないよ。
きみはなんにもわかってないよなんでそんなにそんななの?
だってそうだろう、わかろうともしない。わからないといけない理由も何もないっていう、そればかり。
全然、だから、つまりそもそもの始まりから駄目だめなんだ。
「外でスキップしたことはある? 心から好きだといえるアーティストはいる? 涙が降り落ちたドーナツを目にしたことは? ぼくはただ一人で強くなっていけると信じていたんだ、誰かといることが人一人の心を弱くさせるのは明らかな事実で。冷たい広いベッドの上で子供みたく縮こまり眠る。ぼくがこの町の砂でできることは何一つないと思ったのは、結局家族のため、同じクラスの友だちのためでしかなかった。一人でやる人生ゲームにもちろん終わりはこなかった。瞬きをするあいだに望んでた流れ星を見逃すってこと、この国の人たちはそれを愛と呼んでるんだなんてぼくはずっと知らなかった。同級の誰かの風景画家としての才能にいち早く気づいたり、皮剥き器を捨てたり。目を閉じる達。エヴァーモアとぼくの所在。どんな例文も置いてじぶんの部屋に帰らなきゃ。そんな眩暈と手を繋いで階段下に澄んでいたいんだ、本音っぽいかな」




