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《改訂版》双子探偵社  作者: 南条祝子
3.正体
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3.正体〈2〉

 2


 家に帰り、私は逃げるようにして自分の部屋に引き籠ると、ベッドに潜り込んで今日の出来事を深く反省した。


 玲香まで怒らせてしまい、帰り道には一言も口をきいてはくれなかった。


 リズはまるで腫れ物に触るように玲香と私に気を遣う始末。


 私は重く大きな溜め息を一つ吐いて、ベッドの上で上半身を起こすと、膝を抱えた。


 ふと、ベッド脇のスタンド台にある一枚の紙に目が留まり、私はそれを手に取った。


 それは以前、中野刑事から事件に関係のありそうなことを思い出したら連絡するようにと渡された、彼の携帯電話の番号が記された名刺大のメモだった。


 ほんの少し躊躇った後で、私は鞄から携帯電話を取り出すと、メモに記された番号に電話を掛けた。



 五回程コール音が聞こえた後、電話の向こうから「はい、中野です」という中野刑事の声が聞こえた。


「あの……」


 電話を掛けておきながら、私は何をどう話したらいいのか急に分からなくなって、口籠ってしまった。


「もしもし……?」


 中野刑事の声で我に返り、「あの、中野刑事……、私、沙織です」とようやく名乗ることができた。


「沙織ちゃん?ちょっと待って」


 一瞬、間があり、車のドアが閉まる音が聞こえた。


「もしもし、お待たせ。どうしたの?」


 昼間の事などまるでなかったような口調に少しほっとした。


「その……、昼間は、ごめんなさい……、私……」


「なに、また玲香ちゃんに謝るように言われたの?」


 うまく謝罪の言葉が浮かばず、言い淀んでいるうちに、中野刑事は冷静な声でそう言った。


「違うったら。私、本当に悪かったと思ったから、こうして謝ろうと思って電話したんじゃない。妹に言われなければ謝罪の一つもできないとか思ってる?喧嘩売ってんの?」


 喧嘩を売っているのは私の方だ。


 謝るために電話をしたはずなのに、どういう訳か、またやってしまった。


 私はすぐに「ごめんなさい、つい……」と謝る。


 ところが、電話の向こうからは、くすくすと可笑しそうに笑う声が聞こえてくる。


 私は再び「何よ」と不機嫌な声を出した。


「ごめん、ごめん。羽柴警部から相当なじゃじゃ馬娘だって聞いてたけど、予想以上だなと思って」


 笑われた理由に、叔父さんたら余計な事をと腹を立てつつ、私は「どうせ私はじゃじゃ馬です」と拗ねた。


 暫くの沈黙の後、彼は静かに「わざわざ電話してくれてありがとう」と優しく言った。


 私は「ううん」と短く返事をした後、「そうだ、怒らせちゃったお詫びに、また家でみんなと一緒に鍋でもしましょうよ。いつでもいらっしゃいよ」と、明るく告げた。


「そう?じゃあ、本当にまたお邪魔しようかな」


 そう言う彼の後ろで、車のエンジンを掛ける音がした。


 そのあとすぐに挨拶をして電話を切ると、私はすっきりした気分で布団の中に戻った。



 それから暫く、私は天井を見詰めていた。


 さやかの彼氏は倉田先生だった。でも、さやかの命を奪った犯人ではなかった。


 では、真犯人は一体どこの誰なのか。手掛かりはこれで途絶えてしまったのか。


 なんだろう……。


 何か見落としてないかな。


 色々と考えているうちに、私は眠りに落ちていった。



 次の日、中野刑事にちゃんと謝ったことを伝え、なんとか玲香とも仲直りした。そうして、学校帰りにはいつものように三人であの公園へやって来た。


 今、できることといったら、さやかが殺された前日の土曜夜八時頃に、公園の入り口付近の公衆電話で電話をかけていた人物を探すことだけ。



 何人かに声を掛けてみたが、やはり、進展はなかった。


 そろそろ諦めて帰るしかないと思った頃、以前、声を掛けたことのある、六十代くらいの男性が私たちに話し掛けてきた。


「おや、君たち、まだ頑張ってたのか」


 三人揃って頷く。


「この前も言ったと思うけど、あの日のあの時間、ここを通り掛かったのは私くらいだと思うよ。たばこが切れてなかったら、私だって通らなかっただろうし」


 この男性の言うとおりだ。土曜の夜八時、この辺りの住宅地なんて、どう考えても人通りは少なそうだ。それは否が応でも認めざるを得ない。


「これも、この間も言ったけど、女の人は見たけど、男は見なかったよ。しかし、あの人は綺麗だったなぁ」


「女の人……」


 私が呟いた瞬間、リズが「そうだわ!私たち、ずっと、男の人を見なかったかって聞いてた!」と叫んだ。


 その場にいた全員の視線が一斉にリズに注がれる。


「沙織、玲香!私たちはさやかの彼氏を探そうとしてたから、質問の仕方も男の人に限定してしまっていたの」


 私はあっと気が付いた。彼氏が犯人かも知れないし、何か知っている筈だと思い込んでいた。


 でも、探し出した彼氏は倉田先生で、犯人ではなかったし、、他に心当たりもない様子だった。


「犯人が女だったら、電話を掛けていた男を探していた私たちには見付けることはできないわ」


 リズの言葉に私は心の底から納得した。


 ぽかんと口を開けていた男性の方に向き直ると、「電話を掛けていた人、どんな人でしたか?」と改めて質問した。


「だから、綺麗な女の人だったって……」


「ええと、そうじゃなくて、その女の人の特徴、何か覚えていませんか?」


 すると、男性は腕組みして暫くうーんと唸った後、「そうだなあ。横を通り過ぎた時につい目が行ったくらいだから、ぼんやりとだけど……、色白で、髪の長さは肩よりちょっと下くらい、今時の若い女の人には珍しく黒髪だったのを覚えてるよ」と答えた。


 男性がなんとか思い出してくれた特徴だけでは、その女の人を探し出すのは容易ではなさそうだ。そう思っていると、男性は「そうそう」と、付け加えた。


「腕に掛けていた赤いバッグに、ウサギのキャラクターの人形がぶら下がっていたよ」


「赤いバッグにウサギのキャラクターの人形ですか」


「なんだったかなぁ、うちの孫もあのウサギ好きなんだよなぁ。えぇと、確かテーマパークにいるやつだ」


 男性は更に唸って考えこんでいたが、どうにも名前が出てこないようだった。


 しかし、そういったキャラクターものなら私たちの方が詳しい。テーマパークにいるウサギのキャラクター、というキーワードですぐに察しも付いた。


 かなりの手掛かりとなりそうな情報を聞き出せたので、私たちはお礼を言って引き上げることにした。

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