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《改訂版》双子探偵社  作者: 南条祝子
2.形見
5/11

2.形見〈2〉

 2


 それから更に二日が経った。が、依然として、さやかの彼氏がどこの誰なのか分からないままだった。


 夜になり、今週、炊事当番の私がリビングで夕飯のメニューが浮かばず唸っていると、玄関のチャイムが鳴った。


 この時間、このタイミングで突然やってくる人と言ったら叔父さんしかいない。


 きっと、一緒に夕飯を食べるつもりだ。


 玄関の扉を開けると、案の定、にかっと子供のような笑顔で叔父さんがスーパーの袋をぶら下げて立っていた。


「今日は綾子(りょうこ)が仕事で留守なんでな。ほら、鍋の材料買ってきたぞ!」


 綾子と書いて「りょうこ」と読む、叔父さんの奥さん、つまり私たちの叔母さんはフリーのフォトグラファー。


 休みも仕事も不定期。ある日突然、仕事が舞い込んで泊まりで出掛けてしまうこともある。


 そんな叔母さんだが、今の私たちには母親代わり。


 特に私は、母の生前から母に相談しにくいことでも話せる、いわば親友のような存在。


 綾子叔母さんが急な仕事で外泊するとき、叔父さんは決まってこんな風に突然、家へ食材を持ってやってきて、一緒に夕食をとるのだ。


「ありがとう、叔父さん」


 叔父さんのお陰で夕飯のメニューに頭を悩ませる必要もなくなり、得した気分だ。


 笑顔で叔父さんからネギや白菜などの野菜や、肉がたくさん詰まったスーパーの袋を受け取る。


 と、後ろにもう一人立っていることに気付いた。中野刑事だ。


「鍋は人数が多い方が楽しいからな、彼も誘ってみた。独身の一人暮らしじゃロクなもの食べてないだろうし」


 私の視線に気付いた叔父さんは、豪快に笑いながらそう説明する。


 叔父さんの肩の向こうから、中野刑事が「こんばんは」とにこやかに挨拶した。


「ふん。まるっきりコバンザメね」


 冷たくそう言い放ってから、さやかの葬儀の日、玲香から怒られたことを思い出し、慌てて口に手を当てた。


「ごめんなさい。実は、葬儀の帰り、態度悪すぎるって玲香に怒られたの」


 我ながら情けなくなり、謝りながら視線を落とした。


「今度会ったら、ちゃんと謝るように言われていたのに」


 独り言のように呟いてから、中野刑事の様子を窺うように顔を上げた私に、彼は「気にしなくていいよ」と人の良さそうな笑顔を見せた。


 我が家の四人掛けダイニングセットに急遽椅子を一つ足し、ぎゅうぎゅう詰めになって五人で鍋を囲んだ。


 事件以来、私たち三人は楽しく食事をする気になれず、会話も少なくなっていた。


 けれど、せっかくこうして叔父さんが賑やかな雰囲気を作ってくれたのだ。今、この時だけは事件のことは頭の隅へやって、楽しむことに努めた。


 特に、一番落ち込んでいる玲香は、今日は下ごしらえやお茶出しなど、甲斐甲斐しく動き回って、久しぶりに溌剌とした様子を見せていた。



「やっぱり食事は大勢が楽しいなあ。なあ、中野」


 ついには持参したお酒を飲み始める叔父さん。アルコールが回って気分がよくなったのか、赤い顔をして楽しそうに中野刑事の肩をバンバンと叩いた。


「そうですね。鍋は一人でやっても淋しいだけですから、何年ぶりかな」


 叔父さんに叩かれた肩を摩りつつ、それでも彼は楽しそうにしている。


「中野刑事は一人暮しなんですか。じゃあ、お料理やお洗濯も自分で?」


 興味津々といった様子で中野刑事の向かいに座った玲香が尋ねると、彼は「まあね」と答えた。


 その後もあれこれそんな他愛のない質問をしては、その答えに感心したり、笑ったり。本当に、こんなに楽しそうな玲香を見るのは久しぶりだ。


 最初にさやかの事を聞きに来たときの中野刑事の優しい話し方で、玲香はすっかり親しみを感じているようだ。私と違って、大人しい質の玲香だが自分から積極的に話し掛けている。


 彼のお陰で玲香の辛さが、今この時だけでも和らいでいることに私は心の底から感謝した。

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