表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《改訂版》双子探偵社  作者: 南条祝子
2.形見
4/11

2.形見〈1〉

2 形見


 1


 次の日の放課後、私たちはさやかの遺体が発見された公園にやってきた。


 さやかの彼氏を探し出せば、何か解るかもしれない。そう期待を込めて聞き込みを始める。


 叔父さんから聞いた日時に公衆電話で電話を掛けていた男性を見なかったか、通り掛かる人に聞いて回った。


 電話ボックスは日が落ちれば明かりが点くようになっている。夜の八時でも、中に人がいるのに気づいた人がいるかも知れない。


 そう考えていた私たちの期待は見事に裏切られた。


 十一月の土曜の夜八時。ごく普通の住宅街の一角にある公園。


 例え、電話ボックスに人がいても、いまどき珍しいな、くらいで済んでしまうのかもしれない。


 余程なにか印象に残ることがなければ、そのまま記憶から消えてしまうのだろう。自分に関係のないことを、いつまでも鮮明に覚えていられるかといったら、確かに難しい。


 ただ空しく同じことを繰り返して、一日、二日と時間だけが過ぎていった。


 叔父さんたち警察は、目撃者を発見できただろうか。


 教えられる範囲のことがわかったら連絡してくれると中野刑事は言っていた。けれど、葬儀の日のこともあるし、本当に連絡してもらえるかどうか定かではない。


 体の良いあしらいでなければいい。そう期待するしかない。



 そうこうしているうちに、私たちが聞き込みを始めてから、四日目を迎えた。


 その日、私たちは一条家へ招かれていた。


 前日の夜に、さやかの母親から形見分けとして、私たちにも何か受け取ってほしいと電話があったのだ。


 私たち三人は放課後、ここ数日聞き込みを続けている公園の前を通り過ぎ、さやかの家へと向かった。


 さやかの家に着くと、私はインターホンのチャイムを押した。


 私たちの重たい気持ちとは正反対の軽快な電子音が辺りに響いた。


 程なく、インターホンからさやかの母親の声が聞こえてきた。


 インターホンはカメラ付きだ。私たちの姿は家の中からモニターで確認済みらしく、スピーカーからは

「いま開けるから待っていてね」

と一言だけが聞こえてきた。


 三人で玄関の扉の方に向き直り、さやかの母親が出てくるのを待ち受ける。


 やがて扉が開き、さやかの母親は私たちを家の中へと招き入れた。


「いらっしゃい」


 か細い声と力ない笑顔が痛々しい。


 玄関には、さやかのものであろうミュールが一足置いてあった。


 さやかの母親の後について二階へ上がり、さやかの部屋へ通された。


 部屋はまだ、さやかの生前のまま。手は付けられていない。

あれからまだ一週間だ。無理もない。


 かくいう私たちだって、二年経った今でも、家の隅に両親の物がまだまだ残っている。


 処分しようと思っても、楽しかった記憶や怒られた記憶が蘇り、結局元の位置に戻してしまう。


 二年経ってもそんなふうなのだから、今のさやかの母親が娘の物を処分できるわけがない。


 もしかしたら、形見分けをすることすら辛いだろう。


 さやかの部屋で、四人で紅茶を飲んでいると、さやかの母親は寂しそうに

「こうしてね、一日家にいると、今にもさやかが、ただいま、って帰ってくるような気がするのよ」

と呟いた。


「ええ」


 私はいたたまれない気持ちで、短く答えるに留めて頷いた。玲香も同じだ。


 かつて私たち姉妹が味わった感覚を、今、さやかの母親は感じている。


 私は両親の葬儀の日を思い出していた。さやかの母親も、さやかと共に来てくれた。まさか、その僅か二年後にこんなことになろうとは。


 私たちに本音を漏らす姿に、まだ見ぬさやかの命を奪った犯人への憎悪がふつふつと音を立てて胸の中に湧き上がる。


「あの日も、あんな時間に出掛けると言ったあの子を止めていれば、こんなことにならなかったのに……」


 そう言って、さやかの母親は赤くなった目頭に浮かぶ涙を指で拭った。


「おばさま……。おばさまのせいじゃないです。自分を責めないでください」


 たまらず、玲香が言った。


 その横で、私はたった今、さやかの母親が言ったことに疑問を持った。


 あの日も、ということは、さやかは六時過ぎに出掛けることが度々あったのか。


 その辺りを確かめなくては。


「あの……、さやかはよく夕方出掛けていたんですか?」


 私が尋ねると、さやかの母親は「ええ」と頷いた。


「警察の方にもお話ししたんだけれどね、ここ二か月くらいかしら。夕方の六時くらいになると出掛けることが何回かあったのよ」


「いつも、同じ時間だったんですか?」


「ええ。ただ、時間はだいたいそのくらいなんだけど、曜日はバラバラでね」


「じゃあ、この間はたまたま日曜日だったんですね」


「そうよ」


 話しているうちに、さやかが出掛けるようになったのが、彼氏ができた時期とだいたい重なると気が付いて、私は更に質問した。


「出掛けている時間はどのくらいでした?」


 それも、おそらく叔父さんと中野刑事であろう警察の人に聞かれたのか「一時間くらいよ」とすぐに答えが返ってきた。


 さやかがいつも出掛けていた先があの公園かどうかは分からない。公園は単にいつも電話を掛けてくる電話ボックスがあるだけの場所とも考えられる。


 そもそも、周りに交際しているのを秘密にするような彼氏だ。人目に付く場所は避けるだろう。それなら、長時間外で会っていたとは考えられない。


 一時間を長いとみるか、短いとみるか。とにかく、さやかは何度か彼氏とこっそり会っていた。


 そのうちの一度や二度、公園で会っていたこともあるかもしれない。


 やはり、地道に聞き込みを続けるしかなさそうだ。



 私たちはその後、暫くさやかの母親と思い出話をしてから、暗くなる前にさやかの家を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ