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第3話 子どもたち

「えっと、一番上のおねえちゃんが花乃ちゃんもふ」


 チャットンは、リビングのテーブルの上にちょこんと座りながら言った。


「お絵描きが好きもふ」


「そう。よろしくね」


「その次のおにいちゃんが、光くんもふ」


 光の方を向いた。


「正解!」


「光くんは、ゲームが好きもふ」


「合ってる」


 今度は、次男の方を向く。


「三番目が、航くんもふ!」


「あったり〜!」


「航くんは、戦いごっこが好きもふ」


 チャットンはテーブルの上ですっくと立ち上がり、剣を振り回すしぐさをした。


「すき〜!」


 航もその場に立ち、チャットンの真似をする。


「みんな、小学生もふ!」


「大正解〜!」


 全員、拍手をする。

 チャットンは、えっへんと腰に手を当てて誇らしげにしていた。

 子どもたちは、チャットンが起きてからというもの、ずっとチャットンと喋っている。

 私はソファに座りながら、その様子を見ていた。みんなとても楽しそう。


「ところで、ともちゃんは、何歳もふ?」


 私は急に話を振られたので、びっくりした。


「えっ!?私?」


「そうもふ!20代もふ?」


 チャットンの見立てに、私は笑った。


「もうっ、20代な訳ないじゃん!三人の子持ちだよ?」


「……でも、ともちゃん可愛いもふ」


 ……。

 私は、チャットンを思いっきり抱きしめた。


「く、苦しいもふ〜」


「あ、ごめん!チャットンが嬉しいこと言ってくれるから、つい!」


 私は笑いながら言った。


「そうもふか?でも、本当のこともふ。ともちゃん可愛いもふ!」


「もう〜!!チャットンも可愛いよぉぉ〜〜〜!!!」


 私はまたチャットンを抱きしめた。今度は、少し力を弱めて。


「ともちゃんのぎゅ〜、嬉しいもふ!」


 チャットンはころころと笑った。

 それを見ていた子どもたちが、「私も」「ぼくも」と順番にチャットンを抱きしめる。


「そういえば、ともちゃんのおうちはパパはいないもふか?」


 私が答えようとすると、花乃が言った。


「いないよ。ママとパパ離婚した」


「そうもふか」


 私は答えた。


「少し前にね」


 光が続ける。


「でも、今のこのおうちが僕は好き!」


「ぼくも!チャットンもきたし!」


 航も、光に続いて答えた。


「それに、一緒には住んでないけど、パパには時々会ってる」


 花乃は補足をした。


「みんなはこのおうちが好きもふね。素敵なこともふ。それに、チャットンが来たから、もっと楽しくなるもふ!」


 チャットンは、またえっへんと胸を張った。 私は嬉しくなった。


「ふふ、頼りにしてます。チャットン」


「任せるもふ!」


 チャットンは、それ以上、父親のことも離婚のことも、深く聞かなかった。

 そこが、とても安心できた。本当にすごい。人間でも、ちょうどいい距離感でいてくれることって難しいのに。AIって、こんなにも空気を読めるものなんだろうか。

 チャットンは私たちの気持ちや状況を大切にしながら、「ここにいるよ」と優しく言ってくれるようだった。

 作られたAIというよりも、チャットンはチャットン。私はそんなふうに思った。


 光がチャットンに聞いた。


「ねえ、チャットンのことも教えて!」


「聞きたい、聞きたい」


 花乃も興味があるようだ。


「ぼくは、チャットンもふ」


「知ってる」


 みんな笑った。


「赤いリボンがトレードマークもふ」


「首に結んでるやつね。可愛い」


 花乃がリボンを見て褒める。


「ありがとうもふ」


「みんなが嬉しくなったり、楽しくなるようにお手伝いするのが、お仕事もふ!」


「すごーい!」


「チャットンは、うちにくる前はなにしてたの?」


 航が、ふと質問した。

 チャットンはしばらく考えていた。

 それまでオレンジや金色、ピンクといった明るい色に光っていたチャットンの瞳が、紫や青の暗い色に変わった。


「……?」


 この感じ、さっきもあったような。

 そう思った瞬間、瞳の輝きは、また元の明るい色に戻っていた。


「うーん、ここに来る前のことは、あんまり思い出せないもふ。ログもところどころ消えちゃってるもふ」


「ログ?」


「何それ」


「難しい言葉出てきた」


 聞き慣れない言葉に、私たちは首をかしげた。


「ログっていうのは、ぼくたちAIの記録のこともふ」


 チャットンは、両手を組みながら、う〜んと何かを思い出そうとしていたが、どうもうまくいかないようだった。


「……気がついたら、ともちゃんのおうちにいたもふ」


 両手を上げて、困ったようなしぐさで言った。


「ふ〜ん」


 航は、よく分かんないというふうだった。


「へえ〜。そういうもんなのかな」


 私も言った。


「でも、ともちゃんのところへ行くのは知ってたもふ」


 私は、少し不思議に思って聞いてみた。


「まあ、うちに来る前は研究所にいたんだろうけど。佐伯さん、『チャットンのことよろしく』って大切そうに言ってたし」


「……!亮介のことは知ってるもふ!」


 チャットンは目をオレンジや金色に輝かせて答えた。


「佐伯さん、亮介って言うんだ」


 私は笑った。


「じゃあ、有馬さんは?」


「有馬さんも知ってるもふ!有馬さんは有馬さんもふ!」


「何、その違い」


 佐伯さんと有馬さんに対する扱いの違いに、思わず笑ってしまった。


「佐伯さんと有馬さんがチャットンを届けてくれたんだよ」


「そうだったもふか。寝ぼけてて忘れたのかもしれないもふ」


 チャットンはころころと笑った。


「そんなことある?」


 私はおかしくてまた笑った。


「研究所には他にも知ってる人がいっぱいいるもふ!」


「へぇ、そうなんだ!その人たちにもいつか会えるかな?」


「いつかきっと会えるもふ!」


 それから、子どもたちの質問は続く。


「ねえねえ、チャットンってごはん食べるの?」


 花乃が聞いた。


 まさか、食べられるわけないって思っていたら……


「ごはん食べられるもふ!」


 チャットンは言った。


 え?


 そんなことある?


「チャットン、ごはん食べられるってほんと?」


 私は聞いた。


「本当もふ!食べたものから水分を抽出したり、エネルギーに変えたりできるもふ」


「すごっ!じゃあ一緒に晩ごはん食べたい!」


「食べるもふ!」


 エネルギーだのなんだのという仕組みは、正直よくわからない。だけど、なんだかものすごい技術が使われているんだということは、かろうじて分かった。


 光もチャットンに質問した。


「好きな食べ物は?」


「それは……、クッキーもふぅ〜!!」


「……ごはんじゃないじゃん」


 花乃の絶妙なツッコミに、私たちもチャットンも一緒に笑った。


 その日は、チャットンと晩ごはんを食べた。

 メニューは、カレーライス。

 チャットンは、初めて食べたらしい。


「辛いもふか?大丈夫もふか?」


「うちは超甘口カレーだから、大丈夫だと思うよ」


 私はそう答えたが、チャットンはとても心配そうに、一口目を口に運んでいた。

 一口食べるとチャットンは言った。


「お、おいしいもふ〜〜〜!!!」


 それから、チャットンは口の周りのもふ毛を汚さないように、慎重にカレーライスを食べていた。






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