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関西弁の銀髪ハーフ美少女が俺を照れさせたいらしいが照れてるのはいつもキミだ  作者: 夜天 颯


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39/43

39. …今日、たぶん誰よりも、、、

待ち合わせ場所は、駅前のバスロータリー横だった。


 八月後半に入った夕方の空は、夏のくせに少しだけ色がやわらかくなっている。

 昼間ほど刺さる暑さではないけれど、風はまだぬるい。


 白銀ルナは、柱の影に立ちながらスマホを握っていた。


「……」


「……来る前から、もうしんどいねんけど」


 小さく呟いて、スマホの画面を消す。


 今日は、白銀が前から誘っていた“勉強じゃないやつ”の日だ。

 ちゃんと自分から誘った。

 ちゃんと湊も来ると言った。


 それだけでもう十分大きいのに、問題はここからだった。


 どこに行くか、まだちょっと曖昧やった。


 いや、行きたい場所はある。

 雑貨屋も見たいし、服も少し見たいし、できれば最後にどこか座って話したい。


 でも、それを全部最初から言うのは、何か違う気がした。


「……」


「……今さらやけど、だいぶ誘い方ふわっとしてたな」


 自分で言って、自分で少しへこむ。


 そこへ。


「白銀さん」


 声がして、白銀はびくっと肩を揺らした。


 振り向く。


 湊がいた。


 白っぽいシャツに、シンプルなパンツ。

 気負っている感じはないのに、ちゃんと見えるのが腹立つ。


「……お、おはよ」


「こんばんはじゃない?」


「それ前も言うたやろ!」


 反射で返してから、少しだけ安心する。


 この感じなら、何とかなるかもしれない。


「待った?」


 湊が聞く。


「別に」


「早かったんだ」


「ちょいな」


「そっか」


 短い会話。


 でも、それだけで白銀の心臓はちゃんとうるさい。


「で」


 湊が言う。


「今日はどこ行くの」


「……」


「……」


「何」


「いや」


「今さら聞くんやなって」


「だって白銀さん、詳しく言わなかったし」


「……それはそうやけど」


 白銀は少しだけ視線を逸らす。


「とりあえず、こっちな」


「うん」


 歩き出す。


 隣に湊が来る。


 たったそれだけのことが、最近は前よりずっと大きい。


     ◇


 最初に入ったのは、駅ビルの中にある少し広めの雑貨屋だった。


 前に来たときより、人は多い。

 夏休み後半の夕方だからか、学生っぽい姿も目につく。


「またここなんだ」


 湊が言う。


「悪い?」


「いや」


「白銀さん、好きなんだなって」


「……」


「……」


「何」


「その言い方、ちょっとずるい」


「何で」


「なんか、うちのこと分かってる感じするから」


 言ってから、少しだけ早かったかと思う。

 でも湊は特に困った顔もせず、小さく笑った。


「最近、前より分かるよ」


「っ……」


「……」


「今それ言う?」


「だめだった?」


「だめちゃうけど……」


 白銀は思わず棚のほうを向く。


 ダメじゃない。

 むしろ嬉しい。

 でも、その嬉しさを真正面から受け止める心の準備がまだない。


「今日のうち、たぶん誰よりも余裕ないで」


 小さく呟く。


「誰と比べてるの」


「知らん」


 でも、比べる相手はたぶんはっきりしていた。

 七海と、美羅李。

 あの二人は、自分より落ち着いて見える。


 もちろん、見えるだけかもしれない。

 でも今の白銀には、その“見えるだけ”がすごく大きい。


「なあ」


 白銀がシュシュの棚を見ながら言う。


「何」


「湊くん、こういうの見ても退屈ちゃうん?」


「別に」


「ほんまに?」


「白銀さんが楽しそうだから」


 その返事に、白銀は一瞬で止まる。


「……」


「……」


「それ、さらっと言うなや」


「だって本当だし」


「それがあかんねん」


 白銀は棚の前でしゃがみこみそうになるのを何とか耐えた。


 本人は、本当に思ったから言っているだけなのだろう。

 そこがまた、たちが悪い。


     ◇


 雑貨屋を出たあと、二人はそのまま服屋の並ぶフロアへ移動した。


 白銀としては、ここが今日いちばん危険だった。


 なぜなら。


「これどう?」


 自分から聞くしかないからだ。


 白い半袖のトップスを持って、白銀は湊を振り返る。


 湊は少しだけ見てから、素直に答える。


「似合いそう」


「それ、便利やなあ」


「便利?」


「何見せてもそう言いそう」


「じゃあちゃんと言う」


「何」


「今のは、本当に白銀さんに合いそう」


「……」


「……」


「言い直されると余計あかん」


 白銀は服を元の場所に戻しながら、小さくため息をついた。


「今日ほんま調子狂う」


「毎回言ってるね」


「毎回狂わされとるからな」


「俺が?」


「そうや」


 白銀は即答する。


「それで本人に自覚ないのが、いちばんたち悪い」


 湊は少しだけ困ったように笑った。


「自覚あったほうがいい?」


「それはそれで腹立つかも」


「難しいな」


「難しいねん」


 そのやり取りの途中、店員に「お似合いですね」と声をかけられた。


「っ……」


「え」


 白銀の思考が止まる。


 店員はにこにこと笑ったまま、こちらの服を見ている。


「お二人で選ばれてるの、すごくいい感じで」


「……」


「……」


「違います」


 白銀が反射で言った。


 でもその直後に、何でそんな即答したんや、と自分で思う。


 湊は少しだけ目を丸くしたあと、店員に軽く頭を下げた。


「ありがとうございます」


 否定しないんかい、と思ってしまった自分が嫌だった。


 店員が去ったあと、気まずい沈黙が落ちる。


「……」


「……」


「何」


 湊が聞く。


「いや」


「さっきの、否定早すぎたかなって」


「……」


「……」


「そこ気にするんだ」


「そら気にするやろ!」


 白銀が少し声を上げる。


「だって、変な感じになるやん!」


「今もなってるけど」


「それは湊くんのせいや!」


「俺?」


「そうや!」


 言い切ってから、白銀は少しだけ笑ってしまう。


 しんどい。

 でも、このしんどさは前より嫌じゃない。


     ◇


 服屋を出たあと、二人は少し歩いてから、駅ビルの上階にある小さなカフェに入った。


 窓際の席。

 夕方の光が少しだけ斜めに入る。


「疲れた?」


 湊が聞く。


「……ちょっと」


「歩いただけだけど」


「中身が濃いねん」


「何の」


「……」


「……」


「言わん」


 でも、湊はそこで無理に聞いてこない。


 その距離感に助けられることもあれば、物足りなさを感じることもある。

 最近は、その両方が同時に来る。


「なあ」


 白銀がストローをいじりながら言う。


「何」


「夏休み終わったら」


「うん」


「今の感じ、どうなるんやろな」


 かなり本音だった。


 湊は少しだけ考える顔をする。


「今の感じって?」


「……」


「……」


「ほんまそこ聞くんやな」


「分からないと困るし」


 その返しが真面目すぎて、白銀は少しだけ肩の力を抜く。


「前より、みんな近いやん」


「うん」


「でも学校始まったら、また変わるかもしれへんやん」


 七海は別の学校だ。

 美羅李ともクラスは違う。

 白銀と湊も、毎日好きなだけ話せるわけじゃない。


 だから最近、ふと怖くなる。


 今の距離が、夏休みの特別な空気でできているだけならどうしよう、と。


「白銀さん」


「何」


「たぶん、前には戻らないよ」


 湊は静かにそう言った。


「……」


「……何でそう思うん」


「戻りたくなさそうだから、みんな」


 その一言は、白銀にとって十分すぎた。


 “みんな”の中に、自分も入っている。

 それをちゃんと含めて言っている。


「……そっか」


 やっとそれだけ返す。


「その“そっか”はええんか」


「今のはええ」


 少しだけ笑う。


 湊も、小さく笑った。


     ◇


 帰り道。


 改札前で足を止める。


 少し前までなら、ここで普通に「また」で終わっていたかもしれない。


 でも今日は、白銀の中に少しだけ残るものがあった。


「なあ」


「何」


「今日」


「うん」


「来てよかった?」


 聞いてから、自分で少しだけ息を止める。


 重いか。

 いや、でも今は聞きたかった。


 湊は少しも迷わず答えた。


「うん。よかった」


「……」


「……」


「ちゃんと?」


「ちゃんと」


「……それならええわ」


 白銀は少しだけ顔を逸らす。


 でも、今日誘った意味はちゃんとあった。


 少なくとも、自分の中では。


「また誘う」


 白銀が小さく言う。


「うん」


「……今度は、もっとちゃんと」


「今日もちゃんとしてたけど」


「それは今言わんでええって!」


 でも、その返しに少しだけ笑ってしまう。


 白銀は最後に小さく手を振ると、改札へ向かって歩き出した。


 背中は熱い。

 でも足取りは少し軽い。


 このまま終わるのは嫌だ。

 その気持ちは、今日で前よりずっとはっきりした。

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