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関西弁の銀髪ハーフ美少女が俺を照れさせたいらしいが照れてるのはいつもキミだ  作者: 夜天 颯


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38/43

38. …うち、たぶんちょっと余裕ないで

白銀ルナが自分の部屋でスマホを見つめていたのは、夕方の少し前だった。


 エアコンの風はちゃんと効いているのに、指先が妙に落ち着かない。


 画面には、桐谷湊とのトーク履歴。


 少し前に自分から誘って、ちゃんと会って、ちゃんと前に出た。

 その手応えは、まだ胸のどこかに残っている。


 でも。


 それで安心できるほど、今の状況は甘くなかった。


 福原七海が、動いたからだ。


 昨日の夜、七海から来たメッセージ。


『私も、そろそろちゃんと行くから』


 あの一文が、思った以上に尾を引いていた。


「……」


「……何やねん、それ」


 もう何回目か分からない文句を、小さく呟く。


 ちゃんと行く、って何だ。


 いや、意味は分かる。


 分かるから腹が立つ。


 七海はいつも余裕そうで、少し引いたところから見ているように見えて、そのくせ急に真正面から来る。

 花火大会のキスもそうだった。


 だから厄介だ。


 白銀はベッドに転がって、スマホを胸の上に置く。


「……うち、せっかくちょっと前出れたのに」


 そのタイミングで来られるのは、正直しんどい。


 しかも、美羅李も引いていない。


 最近は前より静かに、でもはっきりと湊に近づいている。

 昔の話だけじゃなく、“今”の湊にも手を伸ばしている感じがある。


「……」


「……何でみんな、こんなちゃんと来るんやろな」


 自分もその一人のくせに、白銀はそんなことを思う。


 でも、その“ちゃんと来る”が、自分だけじゃないから落ち着かない。


 スマホが震えた。


 反射で取る。


 画面を見る。


「っ」


 湊だった。


『今、少しだけ通話できる?』


 短い一文。


 それだけで、白銀は完全に止まる。


「……」


「……何で今」


 いや、今だからこそかもしれない。


 夏休み後半。

 前みたいに“また今度”で流しにくい時期だ。


 でも、それにしたって心の準備がない。


『できるけど』


 と返す。


 すぐ既読。


 数秒後、着信が来た。


 白銀は一回深呼吸してから出る。


「もしもし」


『もしもし』


 湊の声。


 それだけで少しだけ落ち着いて、同時に余計に落ち着かなくなる。


「どうしたん」


『いや』


『ちょっと聞きたいことあって』


「何」


 白銀はベッドの端に座り直す。


 耳にスマホを当てたまま、無意識にクッションを抱きしめた。


『最近、白銀さん前よりちゃんと来るなって思って』


「っ……」


 いきなりそこか。


「何それ」


『そのままだけど』


「そのまますぎるやろ……」


『だめだった?』


「だめちゃうけど」


 だめじゃない。


 だめじゃないけど、心臓に悪い。


「……何でそんなこと聞くん」


 少し小さくなる声。


 湊は少しだけ間を置いた。


『知りたくなったから』


 またそれだ。


 思ったから、知りたくなったから、聞いたから。

 何でもない顔でそう言う。


「ほんま、そういうとこやねん……」


『何が』


「ずるいとこ」


 でも、今はその“ずるい”を責めるだけの気持ちじゃない。


 むしろ、それで前に進めるならいいと思ってしまうくらいには、自分も変わっていた。


『白銀さん』


「何」


『今、何考えてる?』


「……」


「……」


「言わん」


『なんで』


「全部言うたら終わる気するから」


 電話越しに、湊が少しだけ笑う気配がした。


『終わらないと思うけど』


「それを普通に言うなや」


 でも、少しだけ嬉しい。


     ◇


 その頃。


 七海は、自分の部屋の机に肘をついてスマホを見ていた。


 さっき送ったメッセージには、まだ既読がついていない。


 相手は湊。


『今週、空いてる日ある?』


 シンプルな文面だ。


 でも、シンプルだからこそ少しだけ本気が出る。


「……」


「……送ったな」


 自分で言って、少しだけ笑う。


 七海は白銀みたいに慌てたり、美羅李みたいに静かに構えたりはしない。

 でも、だからといって何も感じないわけでもない。


 最近はとくに、白銀の前進が見える。

 美羅李の静かな圧も増している。


 その中で、自分だけ“花火大会のキスをした側”に甘えて止まるのは、少し違うと思い始めていた。


「……」


「……そろそろ、ちゃんと行くって言うたし」


 それに見合うことはしたい。


 そのとき、スマホが震えた。


 湊からだ。


『空いてる』


『どうしたの』


 七海は少しだけ目を細める。


「どうしたの、ね」


 それを聞く時点で、もう半分くらい分かっている気もする。


『ちょっと会いたい』


 短く返す。


 送信。


 既読は早かった。


 そして返ってきたのは、


『分かった』


『じゃあ予定決めよう』


 その文面を見て、七海は少しだけ天井を仰いだ。


「……」


「……それ、普通に来るんだ」


 花火大会のあと、湊は前より揺れるようになった。

 でも、それでもやっぱり湊は湊で、変にドラマチックなことは言わない。


 そこが少しだけ可笑しくて、少しだけいい。


『ちゃんと覚えててね』


 と七海は打つ。


 既読。


『何を』


『私がまだ終わってないってこと』


 送信。


 そのあと、少しだけ笑ってスマホを置いた。


 この一言で、たぶん湊は少しだけ困る。


 そして、その“少し困る”が、今の七海には前より大事だった。


     ◇


 一方、美羅李は自室で静かに参考書を閉じていた。


 夕方の光が窓から差し込んで、机の上に薄く影を作っている。


 スマホの画面には、湊とのトーク画面。


 開いているだけで、まだ何も送っていない。


「……」


「……」


「そろそろかな」


 小さく呟く。


 白銀が前に出ている。

 七海も、きっと近いうちに動く。


 そのことは、美羅李にも分かっていた。


 だからこそ、自分も止まっているつもりはない。


 ただ、白銀みたいに勢いでは行けないし、七海みたいにさらっと強くは行けない。

 自分は自分のやり方でしか前に出られない。


「……」


「……でも、それでいい」


 美羅李は短く打った。


『今度、少しだけ時間ちょうだい』


 送信。


 少しして、既読。


 湊から返ってくる。


『いいよ』


『どうしたの』


 その返しを見て、美羅李は少しだけ目を伏せた。


 やっぱり優しい。

 でも、その優しさだけでは足りない。


『話したいことあるから』


 それだけ返す。


 既読。


『分かった』


 短い返事。


 それで十分だった。


 昔のことだけじゃない。

 今のことも、これからのことも。


 少しずつちゃんと、自分の言葉で取りに行く。


 そう決めていた。


     ◇


 夜。


 白銀は通話を終えたあとも、スマホを持ったまま動けなかった。


 湊との会話の最後。


『白銀さん、最近前よりずっと分かる』


 そう言われた。


 嬉しかった。

 でも、それ以上に少しだけ怖かった。


 見られている。

 気づかれている。

 それは白銀にとって、ずっと欲しかったことのはずなのに。


「……何でこんな落ち着かへんのやろ」


 枕に顔を埋めながら呟く。


 でも、その答えもだいぶ分かっている。


 見られているなら、もっと前に出たくなる。

 でも出れば出るほど、自分も揺れる。


 その繰り返しだ。


 そこでスマホが震えた。


 七海からだった。


『今日、湊と話した?』


「……」


「……見えてるんか?」


 思わず口に出す。


 でも、七海のことだ。

 何となくの勘だろう。


『した』


 と返す。


 既読。


『へえ』


『じゃあ、今日の白銀さんちょっと危ないね』


「何がや」


 と打つ前に、また来る。


『顔、見なくても分かる』


「腹立つなあ……」


 でも、少しだけ笑ってしまう。


 そこへもう一通。


『でも』


『前より好き』


 白銀は、その一文を見て少しだけ止まった。


「……」


「……何それ」


 冗談みたいな言い方だ。

 でも七海は、たまにそうやって、変な角度からまっすぐなことを言う。


『ややこしいけど、前よりちゃんと来てる白銀さん、嫌いじゃない』


 白銀はしばらく何も返せなかった。


 七海はライバルだ。

 たぶんこれからもっとそうなる。


 でも、その七海にそんなことを言われると、妙に力が抜ける。


『……福原さん』


『何』


『たまにほんまよう分からん』


 そう返すと、七海からはすぐに。


『お互いさま』


 とだけ来た。


 白銀はそれを見て、小さく笑った。


 夏休み後半。


 時間は減っていく。

 でも、その分だけみんな前に出る。


 それはしんどい。

 でも、少しだけ楽しい。


 白銀ルナはスマホを胸の上に置いたまま、目を閉じる。


「……」


「……負けたくないな」


 その言葉は、今までより少しだけ静かで、でもずっと本気だった。

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