表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
関西弁の銀髪ハーフ美少女が俺を照れさせたいらしいが照れてるのはいつもキミだ  作者: 夜天 颯


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
37/43

37. …あれ、私だけ置いてかれる気しない?

翌日の夜。


 福原七海は自室でヘッドセットをつけながら、画面の向こうの湊に向かって言った。


『今日、ちょっと反応遅くない?』


「そう?」


『そう』


「気のせいじゃない?」


『気のせいじゃないね』


 画面の中で、湊のキャラは微妙な位置で立ち止まっていた。


 七海のキャラがその前を通り過ぎる。


『今ので三回目』


「数えてるんだ」


『わりと分かりやすいから』


 湊は少しだけ息を吐く。


「最近みんなそれ言うな」


『だってそうだし』


 七海はそう返してから、少しだけ間を置いた。


『白銀さんと何かあった?』


「……」


「……」


「何でそうなるの」


『今の間で』


「やっぱり便利だな、その理屈」


『便利だよ』


 相変わらず落ち着いた声だ。


 でも、今日はその落ち着きの奥に少しだけ引っかかるものがあった。


「……少し出かけた」


『へえ』


「何」


『いや』


『ちゃんと進んでるんだなって』


 その言い方が妙に軽くて、妙に刺さる。


「七海」


『何』


「怒ってる?」


『別に』


 その“別に”は、白銀の“別に”とは違う。

 七海のはもっと薄い。

 でも、完全に何もないときの声でもなかった。


『ただ』


「うん」


『ちょっと置いてかれる気はする』


「……」


「……」


「何その言い方」


『そのまま』


 七海はゲームの操作をしながら続ける。


『白銀さん、前よりだいぶ来るようになったし』


『美羅李も、静かだけど全然引いてないし』


『で、湊も前よりちゃんと揺れてる』


「……」


『私だけ、花火大会で強いことやったあとに、ちょっと止まってたなって思っただけ』


 その言い方が、妙にまっすぐだった。


 湊は少しだけ黙る。


 花火大会のキス。

 そのあとの七海の言葉。

 “まだ終わったことになってへんから”。


 あれは冗談半分じゃなかった。


「七海」


『何』


「止まってるって思ってたの」


『少しは』


 七海はあっさり認めた。


『自分でやったくせに、ちょっと様子見しすぎたかも』


「珍しいね」


『そう?』


「うん」


『私もたまには迷うよ』


 その一言は、思っていたより静かだった。


 七海が迷う。

 それは少し意外で、でも、意外なだけに残る。


『だから』


「うん」


『今日はちょっと聞いとく』


「何を」


『次、私ともちゃんと出かける?』


 あまりにも自然な声だったから、一瞬意味が入ってこなかった。


「……」


「……」


『何』


「いや」


「それ、今聞くんだなって」


『今がいいかなって思った』


 七海は淡々としている。


 でも、その淡々さが今日は少し違う。


『白銀さんが前に出るのはいいよ』


『美羅李が静かに来るのも分かる』


『でも、私も別に終わってないから』


 そこまで言って、七海は少しだけ笑った。


『あのキスの続き、まだ保留だし』


「七海」


『何』


「そういうの、さらっと言うなよ」


『困る?』


「……少し」


『へえ』


 その“へえ”は、少しだけ満足そうだった。


『じゃあ、ちゃんと困らせるほうに行こうかな』


「何その宣言」


『そのままだよ』


 七海の声は落ち着いている。

 でも、今日はちゃんと前に出てきている。


 湊は少しだけ笑った。


「分かった」


『何が』


「今度、ちゃんと出かけよう」


『……』


「……」


『それ、今の私にはかなり効くんだけど』


「七海もそういうことあるんだ」


『あるよ』


『湊が思ってるより、ちゃんとある』


 その言い方が少しだけ本音っぽくて、湊は返事に困った。


 画面の中では、二人のキャラが止まったままだった。


『ねえ』


「何」


『今、ゲーム止まってるよ』


「七海が止めたんでしょ」


『そうだっけ』


「そうだよ」


『じゃあ再開しよ』


「急だな」


『こういうのは、一回落ち着いたら危ないから』


「何が」


『色々』


 その返しに、湊は少しだけ笑った。


 七海も結局、前と変わらないところがある。

 余裕があって、でも急にまっすぐで、言うだけ言って少し引く。


 ただ、今日はそこにもう一段階だけ本気が見えた。


     ◇


 通話を切ったあと。


 七海はヘッドセットを外して、ベッドに寝転んだ。


「……」


「……言ったなあ」


 自分で言って、自分で少し笑う。


 置いてかれる気がした。

 それは本当だ。


 でも、本当はそれだけじゃない。


 湊が前よりちゃんと揺れていて。

 白銀が前に出ていて。

 美羅李も静かに来ていて。


 その中で、自分だけ“花火大会の強い一手”に寄りかかったまま終わりたくなかった。


「……」


「……まあ」


「ちゃんと出かけるって言うたし」


 そこは収穫だった。


 七海はスマホを手に取る。


 白銀とのトーク画面を開く。


 少しだけ考えてから、打つ。


『白銀さん』


『最近、だいぶ頑張ってるね』


 送る。


 少しして、既読。


 そして白銀からすぐ返ってくる。


『何や急に』


 七海は少しだけ口元を緩めた。


『別に』


『ちょっと思っただけ』


 既読。


『気持ち悪いな』


「言うなあ」


 でも、その返しは白銀らしくて、少しだけ安心する。


『でも』


 七海は続けて打つ。


『私も、そろそろちゃんと行くから』


 送信。


 その数秒後。


 白銀から。


『……』


『それは、ちょっと嫌やな』


 その文面を見て、七海はふっと笑った。


「正直だね」


 でも、嫌じゃない。


 こうしてちゃんと互いを意識して、ちゃんと前に出ていく感じは、むしろ少し心地よかった。


 夏休みは、もう後半だ。


 だからこそ。


 ここからは誰も、前みたいに“そのうち”ではいられない。


 七海はスマホを置いて、天井を見る。


「……」


「……まだ終わらないね」


 その呟きは、自分でも少しだけ楽しそうだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ