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関西弁の銀髪ハーフ美少女が俺を照れさせたいらしいが照れてるのはいつもキミだ  作者: 夜天 颯


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34. …四人そろうだけで、なんで毎回こうなん

夏休み後半の午後。


 日差しはまだきついのに、夕方が少しだけ近づいている感じがした。


 駅前のショッピングモールは冷房が効いていて、外よりずっと楽だ。

 でも、その涼しさのわりに、白銀ルナの心臓はあんまり落ち着いていなかった。


「……」


「……なんでやねん」


 思わず小さく呟く。


 目の前には、桐谷湊。

 その少し横には、福原七海。

 そして、少し遅れて合流した倉持美羅李。


 結果、今日も四人だ。


 本来、今日は湊が課題用の本を探しに来るだけだった。

 白銀としては、うまくいけば少しだけ話せるかもしれへん、くらいのつもりだった。


 でも、蓋を開けたらこれである。


「何その顔」


 七海が言う。


「何でもない」


「全然何でもなくなさそうだけど」


「福原さんはほんまよう見とるな」


「分かりやすいから」


「最近それしか言うてへんやろ」


「便利なんだよね」


 便利に使われてたまるか、と思う。


 でも、その横で美羅李が小さく言う。


「便利ではある」


「倉持さんまで乗らんでええねん」


 白銀はそう返しながら、じとっと湊を見る。


 湊は三人の視線を受けて、少しだけ困った顔をした。


「なんで俺見るの」


「そら見るやろ」


 白銀が言う。


「中心やし」


「中心って何」


「知らんけど」


「雑だな」


 湊が小さく笑う。


 その笑い方がいちいち自然で腹立つ。


     ◇


「で、何探してるの?」


 七海が聞く。


「参考書と、あとはノート」


 湊が答える。


「真面目」


「課題終わってないし」


「それ、この夏何回聞いたっけ」


「耳が痛い」


 そう言いながらも、湊は文房具売り場へ歩き出す。


 その隣に、七海が自然に並ぶ。


「……」


「……」


「何」


 七海が振り向く。


「何でもない」


「それ、絶対何かあるやつ」


 白銀はふいっと目を逸らす。


「別に、自然やな思っただけや」


「うん」


「うん、って何やねん」


「褒められたのかと思って」


「褒めてへん!」


 そのやり取りを見ていた美羅李がぽつりと呟く。


「白銀さん、今日ちょっと忙しいね」


「その言い方やめて!」


 即座に返すと、七海が吹き出した。


「たしかに忙しい」


「今日だけちゃうやろ」


 湊が言う。


「え」


 白銀が止まる。


「……」


「……」


「今、地味にひどいこと言わへんかった?」


「褒めたつもりだったけど」


「どこが!?」


 湊は少しだけ考える顔をしてから、平然と言った。


「賑やかで助かる」


「っ……」


 そういうのだ。


 そういう、本人の中ではただの事実なのに、妙に効くやつ。


「……今それ言う?」


 白銀が小さく言う。


「だめだった?」


「だめちゃうけど」


「じゃあ何」


「調子狂うねん」


 もう隠す気があんまりなくなってきている。


 それを自覚すると、また少しだけ恥ずかしくなった。


     ◇


 文房具売り場で、四色ボールペンを見ていたときだった。


「湊、これ」


 七海が一本持ち上げる。


「使いやすそう」


「たしかに」


 その二人のやり取りの横で、白銀はなんとなく別の棚を見ていた。


 でも、全然頭に入ってこない。


 なぜなら。


「白銀さん」


 美羅李が静かに呼んだからだ。


「何」


「今日、珍しく黙ってる」


「そう?」


「うん」


「……」


「……」


「倉持さんの前では、ちょっとそうなるだけや」


「なんで?」


「なんでって」


 白銀は少しだけ困った。


 理由はいくつかある。


 美羅李は静かに刺してくる。

 そのくせ、変に悪意がない。

 だからこっちも、怒るに怒れない。


 しかも最近は、その美羅李が前より少しだけ素直に来るから、余計にやりづらい。


「……静かやのに圧あるねん」


 白銀が小さく言うと、美羅李が少しだけ目を丸くした。


「そうなんだ」


「そうや」


「気をつける?」


「気ぃつけられたらそれも違うねん」


「難しいね」


「難しいねん」


 でも、そのやり取りの途中で、白銀は少しだけ気づく。


 前より普通に話せている。


 いや、完全に普通ではない。

 でも花火大会直後みたいな、どうしようもないぎこちなさは減っていた。


「なあ」


 白銀が小さく言う。


「何」


「うちら、ちょっとだけマシになった?」


 自分で言ってから、何を聞いてるんだと思う。


 でも、美羅李は変に笑わなかった。


「少しだけ」


「やんな」


「うん」


 短いやり取り。


 それだけなのに、少しだけ肩の力が抜けた。


     ◇


 その頃、湊は七海にノートを見せられていた。


「これでいいと思う?」


「うん」


「雑だね」


「そこまで変じゃないし」


「もっと見なよ」


「見てるよ」


「へえ」


 七海はそう言いながら、少しだけ湊の顔を見た。


「何」


「いや」


「湊、最近ちょっと変わったなって」


「またそれ」


「また」


「みんな同じこと言うな」


「みんな思ってるんじゃない?」


 その返しに、湊は少しだけ黙る。


「何が変わったの」


「前より、ちゃんと揺れる」


 七海は軽く言った。


「前はもっと全部流してた」


「そうかな」


「そうだよ」


 そして少しだけ声を落とす。


「白銀さんにも、美羅李にも」


「……私にも」


 最後だけ、小さく。


 でも、ちゃんと聞こえる。


「……」


「……」


「何」


「いや」


「七海がそういうこと言うと、不意打ちだなって」


「そっちが聞いたからでしょ」


 それもそうだった。


 そのとき。


「なあ湊くん」


 白銀が割り込むように来た。


「何」


「ノート、それそっち先決まるん?」


「え?」


「いや」


「うちも見るし」


 かなり雑な割り込みだった。


 でも、七海は吹き出しそうな顔をしているし、美羅李は少しだけ目を細めている。


「白銀さん」


 七海が言う。


「何」


「今の、だいぶ来たね」


「何が」


「割り込み方」


「知らん!」


 でも、自分でも少し分かっていた。


 今のはちょっと露骨だった。


 それでも、前みたいに引っ込めたくなかった。


 湊がそんな白銀を見て、少しだけ笑う。


「白銀さん、今日だいぶ元気だね」


「……」


「……」


「それ、褒めてる?」


「うん」


 また、それだ。


 本人が何でもない顔で言うから困る。


「調子狂うわ……」


 小さく呟いた白銀の声は、誰にも拾われなかった。


     ◇


 少し歩いて、フードコートの端で休憩することになった。


 四人分の飲み物がテーブルに並ぶ。


 湊は水。

 七海は炭酸。

 美羅李はアイスティー。

 白銀はカフェラテ。


「なんか」


 白銀がストローを回しながら言う。


「四人で普通に座っとるの、未だにちょっとおもろいな」


「分かる」


 七海が言う。


「でも前よりは自然じゃない?」


「そう?」


「そうだよ」


 そして七海が、ちょっとだけ意地悪そうに続ける。


「白銀さんが前より逃げなくなったから」


「……」


「……」


「福原さん、その言い方やめて」


「なんで」


「ちょっと照れる」


 言ったあとで、自分でうわ、と思った。


 何をそんな素直に。


 でも、今さら引っ込められない。


 湊が少しだけ目を丸くしている。


 美羅李は、静かにカップを持ったまま言う。


「でも、それでいいと思う」


「何が」


「そのままのほうが」


 白銀は少しだけ目を逸らす。


 前なら、そういう言葉はむしろ嫌だったかもしれない。


 でも今は、ちょっとだけ嬉しい。


「……」


「……」


「何」


 湊が聞く。


「いや」


「何か、前よりちょっと分かるなって」


「何が」


「白銀さんのこと」


「っ」


 白銀は完全に止まった。


「……それ今言う?」


「だめだった?」


「だめちゃう」


「じゃあ何」


「……心の準備がない」


 湊が少しだけ笑う。


 その笑い方がやさしくて、白銀はまた視線を逸らした。


 やっぱり、前よりもう少しだけ踏み込めている。

 でも、踏み込んだぶんだけ自分も揺れる。


 それが今の白銀ルナだった。


     ◇


 帰り際。


 モールの出口で、自然と足が止まる。


「じゃあ」


 七海が言う。


「今日はこのへんで」


「うん」


 美羅李もうなずく。


「またね」


 白銀は少しだけ黙ってから、湊を見た。


「なあ」


「何」


「次」


「うん」


「……勉強関係ないやつでもええ?」


 言った瞬間、自分で止まりそうになる。


 でも、今日は最後まで行きたかった。


 湊は少しだけ目を見開いてから、答える。


「いいよ」


「……」


「……」


「それだけ?」


 白銀が聞く。


「何かいる?」


「ちょっとくらい困ってくれてもええやん……」


 かなり本音だった。


 湊は少しだけ困ったみたいに笑う。


「じゃあ、ちょっと困った」


「っ……」


「そういうの、言われると困る」


 その返しに、今度は白銀が止まる番だった。


「……」


「……」


「今日、ほんまそれ多いな」


 でも、口元は少しだけ緩んでいる。


 たぶん今のは、ちゃんと進んだ一歩だ。


 勉強じゃない。

 課題じゃない。

 ちゃんと、自分から会いたいって言った。


 その事実が、胸の奥でじわじわ熱くなる。


「また連絡する」


 白銀が言う。


「うん」


「……ほんまにするからな」


「待ってる」


「っ……」


 最後の最後でそれを言う。


 白銀は顔を逸らしたまま、小さく言う。


「そういうとこやねん……」


 でも、その声は少し笑っていた。

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