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関西弁の銀髪ハーフ美少女が俺を照れさせたいらしいが照れてるのはいつもキミだ  作者: 夜天 颯


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23/43

23. …なんで福原さんまで来とるん?

カフェのドアが開いて。


 少しだけ息を切らした俺――桐谷湊が入ってきて。


 そのすぐ後ろから、もう一人の声がした。


「お邪魔します」


 白銀ルナは、その場で固まった。


「……え?」


 目の前にいるのは湊だけじゃない。


 その後ろ。

 涼しい顔で立っていたのは、福原七海だった。


「……なんで福原さんまで来とるん?」


 やっと出た声が、それだった。


 七海は少しだけ首をかしげる。


「来たらまずかった?」


「まずいとかちゃうけど!」


「じゃあ何」


「なんで一緒なん!?」


 思わず声が大きくなって、白銀は慌てて座り直した。


 向かいで、美羅李が小さく言う。


「それは、ちょっと気になる」


「倉持さんまでそっち!?」


 白銀は本気で頭を抱えたくなった。


 湊は少し気まずそうに言う。


「七海とゲームしてて」


「うん」


「白銀さんから“助けて”って来たから」


「うん」


「来た」


「雑すぎへん?」


 白銀がじとっと睨むと、七海が横から平然と続けた。


「要点は合ってるよ」


「そういう問題ちゃうねん……!」


 でも、そのあとで自分の耳が熱くなっているのが分かった。

 “助けて”を正面から出されるのは、さすがにきつい。


「白銀さん」


 七海が言う。


「何」


「来てほしかったんでしょ」


「……」


「……」


「そういう聞き方ずるいやろ」


 白銀は小さくそう返して、ストローをいじった。


     ◇


「とりあえず、座れば?」


 美羅李が静かに言う。


 その一言で、立ったままだった二人がようやく動いた。


 店員に椅子を一つ借りて、四人でテーブルを囲む。


 白銀の隣に湊。

 向かいに美羅李。

 その斜め横に七海。


 座っただけなのに、妙に息苦しい。


「……近」


 白銀がぼそっと言った。


「何が」


 湊が聞く。


「別に」


 全然別にじゃない顔だった。


 七海がそれを見て、口元だけ笑う。


「今日、反応いいね」


「福原さんはずっと楽しそうやな」


「見てるぶんにはね」


「見られてる側はしんどいねん」


 その返しだけは妙に速かった。


     ◇


「で?」


 七海がストローをくるくる回しながら言う。


「何」


「二人で何話してたの」


 白銀と美羅李が、ほぼ同時に少しだけ視線を逸らした。


「……」


「……」


「何その間」


 七海が笑う。


「いや、別に」


 白銀が言う。


「そんな大したことちゃうし」


「ほんまに?」


「ほんまにや」


 でも、そのあとで少しだけ声が落ちた。


「……ちょっと落ち着かん話しただけや」


「落ち着かん話」


 湊が復唱する。


「雑やなあ」


「湊くんが言うな!」


 白銀はすぐにそっちを向く。


「なんで」


「なんか、そうやねん!」


 自分でもうまく説明できていないのが分かる顔だった。


 その横で、美羅李がぽつりと言う。


「でも、思ってたより普通に話せたよ」


「……」


「……」


「そう言われると、なんかむずい」


 白銀はカフェラテの氷を見る。


 七海がまた口元を緩めた。


「仲良くなった?」


「なってへん!」


 即答だった。


「まだそこちゃう」


 言ったあとで、自分で少し止まる。


「……」


「……」


「何」


 白銀が顔を上げると、七海がにやっとしていた。


「いや、“まだ”って言うんだなって」


「福原さんほんまうるさい!」


     ◇


 湊は水のグラスを持ちながら、小さく息を吐いた。


「で、白銀さんはなんで俺に“助けて”って送ったの」


「っ……」


 そこ聞くんだ。


 白銀は一瞬で固まる。


「いや、その」


「なんか」


「空気が、しんどなって」


「しんどい?」


「倉持さん、普通に落ち着いとるし」


「会話も続くし」


「うちだけ妙に落ち着かへんし」


「……ひとりでおると余計しんどかってん」


 最後だけ、少し小さかった。


 湊は少しだけ目を細める。


「そっか」


「その“そっか”やめて」


「何が」


「なんか、うちだけ子どもみたいやん」


「見えてないよ」


「……」


「……」


「今の、ずるい」


 白銀はそう言って顔を逸らした。

 でも、さっきよりは肩の力が抜けている。


     ◇


「じゃあ」


 七海が言う。


「今から解散?」


「早ない?」


 白銀がすぐ返す。


「せっかく来たのに」


「呼んだの白銀さんだけどね」


「……せやけど」


 七海は少し笑って、それ以上は言わなかった。


 美羅李が静かに口を開く。


「少し歩く?」


「外?」


 湊が聞く。


「うん。ここ、ちょっと重いし」


「それはそう」


 七海が言う。


「白銀さんもそろそろ息しづらそうだし」


「なんでうち基準なん!?」


「分かりやすいから」


「それ今日何回目やねん……」


 白銀は小さく文句を言いながらも、立ち上がった。


     ◇


 外はまだ少し暑かったけど、店の中よりずっと楽だった。


 駅前の歩道を、四人で並んで歩く。


 ……並んでいるはずなのに、なんとなく位置が気になる。


「なんで自然に湊くんの横来るん」


 白銀が言う。


「空いてたから」


 七海が返す。


「そっちもそうでしょ」


「うちはええねん」


「理屈が雑だなあ」


 そのやり取りの少し後ろから、美羅李がぽつりと言う。


「ちゃんと離れないんだね」


「……」


「……」


「倉持さん、それ今言う?」


 白銀が止まりかける。


「思ったから」


「その“思ったから”を静かにやるの、ずるいねん」


 湊が思わず笑う。


「何わろてんの」


「いや」


「白銀さん、大変そうだなって」


「他人事みたいに言うな!」


 でも、そのツッコミには少しだけいつもの調子が戻っていた。


     ◇


 少し歩いたところで、白銀がふっと足を止めた。


「……なあ」


「何」


 湊が返す。


「今日のこと、まだよう整理できてへん」


「うん」


「でも」


「何」


「前みたいに、もうごまかされへん気はする」


 その言い方は、すごく白銀らしかった。


 はっきり言い切らない。

 でも、逃げてもいない。


 七海が横で少しだけ目を細める。


「へえ」


「何」


「いや」


「やっとそこまで来たんだなって」


「その言い方やめて!」


 白銀はまた赤くなる。


 でも今度は、美羅李が白銀を見て小さく言う。


「分かる」


「……」


「……」


「なんでそこで分かるん」


「なんとなく」


「便利な言葉やな」


 白銀は小さく息を吐いた。


 その横顔は少しだけ疲れていて、でも前よりずっと素直に見えた。


     ◇


 駅前の分かれ道まで来る。


 自然と足が止まった。


「じゃあ」


 七海が言う。


「今日はこのへんで」


「うん」


 美羅李も小さくうなずく。


「またね」


 白銀は少しだけ黙ってから、湊のほうを見た。


「なあ」


「何」


「次」


「うん」


「うちが先に誘うから」


 その一言で、空気が少し止まる。


 言った本人が、いちばん驚いている顔をしていた。


「……今のなし」


「なしじゃないでしょ」


 七海が言う。


「ちゃんと聞いたし」


「うるさい!」


 白銀は真っ赤になる。


 でも、引っ込めなかった。


「……もうええわ」


 それから、ちゃんと湊を見る。


「次は、うちが先な」


「分かった」


 湊がそう返すと、白銀は一瞬だけ目を丸くしたあと、少しだけ笑った。


 その笑い方が、今日の中でいちばん自然だった。


「じゃあ、私も」


 七海がさらっと言う。


「福原さんまで乗るん!?」


「平等にしようかなって」


「何の平等や!」


 そこへ、美羅李も静かに続けた。


「私も先に言う」


「倉持さんまで!?」


 白銀のツッコミが今日いちばん大きかった。


 収拾がつかない。


 でも、誰も本気では困っていない気もした。


 ……いや。


 白銀本人だけは、自分で言ってしまったことにまだついていけていなかった。


 頬が赤い。

 耳も赤い。

 それなのに、引く気はなさそうだった。


「湊」


「何」


 三人の声が、少しだけ重なる。


「……」


「……」


「なんで一斉に来るんだよ」


 その一言で、七海が笑い、美羅李が少し口元を緩め、白銀が「そらそうやろ!」と即ツッコミを入れた。


 その空気が妙におかしくて、湊も少しだけ笑ってしまった。


 夏休みはまだ始まったばかりだ。


 なのに、もうだいぶややこしい。


 でも。


 そのややこしさを少しだけ面白いと思ってしまった時点で、たぶんもう戻れない。


「じゃあ、また連絡する」


 七海が言う。


「うん」


「今度はゲーム切らないでよ」


「状況による」


「最低」


 その会話を最後に、少しずつみんなが離れていく。


 でも――


 白銀だけが、少しだけその場に残った。


「なあ」


「何」


「さっきの」


「うん」


「……覚えといてな」


「どれ」


「先に誘うってやつ」


「覚えてるよ」


「……」


「……」


「そういう返し、ずるい」


 白銀はそう言って、でも最後にはちゃんと笑った。


「またな」


「ああ、また」


 銀色の髪が揺れて、少し先の人混みに溶けていく。


 その背中を見送りながら、湊は小さく息を吐いた。


 今日は長い一日だった。


 でも。


 本当にややこしくなるのは、たぶんここからだ。


 そう思った、そのとき。


 スマホが震える。


 画面を見る。


 差出人は――倉持美羅李。


『さっきの、冗談じゃないから』


「……」


 数秒遅れて、今度は白銀さんから。


『なあ湊くん』


『倉持さん、さっき最後なんか怖かったんやけど』


 さらに、その直後。


 七海から。


『まだ何かありそうだね』


 湊はスマホを見下ろしたまま、しばらく動けなかった。

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