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関西弁の銀髪ハーフ美少女が俺を照れさせたいらしいが照れてるのはいつもキミだ  作者: 夜天 颯


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20/43

20. …その顔、今日いちばんむかつく

花火大会の終盤。


 夜空いっぱいに、連続で花火が咲いていた。


 赤、青、金。大きな音が腹に響いて、川沿いの人たちがいっせいに空を見上げる。歓声と拍手が重なるたびに、祭りの空気も最高潮に近づいていた。


 そんな中で。


 俺――桐谷湊は、少しだけ困っていた。


 理由は単純だ。


 右を見れば白銀ルナ。


 左を見れば福原七海。


 少し後ろには倉持美羅李。


 そしてさっきまでより、明らかに空気が変わっている。


 特に白銀さん。


「……」


「……」


「何」


「別に」


 全然別にじゃない顔だった。


 さっき二人で少し離れて話したあとから、白銀さんは妙に静かだ。静かだけど、落ち着いてはいない。むしろその逆で、何かを飲み込めずにいる顔をしている。


 でも、それを言葉にはしてこない。


 たぶん。


 自分の中で、まだうまく整理できていないんだと思う。


 そして、そういう微妙な空気を一番楽しんでいそうなのが、七海だった。


「湊」


「何」


「今日、だいぶ大変そうだね」


「他人事みたいに言うな」


「半分は他人事だから」


 半分は、なんなんだ。


 そう思って七海を見ると、七海は少しだけ笑った。


「でも、思ったより面白い」


「やっぱり楽しんでるだろ」


「かなり」


 即答だった。


 その会話の横で、白銀さんが少しだけむっとした顔をする。


「福原さん、今日ずっと楽しそうやな」


「うん」


「隠す気もないんや」


「ないね」


「強いなあ」


 白銀さんが小さく言う。


 その一言に、美羅李が静かに続けた。


「たしかに」


「……」


「……」


「倉持さんまで言うんや」


 白銀さんが少しだけ目を細める。


「事実だから」


「静かに刺してくるなあ」


 でも、そのやり取りすらどこか軽かった。


 修羅場のはずなのに、妙にテンポがいい。

 たぶん誰も、本気で空気を壊したいわけじゃないんだと思う。


 ただ、少しずつ。


 少しずつだけ、みんなが前に出てきている。


     ◇


 最後の連発が終わると、夜空は一気に暗くなった。


 そのぶん、周りのざわめきが急に近くなる。


「終わったなあ」


 白銀さんがぽつりと言う。


「うん」


「……終わってしもた」


 その言い方が少しだけ惜しそうだった。


 七海が空を見上げたまま言う。


「まあ、でもここからでしょ」


「何が」


「帰り道」


 その一言に、白銀さんがすぐに振り向く。


「なんで帰り道が本番みたいな言い方なん?」


「だって、花火大会ってそういうものじゃない?」


「福原さん、そのへん妙にラブコメ慣れしてへん?」


「知らないけど」


 七海は肩をすくめる。


 でも、少し楽しそうだった。


 人の流れが帰り方向に動き始める。


「じゃあ、行こか」


 白銀さんがそう言って歩き出す。


 今度は並びが少し変わった。


 最初は俺の隣に白銀さん、その反対側に七海、少し後ろに美羅李。


 でも人混みの流れで、すぐにまた入れ替わる。


「うわ、ちょっと待って」


「押すなって」


「そっち行ったら屋台側や」


 人が多い。


 祭りが終わったあとの流れは、来るとき以上に雑だった。


 白銀さんが俺の袖をつかむ。


「これはもう、しゃあないからな」


「また言うんだ」


「大事やろ」


 そのとき、反対側から七海の声。


「湊、こっち」


 見れば、七海が少し先に出ていた。


「今そっち行ったら、白銀さん転ぶと思うけど」


「え」


「転ばん!」


 言いながら、白銀さんは俺の袖をつかむ手に少し力を入れた。


 七海がそれを見て、ふっと笑う。


「分かりやすい」


「うるさい!」


 そこへ、美羅李が静かに言う。


「はぐれないようにしたいなら、手つなげば?」


「……」


「……」


「倉持さん、それ静かに何言うてるん」


 白銀さんが固まる。


「合理的だけど」


「よくないやろ!」


「なんで」


「なんででもや!」


 真っ赤だった。


 七海がそこでさらっと言う。


「じゃあ、湊」


「何」


「白銀さん転ばせないようにちゃんと見てて」


「見てるよ」


「……」


「……」


「その返し今じゃなくてよかったやろ……」


 白銀さんが顔を押さえる。


「ほんま今日あかん……」


     ◇


 駅へ向かう途中、少しだけ人の流れが落ち着く場所があった。


 街灯の下。

 花火の余韻がまだ残っていて、遠くから祭りの音も少し聞こえる。


「ちょっと休憩しよ」


 七海が言う。


 誰も反対しなかった。


 少し歩いただけなのに、変に疲れていたからだ。


「……なあ」


 白銀さんが言う。


「何」


「今日、ほんまに情報量多すぎひん?」


「それはそう」


「花火きれい」


「うん」


「人多い」


「うん」


「浴衣しんどい」


「うん」


「あと」


「何」


「湊くん、普通に刺してくる」


「そんなつもりないけど」


「それが一番あかんねん!」


 白銀さんが即ツッコむ。


 でも、そのやり取りの途中で、七海が少しだけ前に出た。


「ねえ、湊」


「何」


「ちょっとこっち」


「なんで」


「いいから」


 その言い方が妙に自然で、俺は深く考えずに七海のほうへ一歩寄った。


 その瞬間だった。


「――っ」


 七海が、俺の襟を軽く引いた。


 一瞬だけ、視界が近づく。


 柔らかい感触。


 ほんの一瞬。


 でも、確かに。


「……」


「……」


「……え」


 思考が止まった。


 七海が少しだけ顔を離す。


 その表情は、意外なくらい平然としていた。


「……反応遅い」


「いや」


「今の」


「うん」


「軽く」


 七海は肩をすくめる。


「してみただけ」


 してみただけ、で済ませることじゃない。


「……」


「……」


「福原さん?」


 白銀さんの声が、やけに静かだった。


「何」


「今、何したん?」


「見たままだけど」


 七海がさらっと言う。


「ちょっとキスした」


「ちょっとって何!?」


 白銀さんが完全に固まる。


 その横で、美羅李も止まっていた。


 いつも静かなこの人が、今ばかりは本当に無言だった。


「え、ちょ、待って」


 俺の声もだいぶおかしかった。


「なんで」


「なんでって、したかったから?」


 七海が小さく首をかしげる。


「それに」


「反応見たかったし」


「……」


「……」


「湊」


「何」


「顔、真っ赤」


 その一言で、さらに自覚してしまった。


 熱い。


 顔が、耳が、たぶん首まで熱い。


 今まで白銀さんに何を言われても、どこか平然としていられたのに。


 今は無理だった。


「……」


「……」


「ほんまや」


 白銀さんがぽつりと言う。


「今日いちばん照れとる」


「……うるさい」


「初めて見たかも」


 七海が面白そうに言う。


「湊がここまで分かりやすいの」


「ちょっと黙ってほしい」


「無理」


 さらっと返される。


 その一方で、白銀さんの顔は笑っていなかった。


 笑えないんだと思う。


「……福原さん」


「何」


「それ、反則やろ」


 かなり小さい声だった。


「なんで?」


「なんでもや」


「それに」


 白銀さんは少しだけ唇を噛む。


「うち、まだ……」


 そこまで言って止まる。


「……」


「……」


「白銀さん?」


「何でもない!」


 即座に逸らした。


 でも、その顔は明らかに悔しそうだった。


     ◇


「……へえ」


 静かな声。


 美羅李だった。


 その声に、場の空気がまた少し変わる。


 美羅李は俺ではなく、七海を見ていた。


「そういうことするんだ」


「するよ」


 七海はあっさり答える。


「ダメだった?」


「ダメじゃない」


 美羅李はゆっくり首を振る。


「でも、そういうのは」


「ちゃんと順番守るタイプかと思ってた」


「何その評価」


「なんとなく」


 その言い方は穏やかだった。


 けど、目は笑っていない。


「……」


「……」


「え、ちょっと待って」


 俺が言う。


「なんでそこで火力上がるの」


「上がってないよ」


 美羅李が言う。


「ただ、ちょっとだけ」


「今のは覚えておこうかなって思っただけ」


 その一言に、白銀さんがぴくっと反応する。


「倉持さん、それ地味に怖いねん」


「そう?」


「そうや」


 でも美羅李は本当に不思議そうだった。


 それが逆に怖い。


「湊」


 七海が言う。


「何」


「今日、帰れそう?」


「どういう意味」


「精神的に」


「……」


「……」


「無理かもしれない」


 正直に答えると、七海が笑う。


「だよね」


     ◇


 そのあと、空気を変えたのは白銀さんだった。


「……なあ」


 ぽつりと呟く。


「何」


「うちも」


 そこまで言って止まる。


 全員がそっちを見る。


「……」


「……」


「白銀さん?」


「今は言わへん!」


 ばんっと自分の額を軽く叩いた。


「今言うたら、絶対おかしなる!」


「十分おかしいけど」


「湊くん黙っといて!」


 白銀さんは顔を真っ赤にしたまま、でもちゃんと前を向いていた。


 その顔を見ていると、悔しいのも、焦っているのも、でもそれ以上に、自分の気持ちを無視できなくなっているのが分かった。


「……でも」


 白銀さんは、少しだけこっちを見た。


「次は、うちが困らせるからな」


 その言い方は、いつもの“照れさせたいゲーム”みたいだった。


 でも、今はもう少しだけ違う。


 たぶん本人も、それを分かっている。


「楽しみにしてる」


 俺が言うと、白銀さんは一瞬だけ止まって、それから顔を背けた。


「その顔、今日いちばんむかつく」


「どんな顔」


「めっちゃ照れてる顔」


 七海が横で吹き出す。


「たしかに」


「ほんま、今の湊すごいで?」


「言わないでほしい」


「無理」


「全員無理そうだね」


 美羅李まで小さく笑っていた。


     ◇


 駅前で解散する流れになった。


 もう祭りのざわめきも少し遠くなっていて、代わりに帰る人たちの足音や話し声が広がっている。


「じゃあ、また」


 七海が言う。


「うん」


「今日はありがとう」


「こっちこそ」


「あと」


 七海が少しだけ目を細めた。


「今のは忘れなくていいよ」


「……」


「……」


「帰っていい?」


「だめ」


 笑ってそう言うと、七海は先に歩き出した。


 強いな、と改めて思う。


 その横で、美羅李が一歩前に出る。


「湊」


「何」


「私も、次は遠慮しないから」


「それ宣言するんだ」


「したほうが分かりやすいでしょ」


 それだけ言って、小さく手を振る。


「またね」


「ああ」


 美羅李も去っていく。


 残ったのは、俺と白銀さんだった。


「……」


「……」


「何」


 白銀さんがじっと見てくる。


「何でもない」


「絶対何かあるでしょ」


「ある」


 認めるんだ。


「でも」


「何」


「今は、言わへん」


 その言い方は、少し悔しそうで、少しだけ強がっていた。


「せっかくやし」


「うん」


「もうちょいちゃんと、自覚してから言う」


「……」


「……」


「白銀さん」


「何」


「それ、かなり大事なこと言ってる気がする」


「せやから今は言わへんのやって!」


 また赤くなる。


 でも、その目は逃げなかった。


「じゃあまたな」


 白銀さんが言う。


「ああ、また」


「……今日のこと、忘れたら許さんで」


「どのこと」


「全部や!」


 そう言って、白銀さんは少しだけ早足で去っていった。


 夜風が、銀色の髪を揺らす。


 立ち尽くしたまま、俺は深く息を吐いた。


 花火大会は終わった。


 でも。


 たぶん本当に始まるのは、ここからだ。


 そう思った、そのとき。


 スマホが震えた。


 画面を見る。


 差出人は――白銀さん。


『なあ湊くん』


『もし次、うちが同じことしたら』


 そこでメッセージは途切れていた。


 そして、数秒後。


 もう一通、続きが来る。


 でも。


 それを開く前に、俺の心臓がまた一回、大きく鳴った。

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