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関西弁の銀髪ハーフ美少女が俺を照れさせたいらしいが照れてるのはいつもキミだ  作者: 夜天 颯


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18/43

18. …なあ湊くん、まだ集合しただけやのに、なんでこんなに疲れるん?

花火大会当日。


 七月の夕方は、昼より少しだけ優しい色をしていた。


 空はまだ明るいのに、駅前にはもう夏祭りの空気が流れている。浴衣姿の人、屋台の匂い、遠くから聞こえる祭り囃子。駅前の時計台の下は待ち合わせの人でごった返していて、その中心に立っているだけで、もう少しだけ暑かった。


 そんな中。


 俺――桐谷湊は、スマホを見て小さく息を吐いた。


 ついさっき届いたメッセージ。


 白銀さんから。


『なあ湊くん』


『今日、変な格好ちゃうやろな?』


 そのあと、少し間を置いてもう一通。


『うち、浴衣やから』


 相変わらず、言いたいことが分かりやすすぎる。


 さらに、七海からは短く一通。


『着いたら教えて』


 美羅李からも一通。


『急がなくていいから、気をつけて』


 三人とも文面に性格が出すぎている。


「……」


「……」


「帰りたいな」


 まだ家を出たばかりなのに、少しだけ本音が漏れた。


     ◇


 駅前に着いた時点で、すでにかなり人が多かった。


 浴衣姿のカップル、友達同士ではしゃいでいる学生、子どもの手を引く親。みんな同じ方向へ流れていて、街全体が花火大会に向かって歩いているみたいだった。


 待ち合わせ場所の時計台へ向かう。


 スマホを取り出して、七海に『着いた』とだけ送る。


 数秒後。


「湊」


 声がした。


 振り向くと、福原七海が立っていた。


 薄い紫の浴衣に、濃い色の帯。派手ではないけど、七海の落ち着いた雰囲気によく合っている。髪も少しだけまとめていて、いつもより大人っぽく見えた。


「……似合うね」


「素直だね」


「思ったことだから」


「うん、知ってる」


 七海は小さく笑ってから、俺の服を見た。


「ちゃんとしてるじゃん」


「誰かに言われたから」


「私です」


 即答だった。


「で?」


「何」


「今のところ平和だね」


「今のところ、ね」


「うん」


 七海が口元を少しだけ緩める。


「あと何人来るんだっけ」


「二人」


「濃いね」


 言い方に遠慮がない。


 でも、その通りだった。


 七海が何か言いかけた、そのとき。


「見つけた」


 聞き慣れた声。


 振り向く。


 そこにいたのは、白銀ルナだった。


 薄い水色の浴衣に、白い帯。銀髪はいつもより少しだけまとめられていて、耳元には小さな飾りが揺れている。普段でも目立つのに、今日はもう隠しようがなかった。


「……」


「……」


「どう?」


 第一声がそれだった。


「何が」


「浴衣」


「可愛いと思う」


「っ……!」


 一瞬で赤くなる。


「なんで即答なん!?」


「聞かれたから」


「そこはもうちょい考えるやろ!」


「考えた結果だけど」


「早いねん!」


 浴衣でも通常運転だった。


 その横で七海が吹き出す。


「すごいね」


「何が」


「会って三秒で負けてる」


「負けてへん!」


 白銀さんがすぐに言い返す。


「今日はまだ始まったばっかや!」


「始まる前から疲れそうだね」


「福原さん、他人事やと思って楽しんでへん?」


「かなり」


「正直やな!」


 でも、そのやり取りをしている白銀さんは少しだけ嬉しそうでもあった。


     ◇


「待たせた?」


 今度は静かな声だった。


 人混みの向こうから歩いてきたのは、倉持美羅李だった。


 白地に淡い紺の柄の浴衣。派手じゃないのに目を引く。細いフレームのメガネはそのままで、静かな雰囲気もそのまま。でも、制服のときより少しだけ柔らかく見えた。


「待ってないよ」


 俺がそう言うと、美羅李は小さく笑った。


「よかった」


 それから、白銀さんと七海に視線を向ける。


「こんばんは」


「こんばんは」


 七海が自然に返す。


 白銀さんも少し遅れて、


「……こんばんは」


 と返した。


 そこに変な敵意はない。


 でも、妙な緊張感はある。


「全員そろったね」


 七海が言う。


「だね」


「じゃあ行こか」


 白銀さんがそう言って歩き出そうとして、すぐに止まる。


「……」


「……」


「何」


 俺が聞くと、白銀さんは小さく言った。


「いや」


「並び、どうするんやろ思て」


 それだった。


 四人で一緒に移動する。


 簡単そうで、難しい。


 七海がすぐに笑う。


「もうそこからなの?」


「大事やろ!」


「別に適当でいいじゃん」


「よくない!」


「なんで」


「なんでもや!」


 白銀さんは少しだけ頬を赤くした。


 美羅李が静かに言う。


「歩きながら決まるんじゃない?」


「それ一番揉めるやつやろ」


 白銀さんのツッコミは早かった。


 でも結局、流れで歩き出すことになる。


 最初は俺の右に白銀さん、左に七海、その少し後ろに美羅李。


 なんとなくそうなっただけなのに、なぜか全員が少しだけそれを意識していた。


     ◇


 屋台通りに入ると、一気に祭りの空気が濃くなった。


 焼きそば、りんご飴、たこ焼き、かき氷。匂いも音も情報量が多い。人の流れも急に密になる。


「うわ、人すご」


 白銀さんが小さく言う。


「毎年こんなもん?」


「たぶん」


「たぶんって便利やなあ」


「便利だよ」


「認めるんや」


 そんなやり取りをしていた、そのとき。


 前の流れが急に詰まった。


「わっ」


 白銀さんがよろける。


 ほぼ反射で、俺は腕を掴んだ。


「大丈夫?」


「……」


「……」


「白銀さん?」


「……大丈夫」


 そう言ったけど、掴まれているほうの手はしばらくそのままだった。


 数秒後、自分で気づいたらしい。


「あ」


 ぱっと離す。


「これは事故やからな!」


「何も言ってないけど」


「今から言われる感じしたし!」


 横で七海が完全に笑っていた。


「白銀さん、分かりやすすぎる」


「うるさい!」


「可愛いね」


 美羅李が静かに言う。


「なんでみんなしてそういうこと言うん!?」


 白銀さんが真っ赤になって抗議する。


「今日のうち、そんなにおもろい?」


「かなり」


 七海が即答した。


「ひど!」


 でも、その声は半分くらい笑っていた。


     ◇


 屋台の前で立ち止まる。


「何食べる?」


 俺が聞くと、白銀さんが真っ先に手を挙げた。


「りんご飴!」


「即答だね」


「祭りっぽいやん」


 その横で七海が言う。


「でも、りんご飴って意外と食べにくいよね」


「夢ないなあ」


「現実的って言って」


 美羅李は少しだけ考えてから、


「たこ焼き」


 と小さく言った。


「倉持さん、たこ焼きなんや」


 白銀さんが少しだけ意外そうに言う。


「なんか綿あめのイメージやった」


「どういうイメージ」


「静かな感じやし」


「関係あるのそれ」


 七海が笑う。


「それ言ったら湊は焼きそばでしょ」


「なんで」


「なんとなく」


「適当だな」


「でも合ってそう」


 結局、りんご飴とたこ焼きと焼きそばを買うことになった。


 俺が焼きそばを持って、七海がたこ焼き、白銀さんがりんご飴、美羅李が飲み物。


 妙な役割分担が自然にできる。


「なあ湊くん」


「何」


「りんご飴持ちにくい」


「それは見れば分かる」


 白銀さんは袖を気にしながら、りんご飴を持っていた。


「持つ?」


「……」


「……」


「その言い方やと、なんか負けた感じする」


「何に」


「知らん」


 でも結局、袋だけ俺が持つことになった。


 七海が横で小さく言う。


「すごいね」


「何が」


「自然にそうなるんだ」


「七海、楽しんでるよね」


「かなり」


     ◇


 少し人の少ない場所まで移動して、一旦立ち止まる。


 花火開始まではまだ少し時間がある。


 川沿いの風は、昼よりかなり涼しかった。


「……なあ」


 白銀さんがぽつりと言った。


「何」


「まだ集合しただけやのに、なんでこんなに疲れるん?」


 その一言に、七海が吹き出す。


 美羅李まで少しだけ笑った。


「何わろてんねん!」


「だって、その通りだから」


 七海が言う。


「まだ何も始まってないのに、もうイベント三個くらい起きてるよ」


「たしかに」


 俺もそう思った。


「なんやろな」


 白銀さんが少しだけ空を見る。


「花火まだやのに、もう今日終わったくらいの気分や」


「それは早いね」


「でもほんまにそうやもん」


 そこで、美羅李が静かに言う。


「本番はこれからでしょ」


「……」


「……」


「倉持さん、それ静かに怖いねん」


 白銀さんのツッコミが妙に真っ当だった。


     ◇


 遠くで、開始アナウンスが流れ始める。


 人の流れが、一斉に川沿いへ向かった。


「行こ」


 七海が言う。


「うん」


 歩き出す。


 でも、人の量がさっきまでとは比べものにならない。


「うわ、ちょっと待って」


 白銀さんが言う。


「これはぐれるやつや」


「大丈夫?」


「大丈夫ちゃう」


 その瞬間、また前が詰まった。


 人波に押される。


「白銀さん」


「分かっとる!」


 そう言いながら、白銀さんは今度は迷わず俺の袖を掴んだ。


「これは事故ちゃうからな」


「そうだね」


「はぐれたら困るし」


 かなり正当な理由だった。


 でも、その反対側では。


「湊、こっち」


 美羅李が静かに俺を呼ぶ。


 さらに七海が横で言う。


「ほんとに始まる前からクライマックスだね」


「他人事みたいに言うな」


「半分は他人事だから」


「半分は?」


「見てのお楽しみ」


 その返しが終わるか終わらないかのうちに。


 夜空に、最初の花火が上がった。


 大きな音。


 色のついた光。


 人の歓声。


 そして。


「――あ」


 白銀さんの手が、するりと離れた。


 人の波に押されて、銀色の髪が一瞬だけ遠ざかる。


「白銀さん!」


 そう呼んだところで、二発目の花火が夜空で開いた。


 そしてその瞬間。


 俺の手首を、今度は別の手が掴んだ。

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