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関西弁の銀髪ハーフ美少女が俺を照れさせたいらしいが照れてるのはいつもキミだ  作者: 夜天 颯


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17/43

17.湊、その浴衣、誰が一番似合うと思う?

花火大会まで、あと三日。


 七月の夕方はまだ明るくて、駅前の空気には昼の熱が少しだけ残っていた。


 改札前の時計を見る。待ち合わせの時間まで、あと一分。


 そのタイミングで、聞き慣れた声がした。


「湊」


 振り向くと、福原七海が立っていた。


 白い半袖シャツに黒のパンツ。シンプルな格好なのに、いつも通り妙に落ち着いて見える。肩の辺りで揺れる黒髪も、今日は少しだけ軽く巻いている気がした。


「待った?」


「今来たところ」


「それ、信用していいやつ?」


「たぶん」


「怪しいね」


 七海は小さく笑った。


「行こ」


「どこに」


「花火大会の準備」


「準備?」


「浴衣」


 嫌な予感がした。


「……誰の」


「私の。あと、できれば湊の」


「なんで俺まで」


「そのまま花火大会に来たら浮くから」


「ひどいな」


「ひどくないよ。事実だし」


 さらっと言い切られて、そのままショッピングモールへ連行された。


     ◇


 館内は冷房が効いていて、外よりずっと涼しかった。


 七海は迷いなく上の階へ向かう。


「慣れてるね」


「去年、いとこの浴衣選び付き合ったから」


「その経験値が今ここで使われるんだ」


「そういうこと」


 連れて行かれたのは、和装小物や浴衣が並んでいる売り場だった。


 色とりどりの布地が目に入る。夏っぽい色合いが並んでいて、見ているだけで少しだけ季節を感じた。


「で?」


 俺は聞く。


「俺は何をすれば」


「見て」


「ざっくりしてるな」


「感想を言って」


 七海はそう言って、一着目の浴衣を手に取った。


 淡い水色に白い花柄。涼しげで、七海の雰囲気にも合っている。


「どう?」


「似合いそう」


「“そう”なんだ」


「まだ着てないし」


「真面目か」


 七海は少し笑って、今度は別の浴衣を取った。


 黒地に薄紫の模様。さっきより少し大人っぽい。


「これは」


「そっちのほうが七海っぽい」


「へえ」


「今のはちょっといい答え」


「採点されてたんだ」


「されてた」


 怖いな。


 七海はその浴衣を自分の前に合わせて、鏡を見る。


「ねえ湊」


「何」


「花火大会って、やっぱり浴衣のほうがいいと思う?」


「たぶん」


「“たぶん”好きだね」


「でも七海は着たほうがいいと思う」


「どうして」


「似合いそうだから」


「……」


「……」


「それ、普通に言うんだ」


「聞かれたから」


「その答え方、誰かにもしてそう」


「誰」


「白銀さんとか」


「……」


「……」


「図星なんだ」


「いや」


「否定しないんだ」


 七海はくすっと笑ってから、結局その黒地の浴衣をキープした。


     ◇


 会計を済ませてから、今度はなぜか男性服売り場へ連れていかれる。


「いや待って」


「何」


「まだ続くの」


「続くよ」


「俺、浴衣着ないけど」


「知ってる」


「じゃあ何」


「普通の服を少しはまともにする」


「ひどいな」


「ひどくない」


 七海はラックからシャツを一枚引き抜いて、こっちに押しつけてきた。


「これ」


「なんで」


「涼しそうだし、まだマシ」


「まだマシって」


「今の湊よりはね」


「言い方」


「着てみて」


 言われるまま試着室へ入る。


 着替えて出ると、七海は腕を組んでじっと見た。


「どう」


「思ったよりいい」


「その“思ったより”いる?」


「いる。正直だから」


 七海は笑う。


「でも、こっちにしなよ」


「買うの?」


「花火大会だよ?」


「それ、今日何回言うの」


「大事だから」


 そう言って、七海は少しだけ視線を逸らした。


「……ちゃんとしてたほうがいいでしょ」


「誰に対して」


「色々」


「ざっくりしてるな」


「湊もたまにはざっくり受け取って」


 結局、シャツを一枚買うことになった。


「七海ってさ」


「何」


「妙に世話焼きだよね」


「昔からでしょ」


「そうかも」


「そうだよ」


 七海は当然みたいに言って、それから少しだけ笑った。


「放っておくと変な格好で来そうだし」


「そこまで信用ない?」


「ないね」


 言い切られて、少しだけ納得してしまうのが悔しい。


     ◇


 買い物を終えて、フードコートに移動する。


 飲み物だけ買って、窓際の席に座った。


 夕方の光がガラス越しに差し込んで、少しだけ橙色に近づいている。


「で?」


 七海がストローをくるくる回しながら言う。


「何」


「花火大会」


「うん」


「結局、何人になるの」


「四人」


「私と湊、あと白銀さんと……」


 そこで七海は少しだけ考える。


「もう一人の子」


「うん」


「すごい面子だね」


「他人事みたいだね」


「半分くらい他人事だから」


 さらっと言う。


「でも、ちょっと面白そう」


「みんな言うな、それ」


「実際そうでしょ」


 七海は肩をすくめた。


「白銀さん、絶対分かりやすいし」


「……」


「……」


「何」


「よく見てるなって」


「見えるからね」


「そういうもの?」


「そういうもの」


 そして、少しだけ真面目な声になる。


「湊」


「何」


「当日、変にぼーっとしないでよ」


「なんで」


「たぶん一番大変なの、湊だから」


「自覚はある」


「少しは?」


「かなり」


「それならいい」


 七海はそう言ってジュースを一口飲んだ。


     ◇


 そのとき、スマホが震えた。


 画面を見る。


 白銀さんからだった。


『なあ湊くん』


『花火大会、変な服で来たら許さんからな』


「……」


「誰?」


「白銀さん」


「何て?」


「変な服で来るなって」


 七海が吹き出す。


「言うと思った」


「そんなに?」


「そんなに」


 そこへ、もう一通。


『あと』


『うち、浴衣やから』


「……」


「追撃?」


「浴衣らしい」


「うわ、分かりやす」


 七海は楽しそうに笑う。


「それ、完全に先手打ってるじゃん」


「そうだね」


「返さないの?」


「なんて」


「無難に」


 少し考えて、『分かった』とだけ返す。


「味気ないなあ」


「何て返せばいいの」


「“楽しみにしてる”とか」


「言わないよ」


「だよね」


 七海は笑ってから、テーブルに肘をついた。


「でもまあ、白銀さんそういうとこ可愛いよね」


「……」


「……」


「何」


「いや」


「七海もそういうこと言うんだなって」


「言うよ」


「可愛いものは可愛いし」


 妙にあっさりしている。


「会ったことあるから、なんとなく分かるし」


「そうなんだ」


「うん。分かりやすい子は見てて飽きない」


 その言い方が少しだけ意味深だった。


     ◇


 またスマホが震えた。


 今度は倉持美羅李から。


『花火大会、私も浴衣で行くね』


 短い一文。


 さらに、少し間を置いてもう一通。


『楽しみにしてる』


「……」


「今度は誰」


「もう一人の子」


「何て?」


「浴衣らしい」


 七海が完全に笑いをこらえきれなくなる。


「やっぱり」


「何が」


「そっちもちゃんと分かってるってこと」


「何を」


「花火大会の空気」


 七海はそう言ってから、ふっと目を細めた。


「大変そうだね、湊」


「今さらだな」


「うん。でもちょっと楽しみ」


「楽しみ方が悪い」


「否定はしない」


 七海は飲み物を飲み干して立ち上がる。


「じゃあ、そろそろ行こっか」


「うん」


     ◇


 駅前で別れる前。


「じゃあ当日ね」


 七海が言う。


「ああ」


「遅れないでよ」


「分かってる」


「本当に?」


「分かってるって」


「まあいいや」


 少しだけ間を空けて、七海が続ける。


「でも」


「何」


「白銀さんが何か言ってきたら、ちゃんと拾ってあげなよ」


「なんで」


「分かりやすい子って、流されるとしょげるから」


「……」


「……」


「七海ってさ」


「何」


「やっぱりよく見てるよね」


「観察は得意だから」


 ゲームみたいに言うなと思ったけど、たぶん本人の中では同じなんだろう。


「じゃあね、湊」


「ああ」


 七海が去っていく。


 その背中を見送ってから、俺も歩き出す。


 花火大会まで、あと三日。


 白銀さんは浴衣で来る。

 もう一人の子――美羅李も浴衣で来る。

 七海も、今日選んだ浴衣で来るはずだ。


 そして俺は。


「……面倒なことになりそうだな」


 小さく呟く。


 でも、その面倒を少しだけ楽しみにしている自分がいた。


     ◇


 ――その夜。


 家でスマホを見ていたとき、また白銀さんからメッセージが来た。


『なあ湊くん』


『花火大会、待ち合わせ何時?』


 そのあと、少し間を置いてもう一通。


『ていうか』


『誰と先に会うん?』


 その質問に返事を打とうとして。


 俺は、少しだけ止まった。

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