第八章 コア
激しい銃撃戦の末、悠也と残された数名の特殊部隊員は、適合体の波状攻撃を突破した。
研究所の通路は青いナノマシンの光と、適合体の灰色の体液で汚れ、戦闘の苛烈さを物語っていた。
「班長、この先に、ルナ・コアの中枢ホールと同じレベルの、隔壁があります。恐らく、ターゲットはあの中です!」
悠也は、爆薬で隔壁を吹き飛ばすよう命じた。
ドォン!
隔壁が崩れ去り、悠也たちが突入した空間は、この世のものとは思えない非人道的な光景だった。
ホールの中心には、巨大な水晶体のようなものが据え付けられており、それが青い光を放ちながら不規則に脈動している。
そして、その脈動する水晶体へ向かって、二つの人影が、無数のケーブルと生命維持装置に繋がれていた。
一つは、写真で見た制服姿の若い少女。彼女は、眠るように目を閉じており、間違いなく悠也が追ってきたアヤメだった。
そして、その隣には…。
五年前、海の底に沈んだはずの、あの時のアヤメ。彼女の体は、透き通るような肌のまま、無数のナノマシン制御ケーブルに繋がれ、まるで標本のように固定されていた。彼女の胸元には、ナノマシン・コアが収められていた場所が、痛々しく、しかし完全に修復されていた。
「アヤメ……!」
悠也は、二人のアヤメを見て、全身の血が逆流するのを感じた。如月残党は、新しい適合者に、オリジナルのアヤメのコア情報を統合させ、より完全な兵器を作り出そうとしていたのだ。
その時、ホールの奥、水晶体の陰から、一人の男がゆっくりと姿を現した。
如月会長。東京のビルから影武者を使い、悠也を欺いた、真の黒幕だ。彼は、悠也の姿を見ると、冷徹な笑みを浮かべた。
「遅かったな、七瀬君。またしても、私の計画に間に合わなかったようだ」
悠也は、会長に銃口を向けた。
「如月会長!ルナ・コア島の一件と、非人道的な適合者製造の罪で、貴様には逮捕状が出ている!武装を解除し、投降しろ!」
会長は、悠也の言葉を嘲笑った。
「逮捕状だと?ハハハ!この公海上の秘密施設に、日本の法律など届かぬわ、愚か者が。それに、私が投降すると思っているのかね?」
会長は、懐から取り出した小型の起動端末を操作した。
「すべては完了した。五年間、このオリジナルの肉体に残された最終鍵の痕跡と、新しい素体の適合性を同期させた。これこそが、神の力を完全に制御する『究極のコア』だ!」
会長が端末の最終ボタンを押した、その瞬間
ウォン!ウォン!ウォン!
ホールの中心にある水晶体が、目を見張るほどの青い閃光を放ち始めた。
「あああああ……!」
ケーブルに繋がれた若いアヤメが、苦痛に顔を歪ませる。その背中から、ゆっくりと、黒いナノマシンの触手が伸び始めた。
「コア起動!七瀬君、これが君の父が止めたかった、完全なる兵器だ!」
如月会長の叫びと共に、青い光と黒い触手が悠也たちに襲いかかった。新しいアヤメのコアが、適合体として起動したのだ。
悠也は、直ちに発砲した。だが、適合体から伸びる触手は、銃弾を弾き、特殊部隊員の一人を即座に床に叩きつける。
「戦闘開始!適合体を制圧しろ!会長を狙うな!適合体から目を離すな!」
悠也は、会長の逮捕よりも、アヤメの暴走を止め、コアの暴走を阻止することを優先した。
しかし、二つのコアが結合した新しいアヤメの力は、想像を絶していた。ナノマシンは周囲の機材や壁のコンクリートを取り込み、触手は硬質化し、その動きはルナ・コア島の時よりも遥かに速い。
特殊部隊員たちは、次々と触手の攻撃を受け、倒れていく。
悠也は、避難もままならないまま、会長のいるコンソールを目指して突進するが、触手の防衛ラインに阻まれた。
「ハハハ!無駄だ!君たちの努力は、すべてここで終わる!」
如月会長の高笑いが、戦場となったホールに響き渡る。悠也は、この究極の兵器を前に、次第に追い込まれていった。




