第七章 強襲
作戦は、夜間に決行された。
九州沖の公海上に浮かぶ巨大な石油採掘基地。
その鉄骨とパイプが絡み合う構造物は、夜の海で異様な威圧感を放っていた。
悠也が指揮する公安の強襲チームは、海上保安庁の巡視艇と、特殊部隊用のヘリコプターに分乗し、採掘基地へと向かった。
公海上であるため、国際的な手続きを経た厳戒態勢での作戦となった。
「目標地点まで30秒。目標は中央シャフトのエレベーターホール。奴らは、適合体やナノマシン制御の自動兵器で防衛しているはずだ。警戒を怠るな!」
悠也は、ヘリコプターのドアが開くと同時に、降下ロープを掴んだ。風と海の轟音の中、彼の心臓だけが静かに、そして激しく鼓動していた。
ドォン!
ヘリから降下した強襲チームは、メインデッキを制圧。警備員の姿はほとんどなく、予想通り、基地の防衛は自動兵器に委ねられているようだった。
悠也は、基地の図面を頭に描きながら、中央の巨大な掘削シャフトへと急いだ。シャフトの横には、基地の最深部、海面下の施設へと続く中央エレベーターがある。
「エレベーターホールを確保。突入する!」
エレベーターの制御盤は、如月テクノロジーズ特有の強固なセキュリティでロックされていたが、解析チームが即座に突破。
重々しい金属音を立ててエレベーターが降下を始める。数年前にルナ・コア島で如月会長に連行された時と同じ、冷たい、絶望的な下降だった。しかし、今回は違う。悠也は、自分の意思でこの闇へと向かっている。
エレベーターが停止し、ドアが開いた瞬間、彼らは光景に息を飲んだ。
そこには、石油採掘基地の設備とはかけ離れた、白く清潔な、極秘の研究施設が広がっていた。床には新しいケーブルが走り、壁には最新鋭のモニターが埋め込まれている。そして、ホールの奥には、ルナ・コア島で見たものと同じ、巨大なカプセルがいくつも並んでいた。
ズブズブ……グオオオオ!
警報音は鳴らない。だが、そのカプセルの中から、異様な唸り声が響き渡った。
「敵性生物、確認!ディーペストだ!」
隊員の一人が叫んだ。カプセルの一つが、内側から激しく揺れ、ガラスが音を立てて砕け散る。
中から這い出てきたのは、北海道で遭遇した黒い肉質の生物兵器ではなく、ルナ・コア島の地下で暴走したナノマシン適合体だった。
灰色の皮膚、異形の触手、そして全身から漏れる青いナノマシンの光。
彼らは、採掘基地の極秘施設で、再び目覚めさせられていたのだ。
適合体は、人間の気配を察知し、悠也たちへと一斉に襲いかかった。
「戦闘開始!適合体を制圧せよ!ターゲットは生け捕りを優先、しかし抵抗が激しい場合は無力化しろ!」
悠也は、ライフルを適合体の急所へと向けながら、叫んだ。適合体から伸びる触手と、公安特殊部隊の制圧射撃が交錯し、極秘研究所は一瞬で、血と火花が飛び散る戦場へと変貌した。
悠也の瞳は、激しい戦闘のさなかでも、ただ一つの光景を探していた。この戦いの先にいるはずの、アヤメの姿を。




