第六章 電力消費
悠也の指示は迅速に実行に移された。
公安の解析チームは、北海道の研究所跡地に緊急で設置された最新鋭の送電ユニットの接続先を追うべく、日本国内の電力網のデータにアクセスした。
「全電力会社に極秘要請をかけ、送電ユニットが観測された時間帯の瞬間的な大容量電力使用量の推移を追え。もし、ルナ・コアの中枢コアを起動させたのなら、通常の工場や施設ではありえない異常なスパイクが残るはずだ」
解析官たちは、日本各地の膨大な電力使用量の公開データや、極秘に提供された電力会社の内部データを照合し始めた。
悠也は、モニターに表示される全国の電力グラフを食い入るように見つめた。
しかし、一時間、二時間、と時間だけが経過していく。
「七瀬班長、ダメです」
主任解析官が、焦燥の色を浮かべながら報告した。
「日本全国、各電力エリアのどの地点を調べても、あの送電ユニットが必要とするレベルの瞬間的な大電力使用量の異常なスパイクは確認できません。本当に、一瞬で消えたかのようです」
悠也は、あの邪悪奴等が、単純な逃亡ではなく、公安の追跡を欺くための罠を仕掛けていたことに気づいた。彼らは、外部の電力網に頼らず、適合体自身、あるいはルナ・コアの残骸から、瞬間的に電力を生成し、コアを起動させた可能性が高い。
「全チームに告ぐ。追跡方法を切り替えろ。電力ではなく、ナノマシンの残滓だ。周辺のあらゆる環境データを収集しろ」
その時、後方のデスクにいた若手分析官が、声を上げた。
「班長!ナノマシンの残滓を追跡する過程で、別の不審なデータが見つかりました」
モニターが切り替わり、日本地図の九州沖の一点にズームインした。
「これは、九州沖に浮かぶ、巨大な石油採掘基地です。現在も稼働中ですが、運営会社は、如月テクノロジーズの子会社である『オーシャン・フロンティア』です。表向きはエネルギー企業ですが、如月会長の資産隠しに使われていたペーパーカンパニーである可能性が高い」
「石油採掘基地……?」悠也は訝しんだ。
「はい。そして、この基地の輸送記録を極秘に追跡したところ、興味深い事実が判明しました。記録は巧妙に改ざんされていますが、過去数ヶ月間、この基地からは石油の輸送記録がほとんど見当たらないのです」
解析官は、石油の輸送量を示すグラフを提示した。通常ならば常に高い水準にあるべきグラフは、ほとんどゼロに近い値を示している。
「石油採掘基地が、石油を出荷していない?それは、採掘を停止しているか、あるいは……」
悠也の目が、鋭く光った。
「あるいは、採掘基地を隠れ蓑にして、全く別のものを輸送・保管しているということだ」
石油採掘基地は、深海へアクセスする設備、強固な構造、そして何よりも公海上にある。それは、国内の捜査権が及びにくい、第二のルナ・コア島として完璧な場所だ。
「ナノマシン残滓の情報も、この基地周辺で高濃度に観測されています!おそらく、深海調査船がルナ・コアの残骸を運び込んだ次の場所はここです!」
悠也は、地図上の九州沖の石油採掘基地を指さした。
「ここが、奴らの最終的な実験場だ。全チーム、直ちに九州方面へ移動!道警と海上保安庁に協力を要請しろ!作戦目標は、石油採掘基地への強襲だ!」
悠也の瞳は、今度こそ、ターゲットを逃さないという強い決意に満ちていた。




