表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君にもう一度  作者: Yasu
PR
10/11

第十章 愛

激しい戦闘の後に訪れたのは、深海の研究施設に似合わない、重苦しい静寂だった。

中央ホールでは、如月会長の残骸が散乱し、暴走を止めたアヤメが、悠也の体を抱きかかえていた。

彼女は、悠也の腹部に開いた、血が噴き出すほどの深い傷を、震える手で強く押さえていた。

「悠也さん……!ダメ、血が……止まらない!」

アヤメは、その透き通るような顔を絶望に歪ませた。彼女の体内のナノマシンは、適合体の結合を解き、暴走を停止させる力はあっても、これほどの重傷を治療する術は持っていなかった。

その時、ホールの奥、瓦礫の陰から、再びあの不気味な声が響いた。

「ハハハ。本当に、見事な幕引きだったよ」

ニャルラトホテプが、あの少年の姿で、ゆっくりと姿を現した。

「君の勝ちだよ、七瀬のお兄さん。僕の用意した最高の舞台装置も、七瀬博士の仕込んだ人間の心には勝てなかった。全く、人間というのは、つくづく面白くないね」

アヤメは、悠也を庇うように立ち上がった。

「あなた……!これ以上、私たちに何をさせようというの!」

ニャルラトホテプは、肩をすくめた。

「もう何も。ただ、このまま死なせるには、七瀬賢人博士の最後の遺産を持つ君の存在は、あまりにも惜しい」

そう言って、ニャルラトホテプは、宙に浮かせた、小さな青い光の結晶をアヤメの前に提示した。

「これは、君の博士が、五年前の事故の直前に、私に解析させた究極の治療プログラムのデータだ。ナノマシンを単なる兵器ではなく、生命維持装置として、血縁の生体情報を持つ者に施すための、最後の施策」

彼は、冷たい真顔で、このプログラムの核心を告げた。

「しかし、この治療プログラムを実行すれば、君の肉体を構成するナノマシンは、彼の傷口から体内に入り込み、君たちの生命活動を完全に共有することになる。つまり、二人の命は、これから一つになる。一方が傷つけば、もう一方も傷つく、究極の運命共同体だ」

ニャルラトホテプは、再び不気味な笑顔に戻った。

「その代償として、君たちの身体は、完全にナノマシンの影響下に置かれることになる。もう後戻りはできない。さあ、選びなよ、アヤメ。死を選ぶか、ナノマシンの呪いと共に、永遠の命の共有を選ぶか」

彼は、青い光の結晶をアヤメに押しつけると、嘲笑をホールの残響に残し、あっという間にその場から姿を消した。

アヤメは、青い光の結晶を震える手で受け取った。彼女には、迷いはなかった。

「命を共有する……。それが、博士の残した愛の形なのね」

アヤメは、結晶を握りつぶし、その中から溢れ出した青いナノマシンの光を、意識を失いかけている悠也の腹部の傷口に、直接浴びせた。

青いナノマシンの粒子は、悠也の体内に浸透し、彼の生命活動の代行を開始する。そして、その一部はアヤメの体へと逆流し、二人の体内で融合した。

悠也の命は、今、アヤメと博士の遺産によって、永遠に繋ぎ止められたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ