表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

第4話 理解者

 夜の戦場を歩いていると、ノイグリア帝国の陣地近くまで来ていた。


 私は倒れている負傷兵の中を進み、一際目立つ赤い鎧の騎士に近づいて膝をついた。


「大丈夫ですか?」


「ん? 貴女は?」


「私はメアリー・リヴィエールと申します。戦場の天使と呼ばれて……まあ、それはいいとして」


「ああ、あの噂のね。私はこの軍隊長を務めるバルバロッサです」


 バルバロッサさんは大きくて固い手を差し出してきた。私はその手を握り返す。戦場で鍛えられた掌の温かさと、かすかな震えが伝わってきた。


「それで? 貴女は何をしにこんな所まで来たんですか?」


「壁に耳あり障子に目あり、負傷時に私ここにいます。貴方の怪我を治療しに来ました」


「ああ、すみませんね。頼めますか?」


 私は両手を彼の胸と肩の傷にかざした。掌から淡い緑の光が放たれ、柔らかく鎧の隙間から傷口へ這い進む。光は血を逆流させるように吸い込み、裂けた肉を波打つように寄せ集め、骨のひびを粒子で埋めていく。損傷した筋肉が蠢くように修復され、鎧の下の皮膚が滑らかに覆われる。バルバロッサさんの息が少しずつ深くなり、顔の痛みの色が引いていくのがわかった。


「ほう……これは凄いですね。噂以上の治癒魔法です」


「ありがとうございます。私はメアリー・リヴィエール。天使ですから」


「? あまり答えになっていない気がしますがね。感謝します。貴女は治療を終えたらどこかに姿を隠してください」


「それは……何故ですか?」


「決まっているでしょう? 貴女は両軍から指名手配されているのですよ。貴女の治療は自軍だけならともかく、相手の軍まで治療してしまう。せっかく倒した敵将すらもいとも簡単にね。大勢の敵を負傷させても全部蘇生。だから負傷兵を増やして相手軍の負担を強いる作戦も使えない。貴女一人がいることでね。我々は敵軍の命を確実に奪わなければいけなくなったんですよ」


「……私は……そんなつもりは……」


「貴女を責めているわけではありませんよ。ただ、貴女の治療行為が戦争をより泥沼化させているのですよ」


「……そう……ですか」


「それでも……命を救うことが誤りのはずがありません!!!」


「そうですね、きっと間違っているのは戦争の方です。それでも、人は争うんです。和平を結ぶには、権力が甘露過ぎた」


 バルバロッサさんは私の肩をポンと叩き、ゆっくり立ち上がった。その手の温かさが一瞬残り、私の肩に軽い圧力が伝わる。


「だから、貴女は早く逃げてください。そして……戦争が終わるのを待ってほしい」


「……できません」


「何故ですか?」


「たとえ望まれなくても……人の命を救い続けます。争いの場から逃れれば、それを正しいと認めたことになる!!! 命の奪い合い? 上等です!!! 私の前で誰かを死なせ……」


 アマンダさんの血が噴き出す姿が脳裏に浮かぶ。舌を噛み切る鋭い音と、溢れる赤い血。


「もう誰も私の目の前で死なせはしません!」


「そうですか……わかりました」


 バルバロッサさんは再び手を差し伸べた。私はその手をしっかりと握り、引き起こされる力を借りて立ち上がる。地面の冷たさが足裏に伝わり、わずかに体が震えた。


「ありがとう、メアリー・リヴィエール」


「いえ……礼には及びません。ただ……」


「わかっていますよ。どちらにせよ貴女は私の前からすぐに消えてください。いつまでもここにいると、捕縛しなければいけなくてね。私が忠臣である以上、貴女を見逃した実績は作れないのですよ。だから誰かに見られる前に消えてください」


「わかりました」


 私はバルバロッサさんと別れ、すぐに別の地へ向かった。赤い鎧の背中が遠ざかるのを横目で見ながら、歩みを進める。


「あの人には死なないで欲しい。……でもそれはノイグリア帝国軍の治療をしない理由にはなりませんね」


 私は杖を握り直し、次の負傷者を探し始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ