葉月(4)
花火大会から三日が過ぎた。華代に連絡する勇気もなければ、向こうから連絡が来ることもなかった。
あの時、俺はどうすることが正解だったんだろ。なんて言っていればよかったのかな……
ベッドに横になりながらそんなことを考えていると、横の壁に、何かが刺さったような音が聞こえた。
気になってそこを見て見たら……矢が刺さってる。
「……さすがに矢はちょっとすごいなぁ」
その矢をよく見ると、何か白いものがついている。その白いものだけを取ると、それに文字が書かれていることに気がついた。
……矢を壁から抜くのは力がいるし、危ないからやめておいた。
「えっ、なにこれ手紙? ……なんて書いてあるのこれ」
なにか文字が書いてあるのはわかるんだけど、読めない。字が汚いとか、そもそも外国語とか、そんなんじゃない。どちらかというと達筆すぎる…? 大人が書く字みたいな感じだった。
「こういうの、いわしっちなら読めるかも」
写真を撮っていわしっちに送る。すると、珍しくすぐに返事が返ってきた。
「明後日の夜、山の上の公園にて待つ……だってよ。告白にしては随分変わったやり方をするね、この子」
これが告白だったら嫌だなぁと思いながら、いわしっちにありがとうって返信した。
山の上の公園、しかも夜……どう考えても普通じゃないことが起こりそうなのはわかる。嫌な感じもする。どうしたらいいんだろうって考えていたら、もう一回、スマホの通知が鳴った。
いわしっちかなって思って見たら
「えっ、ひなみ!? どうしたんだろ……」
ひなみとは夏休み前最後の学校の日以降、全然連絡を取ってなかった。まぁ、取るにも気まずくて……
でも、向こうから連絡が来たってことは大丈夫なはず。ドキドキしながら画面を開く。
「とーや! お久しぶり〜! 突然であれだけどさ、明日暇? よかったらアイスでも食べに行こ〜?」
……力が抜けた。あの日、俺はひなみを傷つけるようなことをしてしまったんじゃないかってすごく心配していた。嫌なことしちゃったかなってすごく後悔してた。けど、文面的にはいつものひなみだったから、すごく安心した。
「暇だよ! 行こうか」
と返事をすると、OKのマークと予定案が送られてきた。メッセージ上で重い話をするのはなんだったから、あの日のことは、会ってから聞こうかなって思った。
その日の夜中、雅之は神崎家の客室に向かった。普段は使っていないが、今日は客が来ていた。
「美奈子姉さん……いや、姉御。夜分遅くに申し訳ない。起きていらっしゃるか」
襖に向かってそう言うと、その襖が開いた。
「あら、珍しいね。どうしたの蜘蛛の妖怪さん」
ピンクの髪を高くポニーテールにした、少し背の高いお姉さんが出てきた。美奈子と言うらしい。
「いえ、雷斗の事なんですが……あいつ、守護者に喧嘩売ったんですよ。友人を傷つけられたかもしれないって言って。僕は基本的に彼の意思には背きませんから、指示に従ったのですが……本来どうすべきだったのかと」
美奈子はキョトンとして、すぐ笑い始めた。
「なに、そんなこと? もーびっくりしたわ、雷斗また一人で泣きまくってるとか、そんな話かと思ったじゃない」
「まぁ、泣いてたら泣いてたで問題なんですけど……彼あまり泣かないので」
「え〜、雷斗昔っから泣き虫じゃん。あぁでもそっか、雷斗ももう高校生だからね、そろそろ泣き虫は卒業か。大きくなったね」
「えぇ、まぁ、人間は成長早いですからね…見た目はだいぶ変わりました」
「うんうん……あっ、そうだ、雅之くんの悩みの話に戻すわ! どうすればよかったって?うーん、それでよかったんじゃないの?」
「よかったのですか?」
「うん。だって、お友達に喧嘩ふっかけれるくらいには元気ってことなんじゃない? 男の子だもん、そういうことくらいあるわよ多分」
「そうか……ならいいのだが。いや、夜も遅くにほんとに失礼した。ちょっと不安を覚えてしまいまして」
雅之がそういうと、美奈子が少し微笑んだ。
「貴方、ここ数年前くらいに雷斗の所に現れてからというもの、彼の面倒よく見てくれてるのね」
「いえ、そうたいしたものでは……人間の子どもとここまで深く関わるのは僕も初めてですし。僕は人間ではありませんから、不十分なことが多いでしょう……」
「そう? 雷斗、だいぶ貴方に救われてるような気がするけどね。でもまぁ、貴方自身が潰れないようにね」
「呵呵、僕は妖怪なのでね。その辺は大丈夫ですよ。というか、僕は潰れませんよ。不安を覚えたのも初めてですし」
「そっか。ならいいわ。またもうすぐ神無月がくるから、せめてその時までは雷斗のこと見といてくれると助かるな」
「言われずとも。いやしかし、ほんとに長居してしまった……失礼しました、では」
そう言うと、雅之は蜘蛛の姿に戻って、どこかへ行ってしまった。
「いいお友達持ったね、雷斗」
そう言うと美奈子も襖を閉めた。




