葉月(5)
ひなみからのメッセージでアイスを一緒に食べに行くことになった。この間のことが気がかりではあるけど、とりあえずは会ってみないと分からないし……
仲のいい友達と会うのに、こんなに緊張するのも変だなと思いながら、待ち合わせの場所に向かった。
「あ、とーやー! こっちこっち!」
「あぁごめん! 待たせた?」
約束の10分前なのに、ひなみがいるってすごく珍しい感じがする。
「あれでしょ? わっちが早くからいるなんて珍しいって思ってるんでしょ?」
……図星です。
「わっち、遊びの時は早めに集合しちゃうんだ〜、楽しみすぎて?」
「なるほどね〜、気持ちわからなくないよ」
そう言うと、でしょ? と言うような感じで笑っていた。
「今年の夏は暑いね〜、ほんとに溶けそう」
ひなみは確か氷に関係する妖怪とかだったはず。本当に溶けそうなのか、ただの例え話なのかわからなくて少し返事に困る。
「そうだね、ほんとに暑い。夜になったら少しは涼しいんだけど」
「あ〜それなぁ〜、だから夏は夜の方がいいよね。真昼間からお出かけしてて言うのもなんだけどさ〜」
なんとなく話しながらひなみの様子をみていた。見た感じ作ったような表情じゃなくて、本当の……。
「ねぇ、兎夜さ、あの日の放課後のこと気にしてる? それとも、私が人間じゃなかったのやっぱり気になる……?」
俺がひなみがどう思ってるのか探るよりも、ひなみの方が先に俺の気持ちに気づいた。なんかちょっと申し訳ないなぁ……
「ううん、ひなみが人間じゃなかったことは気にしてないよ! ……けど、ひなみを傷つけちゃったかなって思って」
「全然! てかあれさ、守ってくれようとしてたんでしょ? 分かってるから大丈夫! 私も必至になっちゃってつい妖術使っちゃったからよくなったんだよ。ごめんね」
「いやいや! とんでもない……申し訳ないからさ、今日のアイスは俺が奢るよ」
そう言うと、ひなみの目が輝いた。
「マっ!? やった〜! ありがとう兎夜ぁ!」
思った以上にすんなりいった。そしてなにより、ひなみを傷つけてなかったことに安心した。
アイス屋に着くと、店内が外と比べ物にならないくらい涼しかった。ひなみもさっき以上に生き生きしだした。
「あ〜、すーずーしー! 生き返る〜」
「今からアイス食べるからもっと冷えるよ?」
「へーき! なんならもっと冷えても大丈夫!」
「そっか、そりゃそうか」
思わず笑ってしまった。
「あっ、そうそう。昨日さ、兎夜の家に変なの飛んでこなかった?」
「変なの? 矢文のこと?」
「そうそれ! ねぇ変なとこに刺さったりしなかった? 怪我とかしてない?」
「全然……てかなんで知ってるの?」
「あっ」
しまったというような顔をしていた。何か知ってるんだと思う。
「まぁいっか!」
意外と大丈夫だったらしい……でもそこがひなみらしくていいなって思う。
「とりあえず、怪我とかがなくてよかった。その矢文はうちの人が飛ばしたやつなんだよね。なんて書いてあった?」
「えっと、明後日の夜公園に来い……みたいな感じ? 昨日飛んできたから、明日の夜のことかな」
「あー、そんなふうに書いたんだ。まぁいいや! で、そのことなんだけど……」
ひなみが俺のアイスをみた。頼んでいた雪だるまアイスにあまり口を付けないまま置いていたから、雪だるまが溶けかかっていた。
ひなみは俺のアイスに向かってフっと指を振った。すると、雪だるまが元の形に戻っていった。
「えっ、すごっ」
「んふ〜、でしょ? わっちは雪女だからね」
そう言うとニコッと笑って、話の続きを始めた。
「でさ、その来いって言ってるのが雷斗なんだけどさ、それ行かなくていいよ」
「雷斗ってあの緑髪の?」
「そうそう! あっ、何回か会ったことあるんだっけ?」
「まぁ会ったというかなんというか……見たことはあるよ。あの人だったんだ」
「そう。だけどそれ、やっぱり危ないから行かない方がいいよ。雷斗、何か勘違いして兎夜と喧嘩しようとしてるから」
「えっ喧嘩!?」
ひなみのことで怒ってるのかな……そりゃそうだよね。俺の銃はたしかひなみにとっては危ないものらしいし。
「誤解だって言っても聞かないの。なにか別の理由もあるのかもしれないけど……どちらにせよ、危ないから行かない方がいい。雷斗は手加減出来ないから、本っ当に危ないの」
別の理由……何かあるのかな。
「いや、俺行くよ。その別の理由っていうのも気になるし。だいぶ前に、一回助けてもらってるんだよね。だから、ちゃんと話してみたいし」
「話すって言うような余裕があればいいんだけど……本当に行くの?」
本当に? と聞かれると迷ってしまう。けど
「うん、行くよ。大丈夫、なんとかなるよ」
そう言うと、ひなみが少し悲しそうな顔をして言った。
「雷斗は、ずっと過去に囚われてる。そして、ずっと独りで戦おうとしてる。周りがどれだけ手を差し伸べても、それを、振り払っちゃうの。もし、もしもだけど、雷斗と仲良くなれそうだったら、お友達になってくれると嬉しいなって」
「お友達か……うん、分かった。多分その雷斗は悪い人じゃないから、なんとか上手く行くんじゃないかなって思う」
「そっか、優しいね。ありがとう」
そう言うと、ひなみは軽く笑っていた。今までに見たことがない表情だった。安心しているような?
アイスが入っていたお皿の中には、飾りのミントだけが浮いていた。
店を出て、さっきとは全然違う熱いアスファルトの上を進んでいく。
「今日は突然呼び出したのに来てくれてありがとうね!」
「いや、俺も久しぶりに会えて楽しかったし! メッセージ来た時は本当に嬉しかったよ。」
「よかった。今度はまた華代ちゃんも一緒に来ようね!」
華代……
「う、うん! アイス美味しかったし、華代もきっと喜ぶよね!」
ひなみが満面の笑みを浮かべると、道の先へ走って行き、姿が消えた。
もしかして……と思ってあえてリストバンドを銃に変える。すると、この間の雪女の姿になったひなみがいた。
「じゃあね! また会お!」
そう言うと季節外れな雪風と共に消えていった。
雪風の影響で少し涼しくなった道を歩く。
雷斗、まともに話したことないけど……でもきっと大丈夫。そんな気がしていた。




