葉月(3)
日が落ちはじめて少し涼しくなって来た頃、雷斗は買い物帰りの華代に偶然出会った。
「おぉ、華代だ。買い物行ってたのか?」
「うん。ちょっと足りんものあったけん」
「そうか。あぁ、そういえば、三日前の花火大会どうした? 今年はすっかり忘れてて……華代から話がないのも珍しかったけど」
「えっとね、今年は学校の友達と行って来たんよ」
「あぁ、前に言ってた仲良くなった二人のことか?」
「そうそう。一人こんかったけん、結局二人で行ったんやけど……」
「そっか、楽しかったか?」
ここで、突然華代の表情が変わった。花火大会の話を始めた時から、華代の表情は少しひきつっていた。しかし、この質問をした途端、あからさまに華代の顔から笑顔が消えた。
「あぁ……うーん……楽しかったよ」
「……それなら良かったよ。暗くなったら危ないし、今日はこの辺で解散しとこうか」
雷斗がそういうと、二人は解散した。
「学校で仲良くなった二人って、それ結局ひなみと守護者のことじゃねぇか。あの日、ひなみは俺達といたから……」
ブツブツと何かを言いながら家に帰る。
和風の豪邸、家の門には柊のマークが描かれている。雷斗はそこに入るなり、小さくただいまとつぶやき、少し離れにある自室へ行った。
「おや、今日はちょっと早かったね。おかえり」
「あぁ、ただいま」
ドアを閉める時の音がいつもよりも少し大きかった事で、雅之は雷斗の機嫌が良くないことを察した。
「どうしたんだい、機嫌悪そうだけど」
「その事なんだが……お前さ、矢文って飛ばせる?」
「はぁ……まぁあんまり得意ではないが出来なくはないよ。ほんと、どうしたんだい急に」
雷斗はガサツに机の椅子を引いて、そこに腰をかける。その音で、先程まで寝ていたひなみも起きた。
「いや、今日の帰りがけに華代に会ったんだが、どうも様子が変でな。途中まではともかく、花火大会の話をしたら顔がひきつってさ。楽しかったって言ってたが、それは嘘だと思う」
「ほぅ、つまり?」
「守護者がなんかしやがったかもしれねぇ」
「まっ!? いや、兎夜に限ってそれはないと思うけどなぁ」
ひなみが飛び起きて、否定した。
「よく考えて見ろよ。ひなみだって撃たれかけただろ?」
「いや、あれは多分そういうつもりじゃないと思うけど……」
「だが、ひなみに当たりそうになったことは事実だ。あの弾丸は邪神特化といえど、妖怪には痛いだろ」
「う、うーん……」
「まぁ確かにあれは僕ら妖怪にとっては痛いものだね」
「だろ? んで、ひなみに加えて華代にまで何か手ぇ出すってんならさすがに俺も腹が立つってわけだ。だから雅之、あいつに矢文飛ばせ。明後日の夜、あいつをひねり潰してくる。元から気に食わねぇのに、余計イラっとする」
「あぁ何? 決闘みたいな感じかな…?で、どうせ内容まで僕に書かせるんだろ?」
「……頼む」
「まぁいいけども……」
そう言うと、雅之はサッと文章を書き、兎夜の家の方向に向かって矢を放った。
それを見届けたところで、雷斗は母親に呼ばれ、部屋を出た。
「ねぇちょっと! これいいの??」
ひなみが心配そうに聞く。
「……雷斗がそうするって決めたことを、僕達の意見くらいで曲げるわけないだろ?」
ひなみがしゅんとする。
「僕も正直どうすべきかわかんなかったよ。けども、これで良かったような気もするから…まぁ、なるようになるさ」
ひなみは少し考えるなり、スマホを触りだした。
「その決闘が明後日なら……」
そう呟きながら開いたのは、メッセージの送信画面である。
「いろいろ話しておかないと……」
ものすごい速さでスマホの画面を叩く。そんなひなみを横目に、雅之は窓から見える街の風景を眺めていた。




