39話 選択肢
必殺技を見せてもらってテンションが上がった俺は教官にお礼を言うと直ぐにダンジョンに向かう。
途中でドンを預けていた所によりドンを引き取ると一直線でダンジョンの入り口に向かう。
もうだめだ早く俺にも必殺技を撃たせろそう思いながらダンジョンの入り口がある建物の扉を開ける。
「わんわん。」
扉を開けた瞬間、ギンが吼えて走り出す。
向かった先に3匹の子犬とそれを連れた少女が部屋の片隅で座っていた。アリサ達だ。
「こんにちは。」
なんて話かけていいか分からなかったので無難に挨拶してみた。もう少しコミュ力が欲しい。
「ん。」
向こうも向こうで返事をしてくれるだけだ。なんか気まずい。
「そういえばあの後、犬はどうだった?」
「もう大丈夫。今日から復帰。」
そういうとギンとじゃれている3匹の犬の方を見た。
3匹は元気そうにじゃれまわっている。
奴隷商の犬の事を聞いたんだけどまあいいか。薬は効いたって聞いたし。ダジャレじゃないです。
折角会えたのだしもう少しアリサ達と話がしたいが向こうも上がったばかりだろうし、こっちもこれからダンジョンで時間がないから名残惜しいけどもう行く事にしよう。
「じゃあ、俺たちはこれからダンジョンだからこれで。」
「ん。・・・私たちもこれからダンジョン。一緒に行く。」
マジかよ。こんな美少女と一緒にダンジョンとか夢じゃないよな。
それに今まで部屋の隅に居たという事はもしかして俺たちを待っていた?まさかね。
「・・・もしかして俺たちの事待ってた?」
「・・・ん。今日から一緒に行く。」
マジかよ。なんだかわかんなけどダンジョンに行くのに待ち合わせてそれから一緒に行くってこれってデートじゃん。
そうなるともう恋人じゃん。誰かに彼女いた事あるの?て聞かれたら、堂々とあるって答えて差し支えないってことじゃん。
「じゃあ行こうか。」
「ん。」
そう言ってじゃれていたギン達とそれに加わっていたゴブリン達を連れてダンジョンの中に入っていく。
いつものように光石なり地図なりの用意をして出発する。
「ルートとかどうしようか?俺たちは2階に行くんだけど。」
デートの時は男がリードするこれギャルの鉄則。ギャルじゃないけど。
そう言うとアリサは何やら考え込んでしまった。
「・・・・・・私たちは1階を回るだけ。途中まで一緒に行く。」
長らく考えて返ってきた答えがこれだった。
なんだ一緒に行くって途中の道まで一緒に行くってことなのね。じゃあデートじゃないじゃん。
でも待てよ途中まで一緒に行くってことは登校デート的な奴じゃん。無理やりじゃん。
でもいい、どうにかしてデートってことにしたい。
「じゃあ普段はどんなルートを巡っているの?」
そう聞くとアリサは自分で持っている地図を広げて指さし教えてくれた。
その中には2階へ行く道も含まれていたのでそこまでは一緒に行けるという事だろうか。
そういえば初めて会ったのも2階へ行くルートの途中だったなと思い出す。
「じゃあここまで一緒に行こうか。」
彼女の地図の一か所を指さす。
その際、彼女に少し近づく。凄くいい匂いがしてドキドキする。
こんなラブコメみたいな事が俺の人生に会っていいのだろうか。良いんです。
「ん。分かった。」
ドキドキしている間にアリサからそう返事があったので早速、移動を始める。
移動中ぽつりぽつりと会話をする。
普段はどの辺で狩りをしているのか。
主に何を狩っているのか。
大体はネズミやスライムを狩っていてトカゲは無傷で倒せないので無視。コウモリも捕まえられないので無視しているらしい。
主な収入源はやっぱり回復ゴケらしい。
そんな事を聞いていると親切心というか何というかな感情が湧き上がってくる。
「ちょうどいい場所があるからそこに行こう。」
「?」
そういうと行き先を変更して2の部屋の崖の上の方。俺の中での通称、回復ゴケ農場がある場所へ案内することにした。
その場所はスタート地点から遠くおまけに出てくる敵がネズミとコウモリという冒険者が狩りたがらない敵しかいないうえに湧水や回復ゴケがあるわけでもないとても不人気な場所だ。
そう俺が来る前まではね。
今では俺が作った回復ゴケ農場があるために行けばお金になるものがある。
もしかしたら誰かがもう回復ゴケの群生地があるという事を発見しているかもしれないが前に見た時はまだいっぱいあったからどんだけとってもまだ誰にも怒られないだろう。
それに犬達をレベルアップさせるためにネズミなんかを狩っているのであればあそこはうってつけだ。
あそこは人が来ないためほっとくと直ぐに増殖してしまう所だ。
最近あんまり行っていないが回復ゴケの『薬効』を補充しに行くと必ず大量にいて俺のスキル石になってくれるそういう場所だ。
それにコウモリも俺の虫取り網を貸してあげれば狩れるし1石3鳥の美味しい場所と言えるだろう。
回復ゴケ農場を目指して歩いている道中に出てくる敵は見つけ次第、うちのゴブリンとギンが駆け出して殲滅していく。
うちでは当たり前の光景だったがゴブリン達が急に叫びながら走り出すのは驚くのか、そのたびにビクッとなっているアリサが可愛かった。
そんな感じで一直線で回復ゴケ農場に向かう。寄り道なしで行ったがまあ遠い場所なのでそれなりの時間はかかってしまった。
「まず説明しておくと最初はコウモリの生息エリアがあるからそこは走り抜けるよ。その後はネズミがいっぱいいるからそこでネズミを狩る。いい?」
「・・・分かった。」
作戦会議終了。という事で早速、部屋に入っていく。
コウモリエリアを走り抜けてネズミエリアに行く。アリサや子犬たちもついて来ているようだ。
ネズミエリアに入ったところでネズミの群れが襲い掛かってくる。
久しぶりに来たせいか群れの数が多い。
ただこっちには昔と違って戦力が多い、ゴブリン達やアリサはもちろんにギンや子犬たちそれにドンまでもがネズミを踏みつぶしている。
大人数でやったのでネズミは直ぐに退治出来た。
今はネズミの死骸をみんなが食べているところだ。
「怪我はない?」
「ん、大丈夫。」
「ネズミに噛まれてない?」
「それも大丈夫。」
大丈夫らしい。ちょっと見ていた感じだとネズミぐらいは難なく倒していた。
明日からはもっと数は減るだろうしアリサ達だけでも大丈夫だろう。
「じゃあこっちに来てみて。」
そういって回復ゴケ農場をつくった壁の方へ案内する。
「嘘・・・これって。」
壁一面に茂る回復ゴケを見て驚いている。そうだろうそうだろう、かなり頑張ったんだぜ。ドヤ。
「あまりこの場所は知られてないからいっぱい採っても誰にも怒られないよ。」
「・・・これってワタルが。いやいい。教えてくれてありがとう。」
「どういたしまして。後、回復ゴケを持ってきてくれたら僕がその分、回復薬にしてあげるよ。」
採取された回復ゴケなら俺の力でスキル石を採れるから簡単に回復薬を作れる。少しくらい作って上げたっていいだろう。売る訳じゃないし。
「そんな悪い。」
「大丈夫。大丈夫。簡単だし自分の分のついでだから。」
「ごめん。ありがとう。」
人に感謝されるなんてなんて気持ちが良いんだろう。
「後はこの虫取り網を貸すよ。これを使えばコウモリも簡単に捕らえられるし楽に倒せるよ。」
「・・・何から何まで。本当にありがとう。」
軽く網を使ってコウモリを狩った後、アリサ達と別れて2階に行く。
結構寄り道をしてしまったが美少女に心の底から感謝されるというイベントがあったので満足だ。
現代で言えばデートをしてプレゼントを上げたら喜んでちょっと涙ぐんでたイベントと考えて大丈夫だろう。俺はもうそういう事にしたから。
2階に着いたら早速、ゴブリンを狩り始める。
ここからはラブコメじゃない、バトルの時間だ。修羅の時間だ。
狩って狩って狩りまくって俺の魔鉄鋼剣の『剣術』レベルを上げるのだ。
そう意気込んでゴブリン達を狩っていくがなかなか『剣術』スキル石は集まらない。
今日はもうゴブリンを10匹倒したが『剣術』スキルはまだ0.6しか集まってない。
前々からそうだが大体この辺のゴブリンは『棍棒術』『剣術』『槍術』の3つのスキルを持っており、割合は8:3:1だ。
12匹いたら『剣術』持ちは3匹くらいで、そいつらは大体0.3で時々0.4がいるくらいだ。
最近は2-3の魔鉄鉱石を埋めた所に魔物の死体を埋めるために2-3周辺で狩りをしていて大体1日に15、6匹くらいのゴブリンを狩っていた。
なので一日に1.2ずつ『剣術』のスキル石が増えており今は3.6+さっきの0.6で4.2分ある。
魔鉄鋼剣には2.0になった後に2.1入れている。
2.0から3.0にするには12.0必要で残り9.9で手元に4.2あるから5.7必要だ。
今日はもう少し狩るがこのペースで行けば3.0になるまであと4日か5日くらい。
3.0から4.0にするには24.0必要だからそれからさらに20日くらいかかる。
薄々気が付いてはいたが改めて計算して出すと4.0にするにはとんでもない時間が掛かる事が分かってしまった。
あと25日も我慢しなきゃいけないとか拷問だろ。これが課金ゲームなら我慢できず課金しているそんな時間だ。計算しなきゃ良かった。
とにかく嘆いていても始まらないので解決策を考える。
まず思いつくのは今いる狩場ではなくもっとゴブリンが一杯いるところを探しに行きそこで狩るというものだ。
2階はまだほとんど行っていないのでゴブリンが沢山出現する場所もあるかもしれない。
もしかしたら『剣術』持ちしかいない場所もあるかもしれない。まあそんな都合のいい所はないだろうけど。
沢山出現する場所がなくても多くの部屋を移動することによって獲物の数を増やすことは可能だ。
ただこれをすると魔鉄鉱石を育てるのが難しくなるのが欠点だ。
狩った魔物を魔鉄鉱石を埋めた所に入れているので狩った場所が遠いとその分運ぶのが大変なのだ。
それに一度に積める限界もあるので荷物が一杯になるたびに2-3に戻って来なくてはならずそうすると時間がかなり掛かって大してゴブリンを狩れなくなってしまうだろう。
だからこの作戦をした場合はある程度魔物の死体を埋めるのは諦める事になる。
保留だな。
次に思いついたのはあまり気が進まないが直ぐに4.0の武術スキルの武器が作れる。
それは『剣術』スキルではなく『棍棒術』スキルを使えばいいのだ。
なんの武器に使うかは置いておいて、『棍棒術』スキルは現在45.3もある。45.3だ。
45.3というのはどう凄いのかと言えば、『剣術』と同じ比率で武器に入るとすると0.0から4.0に上げるまで必要なスキル石は45.0だ。
つまり手持ちの分でもうすでに4.0に出来る分だけのスキル石があるのだ。
では何が俺の気が進まないのかと言えばそれはなんの武器に使うかという事だ。
手持ちでスキル容量が4.0の物はないだから買うとしたら魔鉄鋼製の武器を新たに買わなきゃいけない。
そしてそこで新たな問題が生じる。つまりどんな形の武器にすればいいかという事だ。
魔鉄鋼製の剣を買ってそこに『棍棒術』を入れた場合、スキルはどんな挙動になるのか今日見た必殺技は撃てるのか。そんな疑問が残る。
じゃあ素直に魔鉄鋼製の棍棒を買った場合どんな問題があるのか。
それはもちろんかっこ悪い事だ。
物語の主人公で棍棒を持っている奴がいるだろうか?多少はいるな。今何人か思い浮かんだから。
だが駄目だそいつらは大抵、脳筋とか蛮族とか呼ばれちゃうような奴らだ。
俺が目指しているのはかっこいい系の主人公だ、そいつらは大抵剣を持っているのだ。
そういう者に私はなりたい。もっと言えば魔法剣士になりたい。
これから魔術系のスキル石を手に入れてなんかの装備に付けて魔法を使いながら剣で戦うそういう者になりたいのだ。
じゃあ棍棒を持っていた場合はどうだ。
魔法を使って棍棒を持っている奴、そんな奴に付く魔法剣士みたいな称号はありますか?ありませんよね。何故ならそんな奴は物語に居ないからだ。
そんな者に私はなりたくない。
いや待てよ。よくよく考えたら僧侶って棍棒みたいな打撃武器を持ちながら魔法使っているよな。
じゃあ僧侶になるって事か。もうちょっとかっこいい職業にするならパラディンか。どんな職業かフワッとしか知らないけど。
それならそれでありかもしれない。
うーん悩む。
ここは何か重要な分岐点になりそうだからじっくり悩む。それがいい気がする。
そんな事を考えながらこの日は2-3周辺でゴブリンを狩っていった。




