38話 サイタマから来た少年 駆け出しテイマー編
他人視点の話です。
薬屋のおばあさんが子犬に薬を与えてから大分時間がたった。
今は犬の体調がどうなるか見ている段階だ。
奴隷商の地下にある犬のための部屋のため薄暗い。
その中で何頭もの子犬が苦しんでいる姿は心苦しいものがある。
だがあの人の薬だきっと大丈夫だろう。
何故かあのおばあさんは自分が作ったと言っているし1本しか持ってきていないが何の色も匂いもない薬は間違いなくあの薬だ。
もしかしたらあの薬を作れる事を隠さなきゃいけない事情があるのかもしれない。
私はあの日の光景を思い出していた。
もう何もかも終わりだと思ったあの時、突然現れたあの人。
何でも無い事のように気軽にいくつも薬をふりかけた時は吃驚して声も出なかった。
何故か子犬がビショビショになる事を気にかけていたのを思い出し思わず笑ってしまう。
そしてあの時、私の髪を触って・・・今、思い出しても恥ずかしくなる。
いきなりは困る。
その後、何とか探し出してお礼だけは言えたがそれだけだった。
何かで返したいと思い話を聞いてみたが私に出来ることは何もなさそうだった。
唯一出来るのは・・・・・・やっぱり恥ずかしい。
あの後、子犬が元気になったのを見た奴隷商のアルバートさんから事情を聞かれた時も素直に話してしまった。
薬がアルバートさんに売れればそれだけ彼のお金になると思ったからだ。
まさか薬の事は隠しているとは思わなかった。
そんなそぶりは一切なかったのに。
もしかしたらまた彼に迷惑をかけてしまったのかもしれない。
「熱も下がって来たしもうこの犬は大丈夫だね。もう少ししたら何か食べさせてあげれば何の心配もないだろう。」
考え事をしていたら薬を与えられた子犬の症状は回復したようだ。良かった。
「では残りの犬も同じように薬を与えれば大丈夫という事ですね。」
アルバートさんの表情は分かりづらいが多分、かなり安堵しているのだろう。
「そうだね。残りの分は明日の夕方には出来上がるから夜に取りに来な。」
「はい分かりました。それで料金の事なのですが、お恥ずかしい話ですが初めて見る薬のためいくらか検討もつきません。1本おいくらくらいでしょうか?」
と言ったアルバートさんとおばあさんが何故か睨み合っている。
「腹の探り合いはなしにしよう。端的に言うよ。その薬を作ったのがあの子だというのは忘れな。そしたらその薬は1本5万だ。」
「なるほど、一つ聞きたいのですがあの薬を作れるというのはそこまで秘密にしなくてはならない物なのでしょうか?」
「そういう詮索もしない方がお互いのためだね。因みにあれと同じ効力の薬を作ろうと思ったら今からなら3週間かかる。材料もこの辺で取れないから運んでこなきゃいけないし下手すればもっと時間が掛かる。そうして作られた薬は1本10万だ。もちろんうちの店に在庫はあるが27本なんて量はとてもじゃないがないね。それはこの街の全ての薬屋の在庫を合わせたって10本もないだろうね。」
「なるほど。そんな薬が明日には出来ると。」
「そうだ。あの子はとんでもない力を持っている。そしてそれに比べて常識も危機感も持ってない。欠如していると言ってもいい。」
「・・・確かに思い当たる節はあります。」
私にも思い当たる事はあった。
あんなに高級な薬を惜しげもなく使って何事もなかったかのように振舞っていた。
こんな事が出来るのはすごいお金持ちの子なんだと思っていた。
それも隠そうともしない。お金があると分かればそれを奪おうとする輩は必ず出てくる。
それを気にしないという事は相当の権力を持った人の子供だと思っていたが。
「私も最初はどっかの貴族の子供が道楽で冒険者をやっているのかと思ったけどね。あの常識や危機感のなさに比べれば王族だってもうちょっとマシってもんだよ。」
「なるほど宮廷薬師でもあったあなたが言うのであればそうなんでしょう。」
なんかすごい大事になっている。
「だからあの子を騙して大儲けするなんて簡単に出来るだろうね。あの子を利用すればそれなりの地位を得る事だって簡単だろう。だがそれはやめた方がいい。必ずこの国の諸侯、下手したら他の国を巻き込んだ泥沼の戦いになるだろうね。」
「そこまでですか。」
「そこまでだよ。だからあの子の事は気づかなかった事にして他の奴らに勘繰られない程度に儲けるのが丁度良いんだよ。」
「でもあの感じであれば、いずれ誰かに見つかってしまいますよ。」
「そこが頭の痛いところだよ。最初は誰かに見つかってもいいかと思っていたんだけどね、今日の事で気が変わったよ。あの子は本当に簡単に沢山の人を簡単に殺す事も出来るし、逆に簡単に沢山の人を救う事も出来る。なら少しでもマシな人生を歩ませてやりたいじゃないか。だからこっちで存在は隠せる限り隠す。薬が必要な時はその力を存分に発揮してもらいこっちで届ける、そういう事をするためにもあの子の事は黙っていて欲しい。」
そう言うと薬屋のおばあさんは頭を下げた。
しかしその言葉を聞いてようやく気が付いた、あの人の薬は私を救うだけのちっぽけなものじゃない。もしあの時、村に彼がいたら私の家族も家畜も村の人も全員助かった。私の村を襲った不幸そういうものを全部救う、そんな事が出来る能力、そんな能力があれば誰だって欲しがる、それこそ力ずくでも。
なるほどおばあさんが言いった争いの意味も分かった。
そして私が彼に出来るお礼と言うのも分かった気がした。
「分かりました。あの薬はあなたの店の在庫を売ってもらった。あの少年は関係ないでいいですか。」
「助かるよ。そっちのお嬢さんもそれでいいかい?」
「分かった。誰にもしゃべらない。」
「後はなるべくあの子には会わない方がいいね。」
「それは嫌。彼は私が守る。」
彼が変な事をしないように見守るそれが私にできるお礼だ。
「それはやめた方がいい、さっきはああは言ったが遅かれ早かれ必ず厄介事になる。あの子の近くに居た場合必ず巻き込まれる。今ならまだ引き返せるんだ自ら厄介事に飛び込むことはない。」
「もう決めた。彼は私が守る。」
そう言っておばあさんとにらみ合う。
「はぁ。なら好きにしな。但し何かおかしな事になったら直ぐに私の所に来るんだ。いいね。」
「分かった。」
これでようやく私のやることが自分で分かったそんな気がした。
「私の方も彼の薬の事は秘密にはしますがそれとは別に彼は魔物育成にも力を入れています。そのあたりはこちらでケアいたします。それでよろしいでしょうか。」
「分かった。そっちの方は専門外だからねよろしく頼むよ。薬の残りは夜持ってくる。」
「分かりました。こちらも代金を用意しておきます。」
こうしてこの場は解散となった。
私は宿に帰り準備をする。
これからする事を知った時彼はどんな顔をするだろうそんな事を考えながら自然と笑みがこぼれた。




