第一話 気が付けば好きになっていた
【登場人物】
奥山 美月
主人公。2年2組在籍。
引っ込み思案な文学少女。猫が好き。
神谷 優一
2年2組在籍。
ゲーム好き。誰にでも優しく、オタク事情も詳しい。
橘 優樹菜
2年4組在籍。奥山の親友。1年生のとき奥山と同じクラスだった。
軽音部在籍。ギターボーカル担当。コミュ強。
きっかけというのは、なかなかはっきりとしないもので。
知らぬ間に、ちょっとずつ意識するようになっていた...のだと思う。
いつだったのだろう。
挨拶をしてくれたとき?グループワークが一緒になったとき?
私が休み時間に描いていたゲームのキャラクターを知っていたとき?
私はいつの間にか、彼に「親近感」を抱くようになっていた。
その気持ちに、他に対応する名前があるのか。今の私には、まだ分からず...
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「ま~た考えごと?」
「うぇっ!?」
隣でおにぎりを嚥下した優樹菜ちゃん——橘 優樹菜ちゃんが、呆れたように声を出す。
私―—奥山 美月は、驚きのあまり声を荒げてしまった。
「い、いや、そういうわけじゃないけど...。」
「そ~んなこと言って。どうせまた神谷君のことでしょ?」
「だっ、だから違うって!!」
県立時使高校。別館1階の一番手前。
ここ、軽音部の部室が、私たち2人の食堂だ。
私は軽音部に所属していないが、所属している優樹菜ちゃんの厚意で、昼休みの時間だけ使わせてもらっている。
教室棟の喧騒を離れ、2人でのんびり過ごすこの時間が、学校生活で1番穏やかな時間といっても過言ではない。
優樹菜ちゃんは不思議な子だ。
いわゆるコミュ強というやつで、男女分け隔てなく、誰とでも話すことができる。
クラスが同じだった1年生のとき。彼女はさまざまなグループの話の輪の中に入り、楽しそうに談笑していたのを覚えている。
キラキラした放課後を送るのかと思いきや、放課後は部室で一人黙々と練習。合わせ練習以外で部室を使っているのはほとんど彼女らしい。
加えて、私のような根暗な人間と2人でご飯を食べてくれる。
1年生のとき、図書室の帰り道に、部室で歌う彼女と目が合ってから、毎日のように話すようになり、しまいには部室まで出入りさせてもらえることになっていた。
優樹菜ちゃんは、からかうような横目で私を見やる。
「いやいや~。先に出てきた神谷君を目で追ってたの、私見てたんだよ?」
「うぐっ...。」
神谷君。神谷 優一君。今年から同じクラスになった、私が「親近感」を覚えた人。
決して、彼は根暗な人ではない。
昼休みは大人数でご飯を食べているし、休日にはそのメンバーでゲームをすると聞いたことがある。
中学時代、ほとんどの男子を遠ざけて過ごしてきたのに、唯一、彼にだけは近づきたくなってしまう。
彼には、そんな「何か」がある。
恋愛経験どころか人との交流もほとんどしてこなかった私のようなオタクは、親近感を覚える人ほど印象深く頭に残るもので。
いつしか、目が引き寄せられていくようになったのだった。
「まあ分かるよ~。神谷君、話しやすい雰囲気あるしね。」
部室へ行く道すがら自販機で買った、リンゴジュースを飲み干してから、優樹菜ちゃんは言う。
私は、ため息をついた。
「でもさ、神谷君も私みたいな人とは話したいなんて思わないだろうし。」
「ほら。やっぱり神谷君のことじゃん。」
「あっ」
自ら墓穴を掘った。オタクは、想定外の議論にめちゃくちゃ弱いのだ。
人狼ゲームの動画なら、毎日見ているというのに。
「あっ、ちが、そうじゃなくて...。」
「いい加減認めな~?自分を隠しててもいいことないよ?」
「神谷君は、その、私の描いてたキャラクターを知ってて。えと、それってけっこうニッチなキャラなんだけど。いくらゲーム好きとはいえ、それを知ってるなんて思ってなくて。それで、やっぱ、ちょっとそのゲームについて話をしてみたいっていうか...。」
お手本のようなオタク特有の早口が出てしまった。
「はいはい。わかったわかった。」
優樹菜ちゃんの慰めるような声が痛い。
「ともかく、まずは神谷君のことが好き...とまではいかなくてもさ。気になってる、ってことは、認めてもいいんじゃないかなって、ウチは思うよ。」
「う、うん。」
私は神谷君のことが気になっているのだろうか。
それってつまり好きになる直前ってことで。好きになった相手にはその気持ちを伝えなきゃいけなくて。
...え?私は神谷君のことが好きなの?そんなわけないよね?
それで、学校の帰り道に、友達に好きな人ランキングを教えなきゃいけなくて。
好きな人がいるってバレたら、周りに噂が流されるようになっちゃって。
最終的に陽キャたちのいじりの対象になって...。
...この流れ、小学生の頃に見た気がする。掘り起こさないで。
ともかく、神谷君に私が好きって伝えるってことになるのかな。
えそれっておこがましすぎない??
ぐるぐると考える私をよそに、優樹菜ちゃんはじっと私の顔を見る。やめて。校則ですっぴんなの。それにしても優樹菜ちゃんは肌がきれいだな。
「今日こそ言わせるからね!」
「えっ?」
「私、奥山美月は?」
「...え?」
「私、奥山美月は?」
「わ、私、奥山美月は...?」
「神谷君のことが?」
「か、神谷君の、こ、ことが...って!ちょっと待ってよ!」
「どうなのよどうなのよ?」
乗せられている気がする。気がするが、2週間もこの茶番をしてくれる彼女にも申し訳ない。
認めたくないというより、分からない。その印象のほうが含有比率が高い。
まだこの気持ちの名前は分からないけど、言わないといけない。ようやくそんな気持ちになれた。
「気になってる......のかもしれない。」
「よし、一歩成長。」
どっと疲れた。部室のソファーに座ってるだけなのに。
「そうと決まれば、話は早いよ。美月、君は本が好きだよね?」
「うん。」
「つまり文学少女だ。」
「ま、まあ、そうかも...。」
「文学少女なら文学少女なりに、彼に想いを伝える方法があると思うんだよ。」
優樹菜ちゃんはソファーから立ち上がり、私の前に立つ。
そして、ビシッと私の方を指さして、
「奥山美月。君は神谷君に...。」
そして、ワントーン低い声で言ってみせた。
「手紙を書くのさ。」
「...は?」
手紙?なんで!?どういうこと!?
「ちょ、ちょっと待って!やっぱこういうのってさ、まずは軽い雑談から初めて、そしてお互いの趣味や好きなことを知り合ってから、まずは友達から入ってさ...。」
慌ててまくし立ててしまう私。さっき見た気がする。
「うんまあ、そこまではやってもらわなくちゃね。」
「うぐっ...。」
コミュ強からの何気ない一言に。私は胸を刺される。
私にはこのハードルが高すぎる。グループワークでちょっと喋っただけの人と雑談なんて...。
それを分かっていて言っているはずの優樹菜ちゃんからの、思いがけない一言。
「でもさ、美月にはそれができると思うんだよ。」
「...え?」
できる?ちょっと喋っただけの人と雑談が?
「無理無理!会話全然広げれないもん!」
質問には「はい」か「いいえ」で答えてきた人生だった。直そうとはしている。そこから広げるのが、私にはできない。
「そ、そっかぁ。」という言葉を、人生で何度聞いてきただろうか。
「そこなんだよ。」
優樹菜ちゃんは顔をぐいと近づける。
「自分で話を広げて、自分のペースに持って行って、会話の主導権を握っていく...なんて、よほどのコミュ力がないと成り立たない。一つ、アドバイスだよ。」
呆然と見つめる私をよそに、優樹菜ちゃんは高らかに宣言した。
「勇気がいるのは話しかける時だけ!それ以外の会話は、『復唱』と『オウム返し』と『リアクション』でどうにかなります!」
...うん?どういうこと?リアクションはともかく、復唱?オウム返し?
私が戸惑っていると、コミュ強は淡々と、それでいて力強く説明を始める。
「まず『復唱』ね。これは、相手が発した言葉をそのままこちらも声に出すこと。例えば、
『俺、リンゴが好きなんだよね。』
『へえ、リンゴが好きなんだ。』
『そう!特に青森のこのリンゴが特に好きでね...。』
...といったように、相手から話を広げてくれる可能性が高い。」
「な、なるほど...!」
ただ発した言葉を返すだけ。今まで英語の授業以外でやってこなかったが...。
「次に『オウム返し』。これは、相手が質問してきたことをそのまま相手にも質問してあげることだよ。例えば、
『君って、本が好きなんだ。』
『そうなの。○○君も、本が好きなの?』
『俺はあんまり読まないけど、妹が好きでね。ちょっと気になってるんだ。この本、知ってる?』
『知ってる!!』
...といったように、もし回答が『いいえ』でも、何か話を広げられるネタをこぼしてくれることが多い。」
いつの間にか姿勢を正して聞いてしまった。これなら、私にも...!
「最後に『リアクション』。これは会話を広げるというより、会話を楽しませるための手法だよ。大きく驚いたり、盛大に笑ったりすると、話している方も、こちらも、自然と楽しくなってくるんだ。」
...まずい。最後にして最大のハードルが現れた。
「私、リアクション苦手だぁ...。」
先ほど見えた希望から一転、絶望への門が開いてしまった。私はまたもため息をついた。
そこへまた、優樹菜ちゃんの何度目かの思いがけない一言。
「いやいや~、案外そうでもないんじゃない?」
「えっ?」
私だよ?一生根暗陰キャ文学少女オタクだよ?人間違えてない?
しかし親友ははにかみながら、続ける。
「美月の好きなゲームや小説に関する話になったときの反応。あれはなかなか真似できないよ。」
恥ずかしすぎる。あれ、別に狙ってやってるわけじゃなくてですね。
「いや、あれは、好きなものを話す時間はテンションが上がってるというか、オタク特有の早口というか...。」
「それを、神谷君にも実行してみよう。」
「嘘でしょ!?」
無理です。鏡で見たことはないけれど、絶対キモい顔してるし。
「ウチが言ってるのは、そういうことじゃなくてさ。」
見透かされたように答える優樹菜ちゃん。
「美月が好きなゲームや小説の話で攻めようってこと。神谷君、小説はともかく。ゲームはたくさん知ってるんじゃない?美月が好きなニッチなキャラ?も知ってたわけだしさ。」
神谷君はゲームが好きだ。彼の話に耳を傾けていると、知っているゲームがいくつも出てきていた。
「...つまり、私が描いてたキャラを起点に話を始めるってこと?」
「そう!そのあとは『復唱』と『オウム返し』を意識して会話したら、初めての雑談は成功するはず!リアクションの方も、多分どうにかなるっしょ!」
『どうにかなる』にかけられる比重、重すぎる。
「そして、数回雑談を重ねたのちに、神谷君に手紙を送る!こうすれば、神谷君の中に、印象深く残ること間違いなし!!」
優樹菜ちゃんがテンション上がってきた。私はただ彼女を見るだけだった。やっぱり私、リアクション苦手です。
けれど、このくらいのことなら、できる気がしてきた。
勇気が必要なのは、話しかける時だけ。そこにすべての勇気を集中させれば、(優樹菜ちゃん曰く)会話は続けられるらしい。
手紙は一旦後で考えるとして、雑談なら、私にもできるかもしれない。
タイミングよく、始業5分前の予鈴が鳴った。
慌てて弁当箱をしまう優樹菜ちゃん。私もそれに続いて片づけを始める。
部室の鍵を閉め、教室棟へと急ぐ。
「そういうことだから頑張ってみて!美月ならできるよ!」
「う、うん!頑張ってみる...!」
「また明日、結果教えてね~!」
「うん!...って、明日!?」
早すぎない!?と言いかけたところで、彼女は自分の教室、2年4組へと消えていった。
憂鬱な授業が始まるいつもより、少しだけ足取り重く、私も自分の教室へと歩き出す。
この令和の時代に、手紙。
私の第一歩は、少々危ない着地でスタートを切った。
元楽曲はこちら→https://www.nicovideo.jp/watch/sm43029604
というわけで改めて。
初めまして。Lv.0(けけロイドP)と申します。
昨日プロローグを書いてみたのですが、結構楽しくて。もともと文章を書くこと自体はとても得意だったので、その影響からかどんどん筆が進み。
気づけば1日で第一話が完成してしまいました。
初めての執筆ですので拙い点があるかとは思いますが、生暖かい目で見てください、、
さて、私は普段ゲーム実況をしているものです。
ゲーム実況の編集などもありますゆえ、更新速度はそこまで早くないと思いますが、何とか完結まで持って行けたらなと思います。
そして、ゆくゆくは自分が作るいろんな曲で小説を作ってみたいな、、なんて思ったりしています。
良ければこれからも、ゲーム実況動画やオリジナル曲共々、ちらっと見てくださると幸いでございます。




