70.これで復讐の処刑は終わり
追加の小石を投げた民がやや疲れてくる頃、ようやく処刑道具の設置が終わった。大きなベッドに似た台に、まずラッカム元伯爵が繋がれる。両手足を目一杯広げた形だった。
嫌な予感がする。
「これは他国で見つけて、すぐに取り寄せたのだ」
「献上品なのね、素敵」
ママ、本当に素敵だと思うの? 私は怖いんだけど。ちらりと視線を向けた先で、メイベルも目を輝かせていた。本当に壊れちゃったんだなぁ……なんていうか、タガが外れた状態。
大きな振り子のついたハンマーのような道具を、牛で引いて離す。と、カチンと音をさせて動き始めた。ああ、未来が見えてしまった。
ハンマーに似た部分が金属に擦れて甲高い音を立てる。ちょっと耳障りだけど、これが一往復するたびに足の方へ近づいてるよね。
「すり下ろすっていうか、潰す?」
「よく見ろ、あの先端部分を」
そう言われても、そんなに視力良くないよ。じっと目を細めて注視する私の耳に、ラッカムの悲鳴が届いた。傷の状況を見て理解する。確かにすり下ろしだ。ハンマー部分が金属の台に掠めてるけど、罪人側の面がおろし金になっていた。
すり下ろした上で、散った肉や骨も砕く仕組みだ。凝りすぎてて意味がわからない。爪先をじょりっと削られても、物凄い激痛だよね。というか、ぶつけた小指の爪って涙出るくらい痛いもん。
「傷の上を削るとさらに痛いぞ」
「うん」
見てれば伝わってくる。家具に小指をぶつけた時の激痛が、数十倍になって想像できた。想像だけで爪先が痛くなる。
「さすがは義父上、感心いたしました」
パパが感動してるけど、私は全身がゾワゾワしていた。悲鳴で肌が粟立つ。でも目が離せなかった。私はちょんと首を切られたけど、一歩間違えたら死に損なって酷い目に遭ったんじゃない?
たとえば刃がイマイチ研ぎ足りなくて、半分くらい落とされるとか。そう考えたら、ラッカムの激痛が当然に思えた。すとんと納得してしまい、足を揺らしながら眺める。
「どうした、退屈か?」
「時間かかりそうだね」
「ああ、あれは最初に処理される方が幸せなのだ。見ろ、足元で順番を待つ男の有様を……笑えるではないか」
お祖父様が指差した先で、粗相したアディントン元侯爵が震えている。頭を抱え、手足を丸め、必死で何か叫んでいた。その声は、興奮した民の歓声やラッカムの悲鳴でかき消されてしまう。
途中でアディントンと交換され、少しずつ削っていく。徐々に呻きや悲鳴すら消え、最後は出血によるショック死だった。隣でママが魔法を使ってたから、死んでも楽になれないと思うけど。
「あの程度では満足できぬな。我が孫娘の名誉を汚し、命を奪った……それに飽き足らず、娘や婿まで壊してしまったのだ」
ぽつりと呟く祖父の悲しそうな声に、私は喉を詰まらせる。何か慰めを言いたいのに、全部軽くなりそうで。飲み込んでは口を開き、言葉が見つからずに噤む。強いが故に狂うことも出来なかったお祖父様は、きっと抱えた痛みも大きい。
気づいてしまえば、私にできるのは寄り添うことだけだった。これで復讐は終わり……全身から力が抜けた。




