17.今日だけでなく明日も忙しい
私が目覚めたのは、自室のベッドだった。エイミーが気付いて、すぐに顔を拭いてくれる。
「ありがとう……ママは?」
「奥様は居間でお待ちですよ」
ローナにも手伝ってもらい、大急ぎで着替えた。帰ってきた時の話を聞くと、ごねたパパが勝ったらしい。パパに抱っこされて帰ってきていた。エイミーと手を繋ぎ、屋敷内を歩く。壁に飾られた肖像画の一番最後に、私がいた。昔の私だ。
「ここ、当主じゃない」
エイミーはまだ屋敷に来て間もないので、何を指摘されたか分からない様子だった。ママに聞いてみよう。他の肖像画は家族か当主なのに。私単独の肖像画はちょっとおかしい。
入室した家族用の居間は、パパやにぃにも寛いでいた。我が家は少し変わっていて、靴を脱いで絨毯に直接座る。この国の貴族が見たら眉を顰めると思うけど、すごく楽なんだよね。もちろんソファーもある。クッションをいっぱい置いて、ソファーに寄りかかるのが好き。
ぽいっと靴を脱いで、振り返って並べ直した。満足して向きを戻すと……両手を広げて待つ三人の家族。これは誰を選んでも揉めるが、選ばないと拗ねるやつだ。迷う、権力順ならママかな。でもママと話をしたいので、隣のパパ? いや、正面から向き合うならにぃにの膝か。
迷う間に、エイミーが端に座って膝に乗せた。まさかの後ろから確保されてしまった。不思議なことに誰も文句を言わない。くすくす笑う姿に、どうやら揶揄われたのだと理解した。
ぷくっと頬を膨らませた私に、ご機嫌取りが始まる。お茶を用意されたり、お菓子を持たされたり、頭を撫でもらったり。忙しいこれらの一連の行動は、前世から同じだった。私がにっこり笑ったら終わり。
「ねえ、ママ。どうして私の肖像画を飾ったの?」
「あなたの姿は変わってしまうでしょう? だから記憶が鮮やかなうちに描かせたの」
なんとなく事情を察した。首が腐る前に、絵師を呼んだんだろう。呼ばれた絵師さん、さぞ怖かっただろうに。大枚払ってあげていればいいけどね。
「パパの絵は飾らないの?」
「家族が揃ったから、描かせるつもりよ」
ああ、なるほど。私だけ容姿が変わったから、両方残したかったのか。ちょっと胸がジンとする。
「それはそうと。明日はグロリアの部屋の模様替えをします。壁紙を変えて、もう少し可愛らしくしましょうね」
この「しましょうね」は、断ることを許されない。あのままでいいんだけど、と思っても口に出来なかった。私に許されるのは「分かった」と頷くことだけ。
「買い物も途中だわ。幼子って大変ね、途中で寝てしまうんだもの。あまり好きではないけど、商人を家に呼びます。明日も忙しくなるわ」
明日も忙しいのは決定のようだ。自分の意思と関係なく眠ってしまうのは、この体が成長過程だから。歯痒く思う部分もあるけど、復讐がすでに終わっているので急ぐ必要がなかった。
やっぱり自分の手で復讐したかったな。ふとそんな贅沢な考えが浮かび、苦笑いする。ママ達と逆の立場なら、私も復讐しただろうから。優しい家族と過ごせる時間を大切にしよう。そう思い直した。




