18.この国が残ることさえ許せなかった
お祖父様のおられる隣国は、もはやこの国と同じ。完全に併合されていた。僅か五年ほどなのに、凄いなと感心する。
「五年じゃないわ」
ママが否定するので、妊娠期間を入れて六年かな? と思ったら、予想外の返答だった。
「この国の併合は一年掛からなかったの」
目の前に並べられた大量の家具見本を、じっくり眺めながらママは唸った。
「触れた感じはこちらだけど、デザインはこっちがいいわ」
「でしたらオーダーで作らせることも可能です」
「あらぁ、そうして頂戴」
あっさりと高額のオーダー家具が注文される。白木の産地から切り出した美しい木材を撫でていた母は、笑顔で金額も聞かない。まあ、お金はあると思うけど。元王女様なので、値札なんて気にしたことないんだろうな。
「ママ、どうして一年掛からなかったの?」
「王族が残っていない国ですもの。併合するのは簡単だわ」
そういえば王族の魂を使ったとか、言ってたけど。本当に国王陛下や王妃殿下まで使ってしまったらしい。すでに誰も残っていないと断言されたので、曖昧に頷いておいた。ママって容赦ないよね。お祖父様もそういうところあるし。あれ? パパやにぃにも私が絡むと怖いから……なぁんだ、マトモなのは私だけね。
家具屋さんが下がったのを確認し、壁紙屋さんが来る前に簡単に説明を受けた。
王族がいなくなれば、各貴族が勝手に動き出す。それが普通だけど、私に敵対する勢力をホールズワース侯爵家と、親友のメイベル様のターラント公爵家が一掃した。王家の後釜に収まろうとした貴族達も、そこで二の足を踏む。混乱した状況で膠着したこの国は、孤立する。
軍事国家である隣国のお祖父様が怒って兵を出したので、他国は手出ししなかった。お祖父様はママと相談して、国境をすべて封鎖した。食料の大半を輸入に頼る国内は逼迫する。そこへ援助物資を配給する軍が現れたら? 略奪に走る者を捕らえ、治安に貢献する軍人がいたら?
当然頼る。ママの選ぶ作戦ってエグいわ。相手が他の選択肢をなくすまで追い詰めるんだもの。でもお陰で無血で占拠できたし、併合もスムーズだった。混乱して戦争になるより良かったわ。
「この国の王様になろうと思わなかった?」
「いいえ、この国の形が残ることすら許せなかったのよ」
ママの瞳に暗い色が走る。明るく振る舞っていたけど、かなり腹立たしく思っていたみたい。前世、愛されていると感じた以上に愛されていた。恥ずかしいような、擽ったいような……何より嬉しい。
パパとにぃには複雑そうな表情で、ずっと押し黙っていた。二人とも私を可愛がってくれたし、断罪の夜に頑張った。届かなかったけど、味方がいることは嬉しかったの。そう話したら涙ぐまれてしまった。
「今度は何があっても助けてやれる」
「すべては筋肉が解決してくれるんだ」
二人とも、お祖父様に脳まで鍛えられたのね。ちょっと怖いわ。




