初陣 (2)
発煙筒を上げた裏門部隊は狙撃新兵が見張りに向けて発砲した。弾の外れた見張りが応戦したり村の中の仲間へ連絡しようとする前に近距離の歩兵が距離を詰め潰す。見張りにいた6人を死傷ないし戦闘不能にさせてから村の中へと裏門部隊はなだれ込んだ。
殺すことなく腕だけ切り落とし捕縛を他に任せおれは村の奥へと走る。あたりを見れども村はほとんどがらんどうで村人の避難が完璧であることにため息を吐いた。前門裏門の騒ぎに気づいた盗賊たちが姿を現しだす。
「何の騒ぎだっ!?」
「王国軍だっ!国軍が来たぞ!」
「なんでこんなに早く来んだよ!?とにかくお頭早く伝えて、ぎゃあああ!!」
伝えに行こうと背を向けた盗賊の一人を斬りつける。続き新兵たちもその場にいる盗賊たちを襲う。実戦はないとはいえ、戦いの最低限を訓練所で学んだ新兵たちはそれなりに動けていた。問題ないだろうと判断しはさらに奥に行こうかと思ったが足を止めた。
新兵のために用意された初陣を、実戦に慣れた自分が派手に動き回ってはいけないのではないだろうか。
見る限り、これでもかとお膳たてされた実戦演習だ。あまり好き勝手におれが動いては新兵の動きを見るのによくはないだろう。
無論前へ前へ行けない兵士は戦闘専門の軍人には向いていないが、ある程度の敵は残しておかなくては実戦にならない。
しかし手を抜いて相手をするなどできそうになかった。向かってくる敵がいれば応戦するのは当然であり、最低でも戦闘の意思を残さないようにすることは昔から身体に染みついていた。一人でも戦う意思のある者を残せば後々悔恨となる。
刃を合わせることに向かない刀についた血や油を振り払いながらまた次を斬りつけた。
部隊長が口頭で説明した村の中の地図を頭に起こす。盗賊は全部で40前後。前門と裏門の見張りを除いて残りは27人。村の中央に食糧庫や酒場、商店が集まっているため略奪を行うのであれば中央部に集まっているはずである。それを裏門部隊と前門部隊で挟み撃ちにする、そんな簡単な作戦だった。あまりにもお粗末で杜撰な計画に欠伸が出る。シンプルな方が新兵にとっては動きやすいためだろうが、こんなもので良いのかと思わざるを得ない。
いつまでも立ち止まっているわけにも行かず、仕方なく奥へと足を向けた。
中央部にあたる開けた広場が見え、踏み入れる前に止まり伺う。いくら門から離れていて伝達しようとしていた盗賊を倒してもさすがに気が付かないということはあり得ない。村の中にいる人数は最低で27人。前門で取り逃がしていたとして34人。裏門から中央部までにいた人数は6人。二人はおれが潰した。
戦況を見ても実戦不足とはいえ多勢に無勢、まず取り逃すことはないだろうが、逃げてくるなら仲間のいる中央部。相手取るのは30人前後だがここまで静かなのは怪しい。あくまでも新兵のための実戦だが何があるかわからない以上、どう見ても怪しい中に単身で乗り込もうとは思わない。物陰に身を隠し、他の新兵もしくは逃げ帰る盗賊を待った。
「っベルネット……何してんだ、さっさと中に、」
「様子がおかしい。盗賊たちは中にいるが、王国軍おれたちが来るのを待ち構えてる。考えなしに突っ込むわけにはいかない。」
「じゃあどうすんだよいつまでもここに居てもしょうがないだろ!?」
返り血を浴び少し興奮したような同期に舌打ちをする。予想通り部隊長の姿はない。どこかにいるのだろうが最初に指示を出したきり様子見に徹している。上官からの指示がない以上自分たちで考えて行動するしかない。下手に行かせれば死ぬ。だが人をまとめたり指示を出すのは、嫌いだ。向いていない。
「他の奴らが来るのを待て。ここまでで死んだ奴はいないだろ。少しでも人数は多い方が良い。」
「はあ?怖気づいてんのかよ。さっき俺らに掛かってきたやつはさっさとやられたぜ?どうせ奥に居んのも似たような連中だろ。なら準備させる時間やらねぇようにとっとと制圧しちまった方が良いだろ!」
「……調子に乗るのは結構だが、軽率に動くと死ぬぞ。」
迷う。正直面倒だと。本人が構わないならこのまま引き留めず行かせてしまいたい。興奮しまともな判断も下せないような奴が隊に居てもいなくても大差がない。なにより馬鹿をやって一人くらい死んだ方が新兵の勉強にはなるだろう。だが一人で行かせるのは軍人として仲間として間違っている。少なくとも、おれの考えが模範解答でない自覚はあった。今更カルムクールの言葉を思い出す。仲良くしろ云々はこういうところに繋がっているのかもしれない。何しろ、人望がない。
「訓練学校も出てない雑用はそこで隠れてろよっ!」
「……本当に、面倒臭い。」
静止を振り切り中へ入ろうとした名も知らない同期の足を刈りすっころばせ肩を踏みつけた。
「おい何しやがんだっどけっ!」
「お前が勝手に死ぬのは構わない。だが、」
血の付いたままの刀でヒタリと頬を叩くと静かになる。
「せめて役に立つように死ね。他の奴らが来たら特攻でも囮でもなんでもさせてやる。」
バタバタと後ろから足音が聞こえて刀を拭って鞘に納める。青ざめた新兵をそのままに後から来た新兵たちも足を止める。
「どうしたんだ?」
「この先に盗賊の頭領を含めた主戦力がいる。おれたちが村の中に突入したことは伝わっているらしい。だがこの広場の入り口から見る限り、姿がない。」
「隠れてて、おれたちが入ってきたら集中砲火ってわけか……。」
「可能性が高い。」
新兵の中にも落ち着いている者もいるらしく、話が早い。しかしうまい案は出てこない。兵糧攻めにすれば確実だが盗賊数十人相手にそんな馬鹿馬鹿しいことはやっていられない。重火器があればこの膠着状態もひっくり返すことができるが今は手元に十分な道具がない。何より盗賊たちは軍がどこから入ってくるのかわかっているが、広場の外にいるアルマたちには盗賊がどこに居るか正確な位置が把握できない。
思案しているとそろりと一人の新兵が手を上げた。
「あの、たぶん盗賊たちの位置はわかるよ?」
「……なんでわかる。」
「私、耳良いの。周辺の音なら十分把握できる。今この広場付近にいるのは私たち裏門部隊、盗賊、それから前門部隊。村人は避難してるから余計な音はない。仲間の音は足音と大体の方向でわかるよ。だからそれ以外の音だけ聞けば大体の位置はわかるよ。」
そう言ったヒルマをじっと見た。簡単に言うが、広場周辺というのは広い。そしてここにある音は三つと挙げたが実際には風の音や建物が軋む音などで溢れている。何より盗賊たちがバタバタ騒いでいるとは限らないのだ。少なくとも、今おれの耳に盗賊のものらしい音は聞き取れない。
「……できるのか。」
「できる、と思う。」
皆一様に微妙な顔をした。いくら耳に自信があるとはいえ、それは本人にしかわからない。本当に彼女の耳を頼りに動くことになれば彼女に命を任せるのと同義なのだ。
「前門部隊は、あとどれくらいで反対の広場の入り口に着く?」
数秒、この場の音が消えた身じろぐことなく、ヒルマの言葉を待つ。
「……あと、15秒くらい。一番前をヴェリテくんが歩いてる。数歩離れたところを他のみんなが歩いてる。」
反対側の入り口を凝視する。60で刻み、彼女の言った通り15秒前後で先頭にいたヴェリテ・クロワールの姿が確認できた。安堵の息と共にに裏門部隊がどよめく。
「耳は、確実みたいだな。」
「でしょ?」
「……中の奴らがどこに居るかわかるか?」
再び、沈黙。
「…………たぶん、全員大きな建物の中。ここから見て右手の建物。一階建て、壁の仕切りはなくて、一室だけっぽい。役所、かな。建物の中以外に足音とか、声は聞こえない。少なくとも、盗賊の頭は中にいる。呼んでる声が、少し聞こえたから。」
ヒルマの耳を信用するなら、まずは広場に入り前門部隊と合流したうえで包囲、という形にするのが良いだろう。だがヒルマが聞き逃した音があれば先ほどの想像通り狭い入り口から侵入するおれたちは格好の的となる。
「どうする、行くか?」
「……でも本当にあってんのか?聞き違いがあったら無駄死にだぞ……。」
ヒルマは微かに唇を噛んだ。自身の耳が正しいことを、証明するものはない。
「……わかった。おれが行く。」
「い、いいの?アルマくん……、」
「良い。お前の耳が正確なら問題ない。たとえ聞き逃しがあったとしても外にいるのは大した人数じゃない。たとえ襲われても、全員が広場に入るだけの時間は稼げる。人数が多ければ各々応戦すれば良い。」
それでいいかと申し訳程度に他の新兵に聞くが特に異論は出なかった。どうせ誰かがいかなければならないのだ。切り込む程度であればおれ一人で十分だった。
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広場では30余名の王国軍と20余名の盗賊がにらみ合っていた。
「おーおー、小せぇ餓鬼どもがぞろぞろと……。兵隊ごっこはおうちでやんな!」
何もしていないというのにわざわざ外に出てきた盗賊たちに、おれは困惑していた。
広場に警戒しながら踏み込んだが、そこには誰もいなかった。ヒルマから聞いた通りであった。おれに続き、両側の入り口から新兵たちが流れ込んでくる。建物の中にいる盗賊たちも気づいているだろうに、反応はない。包囲したうえで、扉と窓を破り突入すべきかだ。間違いなく中で待ち構えている奴らに袋叩きにされる可能性もあるが、それも仕方ないだろう。火をつけてあぶりだすのも良いが、おそらくそれは好ましくない。たかが演習、必要以上に村を壊してはいけないだろう。
しかしいざ包囲しようとしたとき、突然扉があいたのだ。
頭領らしき者に続き盗賊たちがぞろぞろと姿を現し、今に至る。
敵ながら、頭が痛い。いったい何を考えているのか。いや、こうもであっさり無警戒に姿を現すということは逆に本当に何も考えていないだろう。大方王国軍と聞いて警戒したが、広場に現れた兵は新兵であったことからとるに足らないと判断したのだろうか。だがやはりどこか、不自然さが付きまとう。
ざっと見たところ飛び道具を持っている者はいない。ほとんどが大ぶりな刃物。新兵が相手をするなら、これ以上ない良い敵だろう。しかし、と顔を注視する。見覚えのある顔は、ない。
新兵たちの高まる緊張感が空気を介して伝染する。
「さっさとやっちまうぞお前らぁっ!」
「うおおおおっ!!」
盗賊たちの声を合図に両者とびかかった。囲まれた広場は乱戦状態になる。もはや見分けるものと言えば身につけている黒い制服だけ。悲鳴と怒号が飛び交う。
人数は着々と減っていた。減っているのは黒い制服。そして地面に臥せているのは盗賊たち。王国軍側には負傷した場合、戦線を離脱するように上官から指示が出ていた。しかい逆に盗賊側には逃げ場がない。最初から背水の陣だったのだ。そう最初に気づけなかったのは、王国軍新兵たちを見くびったため。負傷したとしても、逃がさない。時間がたつにつれ、自然その場に残るのは腕の立つ者だけとなってくる。
袈裟懸けに切り付けた男が倒れこむ前に邪魔にならないところへ蹴り飛ばす。少し乱れた息のままちらりとあたりを見る。双方、かなり減っている。地面には血が飛び散り盗賊の身体が転がる。その中に黒い制服はない。新兵だが、思いのほかしっかりと教育は行き届いているらしい。戦場が限られていると、敵であろうと仲間であろうと戦闘不能な身体は邪魔だ。
少し離れたところで大きなメイスを振るうヴェリテが見えた。今のおれにとって彼はやたらと絡んでくる面倒な同期であったが、その戦いぶりを見ているとそのような様子はまるでない。今の状態でも、かつて殺しあったヴェリテ・クロワール中将の面影が見える。
まだまだ子供でとるに足らない、人格はそう思える。だが戦場においては十分一人前と呼べるだろう。堅実で慎重な戦い方。何より盗賊たちとの相性が良かった。ほとんどが大柄で獲物は刃物。そのサイズと形から振りが大きくならざるを得ない上に命中させるのは難しいメイスだが的は大きい上にせりあえば確実に刃物に勝てるそれはこの戦場において圧倒的な凶器だ。鈍器は確実に相手の身体を粉砕する。いつかに潰された右腕がうずいた。




