いぶりがっこ
この話は「異世界のむつ市(最北端)へようこそ!」 122話のサイドストーリーになります。
苺香といぶりがっこの付き合いは、かれこれかなり長い。
そうは言っても、苺香は秋田県にまったく縁がない。
住んだこともなければ、旅行で足を踏み入れたことすらないのだ。
近所のスーパーの漬物コーナーで、たまたま目についた小袋をなんとなくカゴに入れたのが始まりだった。
一口食べた瞬間、薫製のスモーキーな香りとパリパリとした独特の歯ごたえに衝撃を受け、一気にその魅力へ取り憑かれた。
スープカレーの時のように、ハマるととことん凝り固まるのが苺香の性格だ。
しかし、どういうわけか「いぶりがっこ」に対してだけは、その凝り性が発動しない。
パックを開ければ数日で食べきってしまうほど好きなのに、買い出しのたびに連続して購入することは決してないのだ。
一袋を食べ終えると、一旦その存在を頭からすっかり消し去る。
そして、忘れた頃にふとスーパーで目が合い、「……あ、久しぶりに買おうかな」と思い出してカゴに入れる。
熱狂しすぎず、かといって途絶えることもない。
つかず離れずの、ちょうどいい距離感。
「やっぱり美味しいなぁ……」
今夜も小皿に盛ったいぶりがっこをポリポリと噛みしめながら、苺香は一人満足げに頷く。
きっとこれからも、この絶妙で気ままな付き合いが続いていくのだろう。




