スープカレー
この話は「異世界のむつ市(最北端)へようこそ!」 87話、92話、98話のサイドストーリーになります。
苺香の頭から離れないものがあった。
北海道で食べた、あのスープカレーの味だ。
スパイシーでコクがあり、それでいて後味がすっきりとしたスープ。
ごろっと入った野菜と柔らかいチキン。あの味が忘れられず、苺香は都内にあるスープカレーの名店を片端から巡り始めた。
「……うーん、美味しい。美味しいんだけど……何かが違うのよね」
何軒か食べ歩いてみたものの、どれも美味しいのだが、あの時北の大地で食べた「運命の味」とは微妙にズレている気がする。
苺香の満足いく一皿には、どうしても出会えなかった。
「……ないなら、自分で作ればいいんじゃない?」
そう思い立ってからの苺香の行動は早かった。
仕事終わりの時間や休日を費やし、ネットや本でスープカレーのレシピを調べ上げる日々が始まった。
ガラや野菜を何時間も煮込んでベースのスープをとり、隠し味を模索する。それに伴い、キッチンの棚には見たこともないようなスパイスの小瓶がズラリと並び始めた。
ガラムマサラ、クミン、コリアンダー、ターメリック、カルダモン、クローブ……。
気がつけば、「カレー作りにこだわり始めた人が必ず通るあの状態」にどっぷりとハマっていた。
試行錯誤を重ねること数週間。
とうとう、苺香の理想とするスープカレーが完成した。
「これ……! まさにあの味……ううん、それ以上かも!」
一口すすると、芳醇なスパイスの香りと深みのある旨味が口いっぱいに広がる。
完璧な出来栄えに、苺香は一人キッチンでガッツポーズを決めた。
……しかし、実際のところ。
もし他の人がこのカレーを食べたとしても、都内の有名店のスープカレーとの決定的な違いには気づかないかもしれない。
何時間も試行錯誤し、スパイスの調合に悩み、自分の手で必死に作り上げたという情熱
――それこそが、苺香にとって最大のスパイスだったのだから。
苺香は満足気な顔で、自家製スープカレーを最後のひとくちまで美味しく平らげたのだった。




