第二十六話 証人の正体
王都警備隊本部。
夜明け前の薄明かりが石畳を青白く照らしていた。
殿下と私は、お父様とともに警備隊長室へ入った。
クラウスは机の前に立っていた。
殿下が口を開く。
「クラウス。話してもらおう」
「はい」
クラウスは静かに頭を下げた。
私はまっすぐ彼を見つめる。
「あなたは、お兄様を陥れた」
「その通りです」
「なぜですか」
しばらく沈黙が続いた。
やがてクラウスが答えた。
「……家族を人質に取られていました、逆らえば妻も娘も殺すと」
「だから、お兄様を犠牲にしたのですか」
「そうです」
クラウスは目を伏せた。
「言い訳をするつもりはありません」
部屋に重い沈黙が流れる。
殿下が口を開いた。
「お前を許すかどうかは後だ。今は真実だけ話せ、それと妻子はまだ人質なのか」
クラウスはゆっくりとうなずいた。
「私は実行役でした。命令は、ボデッチェ伯爵から受けました。ですが、伯爵も命令されていただけです。その上にいたのは……パレーラ大公です。妻と娘はまだ戻っておりません」
誰も言葉を発しなかった。
予想していた名だった。
けれど、王都警備隊長であるクラウス自身の口から語られた意味は大きい。
殿下が尋ねる。
「お前は証言できるのか」
「できます。私がしたことも、ボデッチェ伯爵から受けた命令も、すべて話します。バルガック殿もオデット嬢も関与しております」
「だが、それだけでは大公までは届かない」
「はい」
クラウスは静かに答えた。
「大公は決して直接命令を出しませんでした。代理人を使っていました」
「代理人?」
「修道士です」
「名は?」
クラウスは首を振る。
「本名は知りません。皆『灰色の司祭』と呼んでいました」
殿下の表情が険しくなる。
「大公とボデッチェ伯爵をつなぐ連絡役か」
「はい」
お父様が、書斎で見つけたお兄様の資料を机の上へ置いた。
「ルイは、ここまで調べていた」
クラウスは資料を一枚ずつ確認していく。
やがて、その手が止まった。
「……この日です」
「何があった」
「灰色の司祭が港へ向かった日です」
私はお兄様の手紙を取り出した。
そして、最後の紙に残されていた一文を見せる。
『港の鐘が三度鳴る日に会え』
クラウスはその文字を見つめた。
「ルイ殿は、証人を港へ逃がしたと言っていました」
「では、この言葉は、その人へつながる手掛かりなのですね」
「おそらく」
「あなたは、その人を知っているのですか」
クラウスは少し黙った。
「名前だけは」
私はクラウスを見つめた。
「誰なのですか」
「エミールとだけ。ルイ殿は、それ以上は私に話しませんでした。ただ、王都から離れた港にいると」
お父様が資料を調べる。
王都から港へ続く人と金の流れ。
その中に、北港へ向かう記録があった。
殿下が顔を上げる。
「北港か」
クラウスもうなずいた。
「ルイ殿が最後に追っていたのも、その港です」
お父様が静かに言った。
「ならば、行くしかない」
殿下はすぐに立ち上がった。
「北港へ向かう」
私も立ち上がる。
エミール。お兄様が命を懸けて守った、生きている証人。
その人が、本当に今も生きているのなら。
お兄様の無実を証明できる。
ようやく私たちは、お兄様が残した道を辿り始めていた。
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