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第二十五話 ルイの遺した木箱

フォンデラ侯爵家の書斎。


お父様は机の前に立ち、しばらく動かなかった。


「ルイは、もし自分に何かあったら、この書斎を調べてほしいと言っていた」


私たちは手分けして書斎を調べた。

やがて、お父様が書棚の奥から一つの木箱を見つけた。


長い間そこに置かれていたのだろう。

薄く埃をかぶった蓋には、見慣れた筆跡で一言だけ記されていた。


――父上へ。


誰も口を開かなかった。

お父様は震える指先で、その文字をなぞる。


「……ルイ」


その声に、胸の奥が締めつけられた。


殿下が静かに言う。

「開けましょう」


お父様は一度だけ目を閉じ、大きく息を吸った。

「……ああ」


錠はなかった。

蓋を持ち上げると、中には丁寧に布で包まれた書類がいくつも並んでいた。



一番上には封筒。

そこにも、お兄様の字。



『父上へ』


お父様は封を切り、ゆっくり読み始めた。


『父上。

この手紙を父上が読んでいるということは、私はもうこの世にはいないのでしょう。


親より先に逝く不孝を、お許しください。

父上なら、きっと私を叱りますね。

「勝手に全部背負うな」


そう言う姿が目に浮かびます。

ですが、あの日、私には他の道がありませんでした。

私一人が罪を負えば、王家も、フォンデラ侯爵家も守れる。

そう信じて選びました。

どうか、ご自分を責めないでください。

責めるなら、不出来な息子だった私だけで十分です。


父上。

しかしながら、私が死んでも、この事件は終わりません。

黒幕は生きています。

だから、これを残します。

中には、私が集めた資料があります。

ですが、帳簿だけでは足りません。


必ず証人を探してください。

証人は、生きています。

その人だけが、あの日の真実を知っています。

証人の名前は、この手紙には書きません。

もしこれが敵に渡れば、その人も殺されます。


父上なら、きっと辿り着けます。

私が残した記録を追ってください。 ルイ 』



お父様はそこで手紙を置いた。

拳を握りしめたまま、しばらく動かない。


「……証人」

殿下が呟いた。

「クラウスの話と同じだ」


お父様は木箱の中を調べ始めた。

封筒の下には、何枚もの羊皮紙が重ねられている。

そこには数字と日付、そして貴族たちの署名が並んでいた。

お父様の表情が変わる。


「これは……」


「何かわかったのですか、お父様」


「ルイは……資金の流れだけではなく、人の動きまで記録している」


一枚一枚をめくるたび、王都から港へ続く経路が浮かび上がってくる。


お兄様が最後まで追っていたもの。

王都から港へ流れる、不審な金と人の動き。

そして最後の紙に、小さく一文だけ書かれていた。


『港の鐘が三度鳴る日に会え』


殿下が眉をひそめる。

「暗号か」


お父様はその文字をじっと見つめた。

私も、お兄様の筆跡を見つめる。


港。

そこに、お兄様が命を懸けて守った人へつながる手掛かりがある。

生きている証人。

お兄様が、最後まで守ろうとした人。


私たちはようやく、その人へ続く道の入り口に立っていた。

お読みいただきありがとうございます。

更新頻度が上がりました。

6時ごろ、16時ごろです。よろしくお願いします。

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