第二十四話 残された手がかり
お父様を支え、私たちは地下牢を出ようとした。
その時、殿下がクラウスを呼び止めた。
「待て」
クラウスが足を止める。
「先ほどの話を聞かせてもらう。なぜルイが証人を逃がしたことを知っている」
クラウスはしばらく黙っていた。
「ルイ殿から直接聞きました」
「処刑の前日か」
「はい」
ガレスがクラウスを見据える。
「では、ルイ様が何を調べていたのかも知っていたのですか」
「一部だけです」
クラウスは答えた。
「ルイ殿は、王都から港へ流れる不審な資金と人の動きを追っていました」
「港?」
私は聞き返した。
「はい」
「その先に、証人が?」
「おそらく」
殿下の表情が険しくなる。
「おそらく、とはどういう意味だ」
「ルイ殿は最後まで、その者の名前も居場所も私には話しませんでした」
クラウスは一度、お父様へ目を向けた。
「侯爵にも、そうだったのでしょう」
お父様が頷く。
「ルイは、知らないことが証人を守ることになると言っていた」
私はお兄様らしいと思った。
自分だけが知っていればいい。
危険はすべて自分が引き受ければいい。
いつも、そういう方だった。
「では、どうやって探すのですか」
私の問いに、クラウスは答えなかった。
代わりにお父様が顔を上げた。
「手がかりなら、あるかもしれない」
「お父様?」
「ルイが処刑される前夜、私に言った言葉がある」
お父様は記憶を辿るように目を閉じた。
「もし自分に何かあったら、書斎を調べてほしい、と」
「書斎?」
「ああ」
「なぜ今まで……」
「屋敷は監視されていた。私が動けば、ルイが残したものまで見つかる可能性があった」
お父様は静かに続けた。
「だから何も知らないふりをしていた」
殿下が頷く。
「まず侯爵邸へ戻ろう」
その時、クラウスが口を開いた。
「殿下」
「何だ」
「私は同行できません」
「なぜだ」
クラウスは自分の制服を見下ろした。
「王都警備隊の中にも、大公側の人間がいます」
「……なるほど」
「私が殿下と共にここを出れば、すぐに知られるでしょう」
私はクラウスを見た。
「では、あなたはここに残るのですか」
「はい」
「危険ではありませんか」
クラウスは少しだけ笑った。
「今さらでしょう」
殿下はしばらくクラウスを見つめていた。
「わかった。ただし、勝手な行動はするな」
「承知しております」
私たちは地下牢を後にした。
石段を上がる途中、私はもう一度、手の中の紙を見た。
『地下牢』
その下に描かれた、小さな白百合。
お母様の花。
お兄様が、私ならわかると信じて残した印。
そして、お兄様が残した手がかりは、フォンデラ侯爵家の書斎にある。
ようやく。
お兄様が最後まで守ろうとしたものへ、近づいている気がした。
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