第十五話 兄からの手紙
『殿下。
この手紙を読んでいるということは、私はもう、この世にはいません』
その一文だけで、また心が騒ぎ出し沈んでいく。
お兄様の字だ。
一文字一文字が、今も生きていらっしゃるようなのに。
殿下は穏やかに仰った。
「最後まで読んでくれ」
私は涙を拭い、続きを追った。
『まず、お詫び申し上げます。
私は殿下の命令に背きました。
どうか、お許しください』
「ルイは、本当に謝っていたのか」
「えっ?」
「あの日も同じだった。謝っている顔で、死を絶対に譲らなかったのだ」
また涙がこぼれた。
お兄様らしい。
本当にお兄様らしいわ。
私は再び手紙へ目を落とした。
そこから先は、少し文字が乱れていた。
『私は、自分が犯していない罪を認めます。
ですが、それは私が罪人だからではありません。
私一人が罪人になれば、終わると思ったからです。
ですが、私は一つだけ読み違えました。
敵は、私一人を消せば終わる者たちではありませんでした。
私が死んでも、必ず次を狙います。
殿下、王家、フォンデラ侯爵家、そして――』
その先だけが破れていた。
便箋の下半分がなくなっている。
「……ないわ、途中から」
殿下は静かに便箋を受け取った。
破れた跡を見つめる。
「切り取られたのではない」
「え……?」
「最初から、この状態だったかもしれぬ」
私は顔を上げる。
「どういうことですか」
「ルイ自身が破って2つに分けて使った。伝える先が二箇所」
お兄様がご自分で手紙を破る理由などあるのだろうか。
その時、殿下は便箋の裏を光へかざした。
「見えるか」
紙の端に、何かが押し付けられたような跡が残っている。
「模様?図案でしょうか?草木かお花みたいに」
「花?この模様、どこかで……」
「殿下」
近衛隊長が霊廟へ入ってきた。
「失礼いたします」
「何だ」
「パレーラ大公の行方ですが、新しい情報が入りました」
殿下の表情が引き締まる。
「申せ」
「国境の北ではありません」
「西です」
「西?」
「昨夜、港町へ向かう馬車を見た者がおります」
殿下は手紙を握り締めた。
「北の館は囮か」
敵は、自分たちが追ってくることまで読んでいた。
霊廟の外では、夕暮れの鐘が静かに鳴り始めていた。
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