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第十四話 白百合の下

「霊廟……」

殿下の呟きが静かに響く。


私はお母様の石棺に供えられた白百合を思い浮かべた。


「でも」

私は首を振る。初めて転移した時も、石棺が並んでいただけ。

「王家の霊廟に隠す場所が?」

「見えていなかっただけかもしれない」


殿下はレオンへ向き直る。

「お父上は他に何か言い残していなかったか」

レオンは懸命に記憶をたどる。

「えっと……白百合は、見るものじゃない」

「見るものじゃない?」

「はい……探すものだ、って」


その一言に、殿下は思案顔になった。

「見るものじゃない……花ではない、白百合の、百合…?」


夕刻。

私たちは再び王家の霊廟を訪れた。

昼間とは違い、辺りは静まり返っている。

お母様とお兄様の石棺の前には、新しい白百合が供えられていた。

私は花へ目を向ける。


良い香りが霊廟の冷たさを和らげてくれる

けれど、それだけだった。

殿下は祭壇の周囲を見渡す。

「花ではない」

近衛騎士たちも手分けして調べ始める。

壁。

床。

柱。

燭台の青い炎。

何も見つからない。



奥まった祭壇の裏側にそれはあった。

普段は誰も入らない狭い場所。

石壁に、小さな百合の彫刻が刻まれている。


指先でなぞってみた。

百合の中央だけが、不自然にすり減っている。

軽く押す。

しかし動かない。


「待て、少しだけ魔力を流せるか」

私は少し百合の彫刻に魔力を乗せた。


コトリ、と小さな音がした。

石がわずかに回転する。

その奥から、小さな空間が現れた。


「隠し箱……」

中には布で包まれた細長い筒が一本だけ残されていた。

殿下が慎重に取り出す。

布は古くなっていたが、中身は無事だった。

革紐を解く。

現れたのは、一通の書簡だった。

封は切られていない。

表には、見慣れた文字。


『ジュール殿下へ』

ああ、お兄様の字。


「殿下……」


私はそっと声をかける。

殿下はしばらく書簡を見つめたあと、静かに封を切った。

中には便箋が二枚。

最初の一行を読んだ瞬間、殿下の表情が変わった。

殿下は最後まで読み終えると、ゆっくり目を閉じた。

長い沈黙が流れる。


やがて、私へ書簡を差し出した。

「ソフィー」

「君も読むべきだ」

震える手で受け取る。

やっぱりお兄様の筆跡、間違いない。

そこに最初に書かれていた言葉は――


『殿下。この手紙を読んでいるということは、私はもう、この世にはいません。』

私は涙で文字が霞むのを必死にこらえながら、続きを読み始めた。


お読みいただきありがとうございます。

更新頻度が上がりました。

6時ごろ、16時ごろです。よろしくお願いします。

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