その一 ~出会い~
この章の舞台は静岡県の富士宮市です。
何となくではありますが富士山の麓に
してみました。
「おいっ、起きろよっ、
この糞豚野郎っ、
もう朝だって言ってんだろっ!!
早くしねぇとまた遅刻するぞっ、
さっさと起きろよ、一郎っ」
何やらやたらと威勢のいい
女子の声が響き渡った。
しかし声をかけられた少年は
にも関わらずまるで起きる気配は
なかった。
「がっ、がぁぁぁぁぁっ、
ごがあぁぁぁぁぁ、
ぐおおおぉぉぉぉぉぉぉっ、
う~ん、すぴ~っ」
凄まじい鼾をかき続けている
この少年、
いや、少年と云うには
余りにもむさ苦しく、
どう見てもゴツい親父にしか
見えなかった。
「チッ、この糞豚野郎ぉっ、
毎朝、毎朝、手間かけさせやがって
仕方がねぇ、
いつも通りこれでも
喰らいやがれぇっ!!」
彼女はそう言うと
爆睡している少年の腹めがけて
渾身のエルボードロップを繰り出した。
「ぐっ、ぐはっ、
げふぅぅぅぅ~っ、
う~ん、痛ぇなぁ、明希ぃ~っ、
ったく、何すんだよ。
毎朝、毎朝よ~っ」
ようやく目を覚ましたこの一郎と
呼ばれた少年は彼女のかなり強力な
エルボーを喰らったにも関わらず
どうということもないといった顔つきで
眠そうに目をこすっていた。
驚くべきことに
技を繰り出した彼女の方が
痛そうな顔をしていた。
「は、何すんだじゃねぇ、
全くお前はよ~っ、
それになんでお前の腹、
こんなに固えんだよっ、
あたしの肘が壊れるってのっ、
って・・・・・・
やべぇ、
もうこんな時間かよっ、
おいっ、糞豚っ、
あたしゃもう朝練行くからなっ、
二度寝すんじゃぁねぇぞっ!!」
そう言うと彼女は焦りながら
彼の部屋を急いで出て行こうとした。
すると・・・・・・
「悪いな、明希。
剣道部たいへんなのによ、
けどあんま無茶すんなよな」
一郎は急に真顔で彼女にそう言った。
そんな彼を振り返ると彼女は
顔を真っ赤にして
パニクりながら答えた。
「な、何言ってのよ、きゅ、急に。
そ、そ、そ、そんなことより
あんたはもっと無茶しなさいよ、
遅刻するからねっ、
ヤバイっ、早く行かなきゃ!!」
彼女はあたふたしながら
部屋の襖を閉めると何やら
あわてふためきながら一気に
階段を駆け降りて行った。
そんな彼女に一階で声をかけたのは
彼の母親だった。
「あら、明希ちゃん、
いつも悪いねぇ、
あのバカさぁ、寝起き悪いんだよねぇ。
そんなことよりさぁ、
どうかな~っ、
うちの新メニュー作ったんだけど
食べてく?」
「えっ、新メニュー!!
食べたいけど、
今、急いでますんで、
ごめんなさい、則子おばさんっ、
学校の帰りに絶対寄らせて
貰いますからっ、
それじゃ行って来ますっ!!」
そう言うと彼女は
名残惜しそうに凄まじい早さで
駆け出して行った。
「あらあら、
残念だねぇ、折角の
自信作だったんだけど・・・・・・
それにしても明希ちゃん、
本当にいい娘ねぇ、
早くあのバカと
一緒になってうちのお店
継いでくれないかしらねぇ、
そしたら
【富士宮 焼き蕎麦 権田】も
一安心なんだけどねぇ~っ、
けどねぇ、
うちの豚野郎に明希ちゃんじゃねぇ~っ、
は~っ、
それこそ『豚に真珠』だがね・・・・・・」
則子がため息をついていると
いつの間にかテーブルについていた
一郎が明希の為に作られた新メニューを
がっついて食べていた。
「ガツガツ、もしゃもしゃ、
ゲーっぷと・・・・・・
ん~っ、お袋さぁ、
この新メニュー俺はいいんだけどさ、
やっぱ焼き蕎麦にアボガドって
無くね。
なんかこう違和感っていうのか、
なんつ~かさ、
アレ、
そういや舞衣がいねぇけど
あいつもこの新メニューの
実験台にさせられたんじゃねーの?」
余りにも呑気にしかもさも当然と
言わんばかりのこの図々しいバカ息子に
則子は両方の拳を振り上げつつ
怒鳴った。
「何勝手に食ってやがんだぁっ、
この超バカちんがぁっ!!
舞衣はとっくに学校に行ったよ、
しかもそれも美味しく食べてくれたし。
舞衣も、明希ちゃんもメチャいい娘達
なのにぃぃぃぃ~っ、
なんでうちの跡取りだけがぁぁぁぁ~っ、
こんな奴なんだぁぁぁ~っ、
いいからお前は急いで学校に
行きやがれっ、この糞豚野郎ぉぉぉっ!!」
「ガンッ!!」
と彼女がテーブルに思いっきり
拳骨を喰らわすと同時に彼の
座っていた方を睨みつけるも
既に彼、一郎の姿はなかった。
「チッ、あの糞豚がっ、
逃げやがったか・・・・・・
それにしてもなんであんな図体で
こんなに動きが早いんだかねぇ、
それで帰宅部だってんだから、
しかもあんなのが学年一位だってん
だからねぇ・・・・・・
『名門 富士宮第一高校』も
堕ちたもんさ・・・・・・」
そんな母のため息混じりの呟きなど
素知らぬ顔のこの糞豚、もとい
この章の主人公であるこの少年、
少年と云うには胆が太いというか
大雑把としか言い様のないこの男は
呑気に学校、彼の通っている。
富士宮第一高校へと向かっていた。
・・・・・・・・・・・・・・
ここで彼の簡単なスペックを記さねば
ならないだろう。
何故ならそうでなければ実の母親にさえ
糞豚呼ばわりされているのが伝わらない
からである。
【権田 一郎】 性別 男子 年齢17歳、
県立富士宮第一高校2年、帰宅部、
趣味、特技 無し、
好きな食べ物 焼き蕎麦(家業の余り物)
幼馴染 一名(明希、彼女ではない?)
身長185㎝、体重125㎏
体型としては完全に力士、
精悍な感じの力士というところだろうか。
そして最後に信じられないことだが
彼は入学してからずっと
勉強もスポーツも学年一位であった。
・・・・・・・・・・・・・・
「ふぁ~っ、それにしてもお袋も
あのヒステリーが無けりゃあなぁ。
嫁の貰い手もあるってもんだろうが、
まぁ、商売もやり手だし、あれで
俺に似ずいい女だしなぁ・・・・・・
そう思うよなぁ、親父・・・・・・」
一郎はのんびり歩きながらそう言ったが
何故かその表情は寂しげなものだった。
そう、彼の父親である【大二郎】は彼が六歳の時に亡くなっていた。
その死因は事故死によるものだった。
青信号の横断歩道を渡っていた当時の
一郎と明希の所に居眠り運転のトラックが
突っ込んだのだった。
それを咄嗟に飛び込んで二人を庇った
のが大二郎だった。
一郎が我に返った時、既に大二郎は
虫の息だった。彼の横には泣きじゃくる
明希がいたが一郎は泣いてはいなかった。
否、必死に涙を堪えていた。
一郎は明希を抱き締めながら今にも
事切れようとしている父親の顔を
見つめていた。
そんな息子を誇りに思ったのか
大二郎は最期にこう言った。
「・・・・・・い、一郎、明希ちゃんを
守って・・・・・・やれ・・・・・・。」
大二郎の最期の言葉に一郎が
大きく頷くと、
大二郎は安堵の表情を浮かべると
その目を閉じた・・・・・・
「・・・・・・(また、あの時のこと、
思い出しちまったか・・・・・・
まぁ、お袋が他に男作る気にならないのも
仕方がねぇよなぁ、
親父、あんたがすげぇ男過ぎたんだよ。
は~っ、それに俺もあんたとの約束
なんざ守れちゃいねぇしな。
明希の奴、あれから責任感じてるのか、
未だに俺の世話焼きっぱなしだしな。
ハハ、俺が守られてる方じゃねえか。
ったく、情けねぇなぁ・・・・・・
一体、どうすりゃあんたを乗り越え
られんだ、親父・・・・・・)」
彼がそんなことを考えつつ、
本宮浅間神社の大鳥居の前に差し掛かった時
だった。
何やら嫌がっているような妙な
アニメ声が聞こえて来た。
「や、止めて下さい、わ、私、
急いでるんですっ!!」
一郎はその声が聞こえて来た方を
思わず見つめていた。
するとそこには本当にまるでアニメから
出て来たような超がつくほど可愛い
女子が富士宮第一高校(以下、一校に略)
の地味な制服を来ていた。
そして彼女の周囲にはさも定番メニューの
ような安っぽい輩が四人程絡んでいた。
「あれっ、君、どこの娘?
可愛いよね、あれ、その制服って一校
だよね、おかしいなぁ、
俺この辺の高校の娘で可愛い娘チェック
してるんだけどね~っ。」
「そんなことよりさ~っ、
君、どー見てもこの辺の娘じゃないよね、
東京から来たのかなぁ?
もうさ、学校行くの止めて俺らと
遊ばない?」
四人組の中でも比較的遊び慣れてそうな
二人がアニメ声の女子に声をかけていた。
残りの連中はハイエナのような下卑た笑いを
浮かべてヘラヘラしていた。
普通ならこの場面、完全なフラグである。
無論、一郎の身体能力であれば
彼女に絡んでいる四人の輩は
ハッキリ言ってザコキャラである。
あっさり追い払って、しかも
同じ高校の転校生である彼女が
彼に好意を寄せるというのが普通の
成り行きなのだが・・・・・・
なんと、彼はそうはしなかった。
まるで自分には何の関りもないとでも
言わんばかりに彼女達の真横を
すり抜けて行った。
しかもこの四人の輩は一郎を見た時、
かなり焦っていた。
実は【権田 一郎】の名はこの辺りでは
知らぬ者は誰もいなかった。
この辺りの不良達の間で勝手に
こんな通り名までつけられていた。
「ご、権田だ、ありゃ・・・・・・」
「い、一校の権田かよ、おい、
マ、マジかよ・・・・・」
「あ、あの・・・・・・【不死身の権田】かよ
・・・・・・」
「け、けど・・・・・・あいつそのまま
スルーしてったけど・・・・・・」
明らかにただでは済まないと思っていた
この四人もどうしたらいいのか分からず
あたふたしていた。
いや、そうではないだろう、
この局面において一番立場がないのは
間違いなく彼女だろう。
完全な置いてきぼりである。
既に彼女に絡んで来ていた四人も
一郎の行動が不気味過ぎて逃げる準備を
していた。
すっかり一郎に確実に助けられて
ヒロインのポジションにつくつもりだった
彼女は完全に宛が外れて呆気にとられて
いたが、急に我に返ると逆ギレしたように
叫んだ。
「ちょっ、ちょっと何で助けて
くれないんですかっ!!
折角頑張ってこの人達誘導して
フラグ立てたのにぃっ。
こんな可愛い娘がっ、
朝から絡まれてるんですよっ、
こんなに、超可愛い【乃愛ちゃん】が
ですよっ!!」
彼女の魂の叫びに対して一郎は
さも詰まらなそうに答えた。
「は?、何言ってんだか、
あんたさ、そいつらなんかあんたの力量から
すりゃ敵じゃないじゃん。
俺から言わせりゃ助けるのは
そこのバカ共四人だろ・・・・・・
おいっ、お前らさ、
早く消えな、その女はお前らごときが
どうにか出来るようなもんじゃねぇぞっ」
「はっ、はい~っ、ど、ど~もっス!!」
四人は声を揃えて逃げ出して行った。
それを見た一郎は軽くため息をつくと
やれやれといった顔で踵を返すとその場を
立ち去ろうとした。
そんな彼の背中に突然、アニメ声が
響き渡った。
「ま、ま、待つニャ~っ!!
な、な、何なのニャ~っ、
あなたはぁぁぁぁ~っ、
あんまりニャ~っ、
あんまり過ぎるニャ~っ、
折角、人が苦労してフラグ立てたのに~っ、
か、簡単にへし折るニャンて~っ!!」
彼女は涙目になりながら何故か
猫語で彼に向かって訴えていた。
一郎はそれを見て軽くため息を
つくとまたしてもヤレヤレといった
顔で呆れていた。
これがこの章の主人公である
【権田 一郎】と【天使 乃愛】の
ファーストコンタクトだった・・・・・・
ようやくですが二部分目の更新です。
前に書いていたサイトと違い 1ページの
更新する文字の量が多くてなかなか
更新出来なくて情けないです。




