Welcome to the new world!!
入場門を越えた先で、いくつかの無人の認証チェックが行われた。
壁から放射された百以上の赤いレーザー光。
せわしなく動き回り、入場者の網膜を秒速一人以上の速度でスキャニングしていく。
認証というよりむしろ防犯システムという方が近い。
その先は長い直線通路が続いた。無酸素エリア。光の膜をいくつか越え、しばらく行くと、全身の細胞が騒ぎはじめる。周囲の人々の様子から、どうやら僕だけではないらしい。彼らの話では、ナノマシンが体内で酸素を作り出す感覚なのだとか。
本来の肉体では通行不可能な数百メートル。この通路に目まい一つなく立っている時点で、やはり普通の人間じゃない。
《Welcome to the new world!!》
視界に浮かび上がるゴシック体の文字。
フェードアウトする頃、道はT字路に差しかかった。
正面にはカプセル型シューターがずらり。その中へと迷うことなく身体を収める人々。
ひゅーん、と間抜けな音を立ててカプセルが次々と床の中へとすっ飛んでいく。
「先生、こっち」
イリノイが手招く。
そこには周囲よりも少し大きめのカプセルがあった。
「こっちのは低速だから楽だよ。部屋までちょっと遠いからさ」
カプセルに乗り込むと、周囲は暗闇に包まれた。
セッティングはイリノイが行い、十秒後にはひゅーん。思ったより強い衝撃。上がっているのか落ちているのか全く分からない。缶ジュースの中身のような気分だった。
「新しい自分には慣れましたか、神宮寺空男さん」
内部に響くその声は記憶に新しかった。
「さっきはお世話になったね。ニワトリ」
「あと四六秒でプライベートルーム《エッグ》に到着予定です。ご質問があれば、今のうちに伺いますが、その前にあなた宛てに一件のメッセージが届いています。お読みしても?」
「誰から?」
「ユーザー名は《十四番》です」
ヒイチか。
「聞こうか」
「《サラは赤いロボットに乗って永遠の旅に出ました。俺もそっちに行こうと思っています。先生はネズミを追いかけるのをやめた臆病者だけれど、俺はそうはなりたくはないですから》」
やっぱり、彼の目的は十三番の《サラ》か。
僕と調律の話も知っているようだ。
「リンクが貼ってあるので、エッグのメッセージポストに転送しておきます。残った時間で、何かご質問は?」
「連れがいるから大丈夫。一人にしてくれ」
「分かりました。それでは行ってらっしゃいませ」
▽
辿り着いたのは、工業施設のような薄暗い場所だった。
扉の先には鉄製の簡易通路。手すりから下を覗いたが真っ暗で何も見えない。
通路は中央にある巨大な球体の内部へと伸びていた。手前に金属カゴが置いてある。
「身に付けているものをカゴに入れて、足のマークの上に立って下さい」
スピーカーから漏れてくる女性の声。音割れしている。どうやら、この辺りは古い設備が使われているようだ。オーバーシンギュラリティが聞いて呆れる。
ここまで来たら抵抗する気はない。
さっさと言う通りにして、足の裏の印の上に立った。
「真上からスーツが落下してきます。両腕を左右に広げて下さい。準備はよろしいでしょうか?」
「はい」
小さな滝に打たれたような衝撃を受ける。
全身にぴったりと吸い付く黒いスーツ。引っ張るとゴムのように伸縮性があった。
「お疲れ様でした。それでは中へお入りください」
球体の内部へ。
中央には人一人分が入れるサイズの卵型の構造物が口を開けていた。中へ入る。さっきと同じ足の裏のマーク。指示を受ける前に足の裏と合わせる。
「エッグを閉じます。指などを挟まないようにご注意ください」
再び完全な暗闇。
さて、そろそろか。
自分の心臓の音が耳元で聞こえていた。
「ノーウォール内でのあなたの身体を決めましょう。物理的肉体のコピーでも構いませんし、それ以外でも構いません」
「このままでいいよ」
「かしこまりました。それでは、まずオープンエリアに移行します。現在、イリノイ様より一本のマーカーが立っています。移動先はそちらでよろしいでしょうか?」
「うん」
「十六秒後に移動します。目を閉じて楽にしてください。気分が悪くなった場合はすぐに手を挙げて下さいね」




