1.0→2.0
トムトムトム。
ゾラの言葉を信じるなら、それはわずか十六秒間のショートムービーだ。
ねずみだっていきものさ
ねこだっていきものさ
ベランダにある無口なパラボラアンテナ。
赤黄緑白黒紫の色とりどりのボタン。
国内外問わず映し出される無数の番組。
ザッピング、ザッピング。
僕を挟む二人の男女の温もり
ちょうど足して二で割ったのが僕。
家族全員がちゃんとただのホモサピエンスだったあの頃。
ザッピング、ザッピング。
トムとジェリー
なかよくけんかしな
「空男、お願い。お母さんの言うことを聞いて」
「何が嫌なのか、父さんには全く理解できない。隣にいたあの子とまた一緒に遊べるんだぞ?」
いやだ。触らないで。
「親に向かって何て口をっ!」
「お父さん、落ち着いてください!」
僕の首根っこを掴んだ保護用の黒いゴーグル。
同じゴーグルを付けた女が阻止する。
二人の腕には注射針の跡。ナノストアができる前のアップデートの証。
「ついこの間まで、自分からしたがってたくせに。なぜ今更」
「東京にいる友達に会いたくないの?」
会いたくない。
ずっとここにいる。
「空男が何と言おうがもうここにはいられないんだよ。来週には引き払うことになっているし、次の借り手も」
ここで僕は黙る。
調律のことが頭をよぎる。
そして静かに決断する。
「もう決まったことだ。色々と不安なのは分かるが」
分かったよ。明日病院に連れて行って。
「空男……分かってくれたか」
頭をがしがしと撫でる大きな手。
でも僕は彼らとは違う事を考えていた。
財布と服とバスタオル。
時計とへそくりと鉛筆ノート。
ショルダーバッグに詰め込んで。
二人が寝静まった午前二時に。
そうだ。念のため、あの赤いロボットも……




