第1部ー6
エドマンド義兄さまは、1月程経ってから、ようやく自分の部屋から出られるようになり、仕事にも行かれるようにはなった。
表向きは、以前と変わらない生活を送っておられるように見える。
でも、実際の生活は荒んでしまった。
「今日も外泊される予定なの。エドマンド義兄さまは」
私の妹のジェーンが、私に尋ねてきた。
私は、ジェーンを心配させないように笑いながら言った。
「エドマンド義兄さまくらいの歳ならよくある話よ。心配することは無いわ」
大嘘だ、ドミニク父さまの話だと、エドマンド義兄さまは、文字通り、夜毎、添い寝の相手を変えるような生活をしているらしい。
エドマンド義兄さまは、ドミニク父さま付きの騎士等も頼って、失踪した愛人を探しているのだが、何しろ事が事である。
ウォルター皇帝陛下の目もあるので、隠密裏に行わざるを得ず、中々情報が手に入らない。
それで、エドマンド義兄さまは、ますます気ばかり焦り、それもあって(本当は自分への言い訳なのだろうけど)、片端からいい女性らしいと聞いては、その女性に誘いの文を送り、色よい返事を貰ったら、その女性の下に行くのだが、すぐに失望して、別の女性に乗り換えるような生活を送っている。
それでも、誘いに乗る女性が絶えないのは、何といっても、皇帝の甥という血筋の良さと、併せて表向きの外面の良さだろう。
女性の方も、エドマンド義兄さまには、イザベラ皇女殿下という半公然たる婚約者がいるのは承知している。
だから、女性も、愛人として、エドマンド義兄様からの誘いを最初から受け入れているのだ。
そして、すぐには、エドマンド義兄さまは、別の女性に乗り換えたようには見せない。
それなりに手紙を送り、いつの間にか疎遠になったかのように装うのだ。
全く、前世でいうところのジゴロ並みのテクニックでは、と私には思える。
例の妊娠して失踪した愛人と関係を持つまでは、謹厳実直を絵に描いたようだと言われていたエドマンド義兄さまが、あそこまで豹変するとは。
余程、あの件がショックだったのだろう、と私は推測し、自分のしでかしたこともあり、エドマンド義兄さまに、本当に掛ける言葉が私には無く、当たり障りの無さそうな時候等の話しか、エドマンド義兄さまと私はできなくなっていた。
だが、それでは済まない人がいた。
イザベラ皇女殿下である。
イザベラ皇女殿下は、幼い頃からエドマンド義兄さまと将来は結婚する、と周囲から言い聞かされて育っていた。
私とエドマンド義兄さまが、ドミニク父さまとヘレネ母さまの結婚に伴い、同居するようになったとき、私も同居したいと駄々を周囲にこねたらしい。
だが、周囲から説得され、エドマンド義兄さまからも単なる義妹だからと言われたことから、その時は矛を収めていた。
そして、お互いに正式に結婚できる18歳を指折り数えるようになったとき、急にエドマンド義兄さまの謹厳実直な態度が激変し、しょっちゅう女遊びをして夜、そこに寝泊まりしているようだ、という(いらないことを吹き込んだものだ)宮中女官の噂を耳にしてしまい、内心で焦ってしまった。
自分は捨てられるのではないか、だって、エドマンドは婚約者なのに、私を抱いてくれない。
こういう点だけはませていたというか、早まった考えをしたイザベラ皇女殿下は、秘かに行動に移してしまった。
イザベラ皇女殿下とエドマンド義兄さまは、そもそも従兄妹同士だし、事実上の婚約者同士と言うこともあり、手紙のやり取りを自由に行うことが可能だった。
イザベラ皇女殿下は、それを利用して、自分の寝床にエドマンドを誘った。
そして、荒んでいたエドマンド義兄さまも、別にいいか、と行動に移してしまった。