第1部ー5
その翌日も(当然)帰ってこない両親にしびれを切らしたエドマンド義兄さまは、翌々日に職場に休暇願をだし、最初からいえば5日後に、両親に会いに別荘に行った。
そこで、両親に何を話したのか、私には分からないが、最初からいえば7日後に、エドマンド義兄さまは、憔悴しきった顔で帰ってきた。
私は驚いて、エドマンド義兄さまに尋ねた。
「一体、どうしたの」
「ローラがいない」
心の底から何とか絞り出すように、エドマンド義兄さまは一言だけ言って、自分の部屋に引きこもってしまった。
「エドマンド義兄さま、私に会って。お話をして」
「今、誰とも会いたくないし、話したくないんだ」
私が何度、ドア越しにエドマンド義兄さまに話しかけようとしても無駄で、エドマンド義兄さまからは、冷たい大声が返って来る日々が続いた。
エドマンド義兄さまは、1月程、引き籠ってしまった。
後から、ヘレナ母さまから聞いた話だと、職場の方も、本来なら無断欠勤と言うことで、お咎めがあるのだが、ドミニク父さまが、実兄でもあるウォルター皇帝陛下に内々に話をしたおかげで、急病の為に休んだことになっていた(らしい)。
「一体、何があったの」
結局、私は、ヘレナ母さまから、今回のてん末を(ヘレナ母さまの推測がかなり混じっていたが)聞く羽目になった。
「ええ。エドマンド義兄さまに、通いの愛人が。しかも、妊娠していた状態で失踪」
私は思わず大声を上げかけてしまい、慌てて自分で自分の口を塞ぐ羽目になった。
「そうなの」
ヘレナ母さまも、心底、困った口調で相槌を打った。
「教会との約束で、その人は妊娠したために、住んでいた邸宅から引っ越さないといけなくなっていたらしいの。妊娠をエドマンドは告げられて、私とドミニクに相談しようとしていたらしいのだけど、ちょうど別荘に私達が行っていたでしょう。そんなことになっているなんて知らなかったから」
ヘレナ母さまの独白は更に続いた。
「とりあえず、帝都の外の私達の別荘に、その人を住ませることにしようと、エドマンドと私達が話し合って決めて、エドマンドがそのことを告げに、その人の所に向かったら、いなくなっていたの。エドマンドも両親と話し合っていることをきちんと手紙等で連絡すればいいのに、私達に何も言ってない段階で連絡を取ったら、その人がより誤解を深めるのではないか、とつい考えすぎてしまって。おそらく連絡が来ないことで、将来を悲観したのね。万が一のことが無ければいいけど」
ヘレナ母さまも、それ以上は言わなかったが、私には、万が一の意味が分かってしまった。
彼女は自殺してしまったかもしれない。
子どもを妊娠して、自殺するというのは、教会からすれば最大の重罪だ。
もし、遺体が見つかっても、司祭様に依頼して葬儀を挙げることさえ絶対に許されない。
私は、何て事をしてしまったのだろう。
エドマンド義兄さまの血を承けた子どもごと、エドマンド義兄さまの愛人を死へと追いやったかもしれない。
エドマンド義兄さまが憔悴して、自室に引き籠ってしまうのも当然のことだ。
私は、知らなかったのだ。
エドマンド義兄さまの通いの愛人が妊娠していたなんて。
だから、その時の私は悪くない、そう私は自分に自分で言い訳をしたが、自分でもその言い訳は空しく響いた。
だって、あの時、私は目で言ってしまっていた。
もし、エドマンド義兄さまの愛人が妊娠して、私と同居することになったら、その愛人をいびり殺すと。
それなのに、今回の一件で、いざ、エドマンド義兄さまの愛人が本当に自殺に追いやられてしまっていたのだとしたら、私は悪くないと胸を張って、私は自分に対して言えるだろうか。
言えるわけが無かった。




