第2部ー26
フローレンス姉様の下を辞去した後、馬車の中、更には帰宅した後、オリヴィアの相手をしながら等、私はずっと自分が皇后に立つことについて考えた。
フローレンス姉様は、もう還俗するつもりはないという。
それなら、私がエドマンド様の横に皇后として立つことに、本来、障害は何もない。
フローレンス姉様は、世間から離れた、ある意味、死んでいるも同然の状態なのだ。
ある意味、夫が、死んだかつての恋人のことを想うようなものなので、妻となる私が気にしなければ済むことなのかもしれない。
だが、エドマンド様の傍には、そういう人がいっぱいいる。
フローレンス姉様、イザベラ様、ローラさん。
イザベラ様は、生きておられるとはいえ、完全に精神を病まれていて、私でさえ会えない。
エドマンド様は言わずもがなだ。
ただ、イザベラ様のおられる修道院から、イザベラ様の病状を聞いては、少しでも良くなるように神に祈りを捧げてほしいと、修道院に寄進をされるのが、エドマンド様の精一杯だ。
ローラさんに至っては、本当にこの世を去られている。
エドマンド様は、まだ20代前半のお若さなのに、多くの愛する人を失われている。
考えてみると、夫にするには、重い人だ、と私には思えてきた。
タバサ大公妃殿下が、事実上離婚したいと言われるのも、私には無理がない気がする。
私なら、エドマンド様を救えるのか、と誰かに聞かれたら、いいえ、と答えざるを得ない。
私の力では救うことはできない。
だが、少しでもエドマンド様の横に立って、負担を分かち合うことだけはできると思う。
私はそう思った。
私は、エドマンド様に宛てて、あらためて手紙を書いた。
そんなことをしなくても、エドマンド様に私が逢おうと思えば、基本的にいつでも逢えるのだから、そんな必要はないのだが、自分の考えを手紙を書くことで整理したかったのだ。
「エドマンド様、私は求婚を正式にお受けし、皇后に立ちたいと思います。オリヴィア、サムエルの正式な養母にもなろうとも考えます。もし、私に実の息子が出来ても、サムエルがいる限り、サムエルを皇太子として、もしもの際は、私は皇太后として、サムエルを皇帝として支え続けます。云々」
私は、自分の思いを率直に書き連ねていった。
最初に結論を書いた。
そうしないと、自分の考えがぶれそうだったからだ。
そして、自分の心情を吐露して行く。
タバサ大公妃殿下ではないが、私とて、自分のお腹を痛めた子が出来たら、エドマンド様の後を継ぐ皇太子に我が子を立てたい。
だが、サムエルがエドマンド様にはいる。
長幼の順、生母の格(サムエルの母は、皇女イザベラ様なのに、私は皇族に過ぎない)から言っても、サムエルを皇太子に、エドマンド様は立てざるを得ない。
それに表向きは、サムエルは、先代のアーサー皇帝陛下の同父母弟なのだ。
エドマンド様が皇位に就かれる方が異常と言える。
だから、この点については、私は耐えるしかない。
気が付けば、涙が溢れていて、手紙を書けなくなっていた。
本当にエドマンド様が好きなの、と誰に問いかけられても、私は、好きです、と即答するだろう。
好きな人と結婚できて、皇后に立てられて、女として何が不足なの、と大抵の人が言うだろう。
エドマンド様が、あなたの事を愛していないの、と不思議がられたら、違います、と私は答えるだろう。
エドマンド様は、私の事を確かに愛して下さっていると私は思う。
でも、エドマンド様の傍には、いろいろな愛の結晶が溢れかえっている。
それを考えてしまうと、自分には重い相手なのだ、エドマンド様は。
知れば知るほど、その人との愛が重荷になりそうな人、エドマンド様は、本当にそんな方、私はそう思えた。




