フローレンスー4
ジェーンが私の下を去った後、私は一息ついた。
何とか、ジェーンを言いくるめられた。
俗世に未練はないか、エドマンド義兄様に未練はないか、と言われれば、本当は未練がある。
もし、ジェーンではなく、エドマンド義兄様にそう私が問いかけられたら、私は顔に出してしまい、未練があると言ってしまうかもしれない。
だが、もう遅いのだ。
エドマンド義兄様の傍には、私が画策したことでもあるが、ジェーンがいるのだ。
私には、二人を引き裂くことは赦されない。
ローラさんに続き、ジェーンからもエドマンド義兄様を奪うこと等、赦されるわけがない。
それに。
私は更に想いを巡らせた。
この世界では、私はエドマンド義兄様の傍で、妻として立つのには、私の性格からは向いていない。
何故なら、この世界では、妻は夫の陰で三歩下がって寄り添うべし、というものなのだ。
だからこそ、男性が二人の妻を持つのを認めているともいえるが。
私は、前世の記憶の影響もあるのだろう、どうしても前に出過ぎてしまう。
エドマンド義兄様は、大目に見てくれるかもしれないが、私とエドマンド義兄様が結婚したら、周囲の人からは、何だ、あの女は、と私は見られてしまうだろう。
そうなると、エドマンド義兄様の評判まで落とすことになってしまう。
そう考えると、私とエドマンド義兄様が結婚するのはよくないだろう。
むしろ、私は考えを切り替えた。
私は教皇になってみせる。
エドマンド義兄様が皇帝に即位した以上、私が教皇になれば、帝室と教会は友好関係を結べるだろう。
私もエドマンド義兄様もまだまだ若い。
共に長命して、帝室と教会との理想的な関係を築いていこう。
私の才能と血筋をフルに生かせば、決して不可能な話ではない。
私は、将来のことについて、そう考えた。
そして、あらためて、エドマンド義兄様とジェーンが築く新しい家庭の事に想いを馳せた。
ジェーンが皇后か、タバサ大公妃殿下が辞退すると言った以上、そうなるのが自然だろう。
タバサ大公妃殿下は、皇貴妃の称号こそ保持されるのだろうが、あの態度からすると、宮中に住まれるおつもりはないのだろう。
宮中には、オリヴィア以外にサムエルもジェーンを養母として同居することになるのだろう。
サムエル。
私は、サムエルの実母、イザベラ殿下の病状を想った。
おそらく、誰かが一服盛ったに違いない。
食事に混入したのか、祈りの際に焚くお香の中に混入したのか、機会は幾らでもある。
阿片系の麻薬が使われたようだ。
教会内部の上級聖職者の誰かが、自発的に帝室の事を慮ってやったのではないか。
または、私に対する警告の意味を込めているのかも。
私はそう睨んでいたが、調査の手を伸ばすつもりは全く無かった。
余りにも深い闇が広がっていそうだ、下手に調査に手を付けると、私に本当に使われる危険がある。
食事や祈りの際に常に複数の人間と行動を共にすること等で、私は危険を避けることに努めていた。
私は、教会の会計を改善し、それによって力を蓄えているが、これはこれで従前、甘い汁を吸っていた人物の関係者から恨みを買っている行動でもあるのだ。
そんなことを私がいろいろと考えていると、いつの間にか、かなりの時間が経っていたようだ。
先輩の修道尼から、それとなく注意を私は受けた。
「フローレンス、そろそろ夕方の祈りの時間ですよ。共に礼拝に向かいましょう」
「はい」
私は、表面上は明るく答えて、先輩と共に礼拝堂に向かった。
そして、内心では更に思った。
来世では、もっと女性が自由に活動できる世界に生まれ変われますように。
そして、エドマンド義兄様と、また、巡り合えますように。
エドマンド義兄様、来世では、今度こそ、私と結婚してね。
余りにも闇のままというのは、どうかと思ったので。
イザベラが精神を病んだ原因について、フローレンスの推測を描くことにしました。
なお、これはあくまでもフローレンスの推測です。
実は、イザベラの兄アーサー等が手を下していたという可能性も。
ですが、死人に口無しですし、エドマンドやジェーンは性格上、そこまで人を疑えないので、小説上では闇のままということにさせてください。




