第2部ー25
「久しぶりね。ジェーン」
私との面会の場に現れたフローレンス姉様は、私に朗らかに言った。
本当に暫く私と逢わない間に、更にフローレンス姉様は、お綺麗になられたように私には見える。
フローレンス姉様は、エドマンド殿下の本心に気づいておられるのだろうか。
私はためらいながら、すこしずつ口を開いた。
「フローレンス姉様は、本当に還俗するつもりはないの」
還俗する、つまり、修道尼、又は尼僧としての生活を辞めて、世俗の世界に戻るということだ。
私の問いかけに、フローレンス姉様は、目を見張って、少し沈黙してから言った。
「私は、生涯、修道尼、尼僧として暮らすと、前にも言ったと思うけど」
「でも、今なら、フローレンス姉様が、還俗すると言えば、誰も反対する人はいないわ。もし、少しでもフローレンス姉様が世俗の世界に未練があるのなら」
私はそれ以上は言わなかった。
なぜなら、思わず、続けて私は言いそうになったからだ。
そして、エドマンド殿下に、フローレンス姉様が、本当に少しでも未練があるのなら、と。
フローレンス姉様が、エドマンド殿下に未練がある、と本当に言ったら、私はどうすべきなのだろう。
もし、そうならば、エドマンド殿下とフローレンス姉様は、相思相愛の間柄なのだ。
幾ら、私がエドマンド殿下が好きでも、私が入り込む余地等、無くなってしまう。
そんなことになったら。
私は、とてもつらい。
大好きなフローレンス姉様と、エドマンド殿下を取り合う関係になってしまうし、私は、エドマンド殿下とおそらく寄り添えなくなってしまう。
それは、絶対に嫌だ。
私の想いに全く気付いていないのか。
フローレンス姉様は、首を傾げながら言った。
「私は、現世に未練は全く無いわ。神に生涯を捧げるつもりよ。将来は、教皇になって見せるわ」
「フローレンス姉様」
私は、思わず安堵しながら言った。
フローレンス姉様が還俗するつもりが無いということは、エドマンド殿下の傍に、私はこのまま居ることができるということだ。
「わざわざ、そんなことを言うために、私の所に来たの」
フローレンス姉様は、不思議そうに言った。
フローレンス姉様は、私の想いに全く気付いていないのだろうか。
いえ、気付かないままでいて。
私は、表面上は何事もないかのように、際どいとは思ったが、話を変えた。
「エドマンド殿下が、皇帝陛下に即位することになったの。そして、タバサ大公妃殿下を、エドマンド殿下は皇后に冊立しようとしたのだけど、タバサ大公妃殿下は辞退されたの。そして、サムエル殿下を私とエドマンド殿下の養子にして、私を皇后に冊立するように、タバサ大公妃殿下から提案があって、エドマンド殿下から私にお話があったの。わたしはどうしたらいい?」
私の問いかけに、フローレンス姉様は、即答した。
「それを受けなさい。ジェーン」
えっ。
私は息を呑んでしまった。
「ジェーン。あなたは、エドマンド殿下が好きなのでしょう」
フローレンス姉様の問いかけに、私は声が出ないまま、肯いた。
「そして、エドマンド殿下から、そういう話が来る。相思相愛と言うことじゃない。本当にいい話だと私は思うわ。私は大賛成よ」
フローレンス姉様は、私の背中を盛大に推した。
そうよね。
私はエドマンド殿下を愛しているし、エドマンド殿下も私を形代としてかもしれないが、愛して下さっているのだ。
相思相愛と言うことならば、何も問題は無い。
いえ、エドマンド殿下の愛を疑うべきではない。
最愛の人の心の中に、別の人がいる。
そして、その人の形代として私は愛されている。
そんなふうに、私がエドマンド殿下の愛を疑うのが間違っている。
そんな疑念を持っては不幸になる。
そうだ、そう思おう。




